表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ドリンクB  作者: マコ(黒豆大福)
プロローグ
67/78

67 お風呂とご飯には癒される-2


 せっかく用意してもらったのだから、と睦人は湯船に浸かる。乳白色の湯は柔らかく、体を芯から温めてくれた。


「……」


 落ち着くと、睦人の脳内には多くの疑問が溢れてきた。


 なぜ弥の家にいるのか。今はいつなのか。事故はどうなったのか。轢かれた方は大丈夫か。


―――如奈(ゆきな)は無事なのか。


「如奈……」


 呟くとともに、顔の半分ほどまで湯につける。


「……」


 人の三歳以前の記憶は曖昧になると言われるが、睦人の記憶は二歳ごろからはっきりと残っていた。


 二歳の冬に、初めて如奈と出会った。それから幼稚園、小中学校とずっと如奈とは一緒に過ごしてきた。


 高校も一緒になったが、当たり前のことだと睦人は思っていた。


「……ぶぶ」


 目の下まで浸かり水中で息を吐く。


 唯一と言っていい、如奈について忘れていた記憶があった。できれば一生、忘れていたい記憶だった。


 如奈が轢かれた、十年前の事故。正確には、その時の自分の心境を。


「……ぶぶぶ」


 自覚した今、それは睦人の心に強く深く刻まれてしまっている。


―――あの子から流れる血が、美味しそう。


 忘れていたと言ってはいるが、それは毎晩毎晩、繰り返し夢にまで見た状況だった。


 本当は、忘れてなどいなかったのではないか。目を逸らしていただけで、心のどこかでいつも思っていたのではないか。答えのない疑問ばかりが睦人の心中に渦巻く。


―――一緒にいたのは、美味しそうだと、思ったから ?


―――如奈に会いたい。でも、それは、何で ?


「……ぶぶぶぶ」


 思い返すとここ最近、睦人は如奈に迷惑ばかりかけていた。


 大好きなはずなのに、目を閉じても笑顔が思い出せなくて。悲しませた顔ばかりが浮かんできて。その事実が睦人をさらに追い詰める。


―――血濡れの肢体なら、嫌でも見せられるのにな。


「……ぶぶぶぶぶ」


 頭の上まで湯に沈んでいったが、睦人はそれに気が付かなかった。




「あれ、みゃーこさん、随分温まったんだね」


 風呂から居間までやって来た睦人を見て、弥はそんな感想を漏らす。


 睦人は全身が真っ赤になるほど茹っており、体からほこほこと湯気が上がっている。


 文字通り全身を湯に入れた睦人は、寝起きかつ空腹の状態であったこともあり、危うく風呂で溺れる寸前にまでなったのだった。


「脱水になったら危ないからねー。はい、牛乳」

「……ああ、わるい」


 湯あたりしふらつく睦人は、弥から牛乳の入ったコップを渡されると一息にそれを飲み切った。


 冷たいそれは火照った体に染みわたり、睦人の空腹感も僅かに落ち着いた。


「美味しい……」

「そう ? おかわりいる ?」

「いや、大丈夫だ。ありがとう」

「どういたしましてー。でも、みゃーこさんってお風呂はゆっくり入る派なんだねー。もしかしたら溺れてないかな ? って心配しちゃったよ」


 あはは、と弥は笑うが、本当に溺れかけたとは言えず、睦人は苦笑を浮かべるに終わった。


「そうそうみゃーこさん。ご飯出来てるよ、食べよー ?」

「本当に、何から何まですまない……」

「気にしないでよー、好きでやってるんだし」


 そう言って、すでに二人分の配膳が終わったテーブルに睦人を着席させる。


 そこに並んだものを見て、睦人は思わず目を見開いた。


「弥」

「んー ?」

「これ、お前が ?」

「え、そうだよー。嫌いなものでもあった ?」

「いや、そういうことじゃなくてだな……」


 並んだものに再度視線を送り、睦人は二、三度瞬きをする。


 ほかほかと湯気を立てる卵粥は淡く色づき、散らされた白ゴマが上品に輝いている。


 わきに並ぶ梅干しや山菜は、色味が薄く自家製であることが窺える。鶏そぼろは醤油と砂糖のシンプルながら馴染み深い薫りがし、空腹の胃を掻き立てる。


 味噌汁は大きめに切られた根菜が数種類入っており、大きめの椀にたっぷりとよそられていた。


「……」

「冷める前に食べよー ? あ、みゃーこさん暫く食べてないから胃も弱ってるだろうし、食べられるだけでいいからね ?」

「あ、ああ。……いただきます」

「召し上がれー」


 手料理であるという事実にに圧倒されながら、粥を少し口に入れる。

「…… !」


 ふわりと優しい味が口に広がる。じわじわと遅れて卵の甘さと白ゴマの風味が舌に感じられ、嚥下すると胃にじんわりと温かさを覚えた。


 久し振りに口にする、温かい家庭の味だった。


「弥」

「んー ?」

「……料理、うまいんだな」

「え、そう !?」


 睦人の飾りのない感想に、弥は喜びを声にのせる。


 初めは遠慮がちであったが、睦人は暫く無言で食べることに集中する。


 色々と気になることはあるのだが、それ以上に体からの空腹の訴えが大きかった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ