72 会話の痛手や反省は遅れてくる
夕日に照らされた道を如奈は一人進む。足取りに不安こそないが、その足は普段よりも重く、視線も俯いていた。
「……ふう」
吐き出される息は憂慮を滲ませ、落ち込んでいます、という様子を隠せていなかった。
―――会いにくい、か。
納得して自ら帰宅を選んだのだが、胸中には先のやり取りが渦巻く。
会いたい、と思い勢いのまま赴いたが、返って来たのは幼馴染からのやんわりとした拒絶であった。
「初めて言われたなあ……」
会いたくない、と言われたわけではないが、十何年の付き合いになる幼馴染からの初めての拒否は如奈が思うよりも深い痛手を負わせていた。
そこに、弥からの言葉が追い打ちをかける。
―――睦人に、もう会えない……。
「……ううん、これは仮定の話なんだから」
首を振り、込み上げてきた思いを散らす。
「睦人が、何も言わないで会ってくれなくなるなんて、えと、そんなことないって、私が一番知ってるはず…… !!」
そう言って、如奈は過去十年以上の付き合いに思いを馳せる。
過去の、如奈が知っている睦人は、揉めたりしたことはあるが一方的に交流を絶つようなことはしない。
「私が、一番……」
呟き、如奈は自ら墓穴を掘ったことを悟る。
―――最近、睦人は話してくれないことが増えた。
睦人のことで知らないことが増えたこと、それが先日の己の不手際に繋がったことを如奈は思い出した。
―――そうだ、それを寂しく思ったから、私は睦人と……
―――えっと、喧嘩、はしてないわよね ? ……すれ違い ? えっと……
―――軋轢が生じる ? ……えと、とにかくそう言った状況になっているんだった。
「反省、しないと……」
昨日の帰り道、如奈もいざ話そうとしたら躊躇してしまい、結果として事故の原因は自分だと思い込むことになったのだ。
それなのに睦人が話をしてくれないことを寂しく思うことは、お門違いであったことを如奈は恥じる。
「とにかく、今は、できることをして睦人を待とう」
そう言って、再び沈みそうになる気持ちを無理矢理浮上させる。
「今日からまた修行も始まるし、木登りを上手くならないと……!」
如奈は自身を奮い立たせると、胸中の不安を追いやろうとする。
ふと、如奈の脳裏に先のことが蘇る。
その中で一つ、気になることが浮かんで来た。
「そういえば……」
ポツリ、と如奈は漏らす。
「桐生君、なんであんな事言ったのかしら…… ?」




