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ドリンクB  作者: マコ(黒豆大福)
プロローグ
70/78

70 無意識の惚気は突然来る-1


「えっと、桐生君、今大丈夫 ? あ、これ、つまらないものですが」


 緊張した面持ちで早口に述べると、如奈はケーキ屋のロゴが入った紙袋を弥に渡す。


「ああ、ありがとう。時間は平気だけど……あれ、篠崎さんどうやって僕の家の場所知ったの ?」

「えっと、山寺君に教えてもらったの。ごめんなさい、許可もなく」

「あー……そういえば山寺君は知ってたねえ。いいよ、出所が知りたかっただけだし」


 明らかにほっとする如奈に弥は苦笑を漏らす。


―――僕も篠崎さんの家の場所知ってるしね。


 弥の場合は成り行きで知っただけで知ろうとしたわけではないが、それでも勝手に知ったことに変わりはない。


 そのことは口にせず、弥は話を進めた。


「で、篠崎さんは何の用なの ? あがっていくー ?」

「ううん、長くはかからないからここで。……えっと、親しくっても、一人暮らしの高校生男子の家に、その、気軽に上がっちゃダメだって」

「ああ、一人暮らし、ってことも聞いてたの」


 一人暮らしの高校生男子、という限定の仕方が気になったが、以前に睦人にでも言われたのだろう、と弥は推測する。それと同時に、如奈が来た用事もなんとなく察した。


「えっとねー、みゃーこさんなら、今はここで療養中だよ ?」

「え……睦人、桐生君のお(うち)にいるの ?」

「うん。色々あって家でお預かりしたんだー。体調は大分回復したよー。多分、明日には学校にも行けるはず」

「そう。……えっと、桐生君は ?」

「ん ? 何 ?」

「えっと、桐生君は体調大丈夫 ? 風邪ひいたとか、ある ?」

「……ああ、そういう。うん、大丈夫だよ。寧ろ普段より良いかも」

「そう。良かった……」


 茶化すように弥は言うが、如奈はほっと安堵の息を吐き、喜色を表した。


「あのね桐生君。昨日はありがとう。えっと、桐生君が来てくれて、本当に助かりました」


 ぺこり、と如奈は深く一礼をする。


 弥は一瞬きょとんとするが、如奈はさらに続けた。


「あ、あと、今日休ませることになって、その、ごめんなさい。皆勤賞、ダメになっちゃって」

「……」


 弥は瞠目し、二、三回瞬きをする。


 そして、こらえきれないとばかりに吹き出した。


「あははは ! あー、うん。そっちも気にしないでいいよ。僕、別に皆勤賞は狙ってないから」

「そうなの ?」

「うん。休めてラッキー、くらいに思ってるし」


 一通り笑い終わると、桐生はそれでも収まらないのか口角が上がったままである。その表情のまま、違う話題を切り出した。


「篠崎さんさー、みゃーこさんに会いたいんじゃないの ?」

「うん。会いたい」


 如奈は即答した。


「だよねー、そのために来たんだと思ってたから」

「あ、もちろん桐生君にお礼を言うのもあったし、えっと、感謝してるのも本当よ ?」

「さすがにそれを疑ったりはしないよー。でも、思ったよりも気を配ってもらえてたみたいで驚いた」


 あはは、と漏らすと一息ついて弥は切り出した。


「みゃーこさん、篠崎さんに今ちょっと会いにくいんだって」

「……え ?」

「会いたくない、とかじゃないんだけど。でも会いにくい、みたいな」

「そう……」


 目に見えて如奈は凹んで見せる。


 そんな如奈に対し、弥は瞳に弧を描いて、興味深そうに尋ねた。


「ねえ、篠崎さんはどうしてみゃーこさんに会いたいの ?」

「どうして…… ?」

「うん。いやね、もしみゃーこさんに伝えられることがあったら、僕から言っておこうかと思って」


 そうは言うが、弥は如奈の答えに興味津々という様子だった。


 如奈はしばし考え込む。そして、自分の思いを何とか言葉に表した。


「えっと、学校にいるときはね、その、昨日のこととか、この間のこととか……えっと色々とあってね、それを訊きたいなー、って思ったんだけどね」

「うん」

「でも、最近は教えてくれないこともあって、それが寂しいな、とも思うんだけど……だから会いたいのかっていうと違う気もしてね」

「……うん」


 しどろもどろとする如奈に、弥はつい結論を急いてしまいそうになる。


 しかし、突然の質問をしたのは弥であるし、如奈が一生懸命伝えようとしてるのを知っているために言葉を飲み込んだ。


「えっと、何で会いたいか、っていうとね」

「うん」

「好きだから、だと思うの」

「うん ?」

「うん、睦人が好きだから、会いたいの。会って、無事だってわかって、一緒にいてほしいから、会いたいの」


 言っているうちに、如奈は考えが整理されたのか、はっきりと断言した。


 好きだから、会いたいのだと。


 考えに感情が追いついたのか、喜色満面、それ以外の負の感情などない純粋な思いを言葉に乗せて弥の問に答えた。


「……篠崎さん」

「うん、なあに ?」

「何か、ごめん」

「え、えっと、どうしたの桐生君 ?」

「いや、ちょっと篠崎さんのこと舐めてたというか……盛大な惚気にあったというか。うん、ごちそうさまです」

「え、えっと……お粗末様です ?」


 弥の呟きに如奈は混乱する。


 弥は補足をしたりはせず、ただただ自身の考えの甘さを思い知った。


―――みゃーこさんが篠崎さんを好きなのは、吸血鬼のことが関係してると思ってた。


 弥は、睦人が今悩んでいるように、睦人が如奈を好きなのは少なからず吸血鬼の本能が関係していると思っていた。


 しかし、そう思い込むのは早計だった。


 如奈のほうも、ただ純粋に睦人に対し好意を抱いており、それを隠したりしない。弥は、その好意の大きさを過小評価していたのだ。


―――十年以上こんな相手といたら、感覚がマヒするかも。


 睦人は普通の高校生と比べて真面目なほうである。それなのに、如奈への好意については普段からダダ漏れだ。


 隠しきれない本能ゆえかと、弥は考えていた。


 しかし、その予想は違うのだと、弥は確信してしまった。


 睦人の好意は、ただ単に、俗に言うバカップルと大差ない。


―――向けられる好意に対して、自分も返してるだけなんだね。


「……なんで付き合ってないの ?」


 弥は、小さく疑問を漏らした。


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