71 無意識の惚気は突然来る-2
「うん、とにかく篠崎さんの気持ちはわかったよ。その上でもう一回訊くけどさ、上がっていかなくていいのー ?」
「えっと……」
やや食傷気味の弥は、乾いた笑いと共に問いかける。
たっぷり十秒ほど考え、如奈は答えを返した。
「今日は、やめておくわ」
「え ? ……え、いいの ?」
弥はてっきり上がっていくと返される予想をしていた。しかし、それとは真逆の返事をされたため、つい聞き返す。
「うん。今日は、その、勢いで来ちゃったし、桐生君にも迷惑になってしまうし……」
「いや、僕は平気だけど」
「ありがとう。……それに、睦人も今は私に会いにくいみたいだから」
「今は ?」
弥に聞き返され、如奈はこくりと頷く。
「私ね、その、睦人が何も言ってくれないことに不満を持っていたんだけどね……えっと、自分も大切な話をする時はすぐに決心できなくてね」
如奈の脳裏には、つい先日、睦人を相手に話をなかなか切り出せなかったことがよぎった。
「今は会いにくいっていうなら、少し待ったほうがいいかな、って思ったの。……会いたいのは本当なんだけどね」
「……」
如奈の返答に、弥はしばし反応を示さない。
「……篠崎さん」
「うん、なあに ?」
間をおいて発せられた声は、一段階低かった。
「質問ばっかりで悪いんだけど、篠崎さんは、みゃーこさんと、もう会えないとは考えないの ?」
「……え ?」
「いや、仮定の話なんだけどね……会いにくいって言われて、もう会えない、とか……」
問う弥の語尾は弱弱しく、消え入りそうなほどであった。
「……考えてなかったわ」
本当に全く考えていなかったのか、如奈は驚いたように返す。
「そっか。……うん、ありがとう」
礼を述べるとともに、弥はニコリと笑みを貼り調子を戻した。
「篠崎さん、長々と引き留めてごめんねー。あ、あとお土産もありがとう」
「え、えと、ううん、こちらこそありがとう。えっと、桐生君、明日は学校来られる ?」
「うん、明日は学校行くから、また明日ねー」
「ええ、また明日。あ、睦人によろしくね」
「うん、任せてー ?」
簡単な挨拶を交わし、如奈は弥の家を後にした。
その後ろ姿を見送ると、弥は家の中に姿を消える。そして足早に睦人のいる居間に戻った。
「ひどい目にあったよ !!」
開口一番にそう言い放った。
「ど、どうしたんだ弥 ?」
突然の大声に睦人は怯むが、弥は真剣な様子で続けた。
「みゃーこさん、ちょっと心して聞いてね」
「あ、ああ」
「今ね、篠崎さんが来てね」
「……え」
篠崎、というワードに睦人の反応が瞬間遅れるが弥は止まらない。
「みゃーこさんが好きなんだって」
「…………え」
「篠崎さんが、みゃーこさんが好きで、好きだから会いたいんだって」
「………………」
睦人は言葉を失った。突然もたらされた衝撃が大きすぎて、処理が正常に行われなく、何と返して良いかがわからなかった。
ただ、手中の箸を真ん中から二つに折ってしまい、追って顔が耳先まで真っ赤に染め上がった。
「うん、予想通りの反応ありがとう」
「あ、あ、いやこれは、えと……ああ、すまない箸が……」
「いやもう箸とかいいよ。百均でも買えるし。……それより、みゃーこさん」
「な、なんだ」
「今から大切な話をします」
そう言うと、弥は湯呑のお茶を一気に飲み干し、一度落ち着いた。




