66 お風呂とご飯には癒される-1
ふわり、と自然に目が覚めた。
「……ん」
横になったままで、睦人は二、三回瞬きをする。
長時間寝て睡眠欲が薄まったこともあるが、それ以上に空腹の訴えが大きくなってきたために目が覚めてしまった。
そして、目に入って来た見慣れない光景に疑問符を浮かべる。
「ここは…… ?」
「みゃーこさーん、目が覚めたー ?」
スパン !! と襖の開く軽快な音とともに、弥の呼び声が響く。
呼ばれて起き上がると、睦人は目前の弥に視線を送る。しかしその瞳はとろけ、まだぼんやりと意識は眠りの淵を漂っていた。
「…… ?」
「あれ、寝ぼけてる ? おーい ?」
「……ああ、そうか」
徐々に覚醒するとともに、睦人は状況を思い出し眉根を寄せる。
事故の後、睦人は気が付くと弥の家の布団に寝ており、起きると同時にパニックを起こして気絶するように再び寝入ったのだった。
「お、起きたねみゃーこさん。そうだ、起きて早々で悪いんだけど、ご飯にする ? お風呂にする ? ……と言ってもご飯は今作ってるから先にお風呂入ってきてねー」
「え」
「制服はこっちで洗えるところは洗っといたから。みゃーこさんの着替えだしとくからねー。あ、もちろん下着はちゃんと新品の出すよー」
「あの」
「もし体調悪くなちゃったら、大声出すか大きな音出すかして呼んでねー。あ、家古いから何処か壊れるかもしれないけど、あんまり気にしないでいいからー」
「弥 ?」
考える隙を与えないほどの速さで話され、睦人は止めようと呼びかける。
一応弥も止めはしたが、会話の主導権を譲る気は一切なかった。
「ん ? どうしたの、まだ眠い ? でもご飯出来ちゃうからそろそろ起きてくれるとありがたい」
「いや……うん、色々言いたいことがあるがちょっと待ってくれ」
「うん、でもそういうのはご飯食べながら話そうよ、長くなりそうだし。だからまずはお風呂―」
「いや、長々と人様の家で寝て置いて、さらに世話になるのは……」
「大丈夫だよ、僕が攫ってきたようなものだし。準備も勝手にしたものだから気にしないで」
「攫った…… ? いや、しかし……」
「引け目感じてるなら、家主の言うことには従ってほしいなー。ほらほら起き上がってー」
布団を剥ぐようにして、半ば無理矢理睦人を起き上がらせる。
「弥 !?」
「ほーら、入った入ったー。大丈夫だよ、覗いたりしないから」
「いやそういう話じゃ……。というか、同性だし覗かれる心配とかは別にしていない」
「え、覗いていいの ?」
「違う !!」
そして風呂場まで引っ張っていく頃には、睦人も抵抗する気はほぼ失せており渋々押し込まれる。
「脱いだものは籠に入れておいてねー。真水じゃないから水道水でも大丈夫だろうけど、一応入浴剤は適当に入れておいたからー。タオルとかは出しておくから、ごゆっくりー」
「……ああ」
もう余り真面目に聞く気もないのか、睦人は気の入ってない返事をする。
「……」
弥が居なくなると、睦人は服を脱いで浴場に入る。ほかほかと湯気を立てる湯船から湯を掬って顔を洗うと、思っていたよりもスッキリとした。
「……ふう」
体を温めると、睦人は大分落ち着いたような気がしたのだった。




