52 夢ならよかったのに-1
特別の理由がある場合を除いて、学生は平日であれば学校に行く。特に高校は、義務教育ではないために出席管理も学生は気遣わなくてはいけない。
多くの生徒は、望む望まないに関わらず理由なくクラスメイトに会うことになる。
「……」
「……」
睦人と如奈も例にもれず、共に勉強した翌日には学校で顔を合わせていた。そして、互いに無言のまま帰路についている。
(一応、謝罪はしたが……)
朝一番、教室で会うなり睦人は如奈に謝罪をした。土下座一歩手前のそれは鬼気迫るものがあり、如奈も恐縮しつつではあるが受け入れてくれた。なお、周囲の目など気にする余裕はなかった。
そして、如奈も自身が泣いてしまったことを謝り、睦人は謝罪を受け入れた次第である。
しかし、まだ二人の間にはぎこちなさが残っているのだった。
(結局、俺は何を言ってしまったんだ……)
睦人は、自分が悪いことはわかっていても、自分の『なに』が悪かったのかは未だにわかっていない。ほぼ一晩考えてみたが、さっぱりわからないままに朝を迎えてしまったのである。
加えて、もう一つわからないことがあった。
(それに、如奈はなんで謝ったんだ ?)
昨日の件について、如奈に非があるわけはない、というのが睦人の認識である。
如奈は基本的には良い子である、と睦人は思っている。昔、他者に悪口を言えず喧嘩になると感情が表せないことが多々あり、解決策として直接的な表現を避けて『メダカ(すくいようがない)』だの『水平線』という言葉を使うことにした、という思い出がある。
解決してるかはわからないが、当時小学生だった二人はそれで納得していた。
そういった如奈ではあるが、理由なく睦人に謝罪することはあまり考えられなかった。
互いに謝意を表したものの、諸々の根本的な原因は何もわかっていないままなのである。
(訊くタイミングを図っていたら、放課後になってしまった……)
共に謝りあった手前、それ以上その話題に触れるのは憚られる。というのは建前であり、睦人がヘタレで意気地なしであるだけだった。
「……睦人」
「ん ? ど、どうした ?」
「えっとね、その……」
何かを言おうとし、如奈が口をパクパクさせる。
急かさず、しかしどこかビクビクしながら睦人は続きを待った。
「えっと……あ、雨、降らなかったわね」
「あ、ああ。うん……」
多分、言うのに失敗したな。と睦人は思った。如奈も言った後にしゅんとし、僅かに唇を噛んでいる。
しかし、ぎこちない空気の中でせっかく如奈がしてくれた発言である。例え本当にしたい話じゃなかったとしても、雑談を挟んだら話しやすい空気になるのではないか。
睦人は、何とか話題を繋ごうとした。
「でも、雲が厚いのは確かだからな。今夜には降るはずだ」
「え ? そうなの ?」
「ああ」
睦人は深く頷くと、強く言い切った。
「俺が眠くないからな」
瞬間、静寂が降りる。
如奈は数回瞬きをし、睦人に視線を送る。睦人は顔には表さずとも、すべったか、悪化させたか、と内心焦りまくっていた。
先とは違う気まずさが二人の間を流れる。
睦人はそうっと如奈の表情を窺う。すると、如奈は口元を綻ばせ、瞳がゆるく弧を描いて見せた。
「ふふ、そうなの。……それなら、確かね」
「……ん、ああ」
話題が面白かったのか、それとも睦人の話をつなぐ拙さに思わず噴き出したのか。
そんなことはどうでもよくなる、睦人の好きな、綺麗な笑みだった。




