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ドリンクB  作者: マコ(黒豆大福)
プロローグ
69/78

69 お風呂とご飯には癒される-4


「……」


 睦人が黙ってしまい、二人の間に静寂が降りる。


―――何かあったのかな、篠崎さん関係で。


睦人の表情が苦々しいことに弥は気付いている。しかし、その詳細までは当然知らない。


如奈に迷惑をかけた、それで気に病むことはあるだろうが、明日も学校はあるのだから会ったときに謝ればいいのだ。睦人の方に故意があったわけでもないのだから、苦悶に表情を歪め思いつめるほどのことではないだろう。


―――血が関係する事かな。


弥は幼馴染が居ないので推測でしかないが、十年以上の付き合いがあるならば日常で起こるトラブルは対処できるであろう。今回も、交通事故、ということは日常から外れるが心配をかけたことは事故の範疇に無い。


すると、睦人の中で血に関する何か後ろめたさが如奈にあるのだという推論が立つ。


―――まあ、断定はできないから何とも言えないけど。


「ほかに、何か質問ある ?」

「いや、大丈夫だ……」

「そう ? まあ、あとで何か出て来たら言ってね」


―――みゃーこさん、本当に篠崎さんにしか興味ないよね。


 先に弥がある程度のことに答えていたとはいえ、如奈のことしか質問が来ない、というのは意外であった。


 如奈にしか興味がないのか、それ以上に悩ましいことを今抱えているのか。


 どっちにしろ、睦人の思考が如奈でいっぱいなことは確かであった。


「そんなに思いつめなくとも、篠崎さんには会ったときに謝ればいいんじゃない ? みゃーこさんもわざとやったんじゃないし、寧ろ事故の被害者なんだから」

「……会ったときに、か」


 的外れと知りながら、弥は表面上の問題を慰めにかかる。


 ポツリ、と睦人から漏れたのは意外な言葉だった。


「会いたくないの ? 篠崎さんに」

「会いたいが、……会いたいんだが」


 会いたい、と即座に返されたことに弥はなぜか気恥ずかしくなった。


 日常を生きていて、誰かに会いたいと明確に思うことが弥にはなかった。付き合ってはいないのだろうが、何だかとんでもない惚気話を聞いている気持ちになった。


「何で会いたいかが、わからなくて……」

「……ああ、そういう」


 何で会いたいか、その言葉の含意を弥は察する。


 血を美味しそうだと思うことに、睦人は引け目を感じている。


 そして、それが判明した直後に如奈と会いたい理由に悩む。


―――篠崎さんを、美味しそうだと思ったのか。


 言葉だけ聞けばただの惚気だが、睦人は本当に直接的な意味で言っている。


 悩む睦人とは対照的に、弥は微笑み思いを口にした。


「みゃーこさんって、誠実だね」

「誠実、ではないだろう。寧ろ最低なことを考えてると思うが」

「そう ? 会いたいとか、もっと言っちゃえば相手を好きなこととか、一々理由考えるのは誠実だからだよ」

「慰めてくれるのは、嬉しいが……」

「いやいや、本当に。僕、自分が相手を好きな理由とかどうでもいいし。……わりと酷い理由で好きになったりするし」

「…… ?」


 そういう弥の瞳は、目の前の睦人を向いてはいるが、どこか遠くを見ているように細められた。


 弥の言葉に、睦人は疑問符を浮かべる。そして、同時に踏み込んで良いことなのかを葛藤した。


 二人の間に再び沈黙が降りる。


 そして、静寂を破るように軽快なチャイムが響いた。


「えっ ?」

「あー、玄関の呼び鈴だね。……でも誰だろう ? ちょっと見てくる」

「あ、ああ……」


 弥はチャイムに反応し、一言言って立ち上がる。


 その瞳は普段の色に戻っており、睦人は話に踏み込むタイミングを失った。


「はーい、今出ますよー」


 来訪者を確認するために、弥は覗き窓のない横開きの戸を開ける。


 すると、そこに立っていたのは見知った人物であり、弥は僅かに瞠目した。


「あれ、篠崎さん ?」

「こんばんは桐生君。えっと、いきなりごめんなさい」


 学校帰りであろう如奈が、小さな紙袋を抱えて立っていた。


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