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ドリンクB  作者: マコ(黒豆大福)
プロローグ
48/78

48 買い物中の雑談は捗る-2


 瞬間的に、キリアは背筋に震えを感じた。不意に背中に氷を当てられるような、本能的に感じる恐れ。身の内まで踏み込まれるような不安と、それに対する拒絶。


 眼前の青年の笑みには、そんな、理解できないような、してはいけないような強い何かが感じられた。


「お兄さんって夕ご飯買いに来たんですよね ? ここまで何も買ってませんけど、いいんですか ?」

「へ !? ……あ、いや、俺がほしいのって、あっちに売ってるやつだから」


 あっち、と言ってキリアが指さす先は総菜売り場である。


「あー、お総菜か。あんまり見ないな。……まあ、たまにはいいか。じゃあ、行きましょう ?」

「あ、うん」


 先の一瞬は何だったのか。弥は雑談の延長のような疑問をキリアにぶつけ、総菜売り場へと歩いていく。


 キリアは不可解に感じながらも、気のせいか、と自分の心中を一蹴し後に続いた。


「んーと……あ、あったあった」


 残り一つの出来合いのかつ丼を見つけ、キリアは迷わずそれを手に取った。


「へえ、お兄さんってお米食べるんですね」

「ああ。こっちの米って、こう、粘着質 ? っていうのかな。なんか食べてて面白いんだよなー」

「面白いんですか……」


 弥も並ぶ総菜を眺めるが、手に取ることはしない。残りが少ないということもあるが、もともと出来合いの類を好まないのであろう。


「ところでお兄さん」

「ん……何だ ?」


 弥の言葉に、キリアはわずかに身構えた。


「お兄さんって……彼のこと、好きですか ?」

「……」


 キリアは再びしばし固まった。


 弥はかごの中を見て、買い忘れがないかを確かめる。全て確認を終えた頃に、キリアは口を開いた。


「はあ !? え、好きってどういう ? あ、さっきも言ったけど他人(ひと)のパートナーには手出さねえし、その……」

「落ち着いてください。さっきも言いましたけど、お兄さんのことは疑ってませんし、『好き』っていうのは友達とかそういう『好き』ですって」

「あ、そうか……。わるい」

「いいえ、僕の訊き方も悪かったですよ」


 弥は、先ほどからこの手の話題に過剰反応するキリアを面白く感じた。

 同時に、似た反応をする存在が周囲に数名はいるだろう、と予想もついた。


「好きか、って聞かれるとよくわかんねえけど……んー、いいやつだなー、とは思うかな」

「そうですか……」


 それは好意的な感情じゃないのだろうか、と弥は思うが表現に意味があるのかもしれないと、それ以上は考えないことにした。


「すみません、変なこと訊いて」

「いや、別に大丈夫だ」


 総菜売り場を離れ、弥が飲料の陳列棚まで移動しキリアもそれに続いた。


「お兄さんが彼のことを吸血鬼って言ってたから、ちょっと気になったんです」

「え……。あー、そうか」


 弥が牛乳パックを一つ手に取り、何でもないかのように続ける。


 しかし、突然出てきた『吸血鬼』というワードにキリアは反応せざるを得なかった。


「お前、前にも言ってたよな……」


 以前会ったときも弥はそのことをキリアに言っていた。


 当時は吸血鬼に関する手がかりが少なく、キリアも必死に何かないかと探していた。そのことに夢中で弥の存在へと気が回らなかったのだ、と反省とも言い訳ともつかない思いがキリアの胸中を掠めた。


「お兄さん」


 牛乳パックをかごに入れ、弥はキリアの方を向く。


「彼が吸血鬼だったら、どうするんですか?」

「っ、それは……」


 二人の関係を『知って』いる手前、キリアは発言を憚られた。弥の存在と発言に気を付けていたなら、こんな時がくることは予見できただろう。しかし、もし今日でなくともいずれは訪れたであろうこの瞬間を、キリアは気が付けなかったのだ。


「お兄さん、僕と彼のこと『知って』ますよね。……教えてください」


 問いかける弥の口調は強い。


 キリアとしても、弥の質問には誠実に対応したい。ハンターという立場こそを明かしていないが、弥は公私ともにキリアに協力的に応じてくれているのだった。


「答える前にいっておくけどさ……」


 言い淀みながら、キリアはそう前置きをする。


「あいつが吸血鬼、ってのは俺の勘違いっていう可能性が大きいんだ」

「え ?」

「だから、その方向での……えーと、対応を検討中 ? なんだ」

「そう、ですか」


 キリアは自分のハンターとしての現状を説明する。弥がどう受け取ったかはわからないが、自身の状況を明かすことが真摯な対応であると考えてのことだった。


「でも、そうだよな。お前、あいつと付き合ってるんだから気になるよな」


 今行った説明が、弥の疑問に答えていないことくらいキリアはわかっている。


 キリアがしている弥と睦人の関係の勘違いを否定しないまま、弥は続きを待った。


「もしも、もしも、あいつが吸血鬼だったら……」


 あくまでも仮定の話だとキリアは強調する。


「俺は、あいつを殺すよ」


 かつ丼片手に、キリアは強く言い切った。


「そう、ですか……」


 弥は、キリアの返答を受け止める。


 次に弥がどう反応するか、キリアは緊張を隠せない。

 吸血鬼ハンターとしての立場をキリアは崩せない。一方で、お前の恋仲の相手を場合によっては殺す、と今発言したことも事実だった。


「ありがとうございます、答えてくれて」


 キリアの覚悟に反し、弥から出たのは礼の言葉だった。


「いや……でも、本当にあいつは違うって可能性が大きいから !!」

「はい、わかっています」


 キリアは瞬間的に返答に困り、困惑しつつ精いっぱいの気遣いを示した。


「お兄さん、彼をいいやつって言ってましたよね ?」

「ああ」

「じゃあ、大丈夫ですよ」


 弥は、笑みを浮かべて言葉を継ぐ。


「お兄さんは、彼を殺しませんよ」


 まっすぐに言われ、キリアは返す言葉を失った。


 そして、その笑みを直視できなくなり、ふいと目を逸らした。


「あのさ」


 弥の言葉には返さず、キリアは話題を切り出した。


「俺が今更言うのも遅いけど、いや、それは反省してるんだけどよ。……こういうの聞いて、怖くないか ?」

「怖い ?」

「俺とか、吸血鬼の可能性がある、あいつとか……」

「怖くないですよ」


 弥の返答は早かった。


「お兄さんが吸血鬼を……殺すっていうのはわかります。駆除業者なんて、世の中にはごまんとありますし」


 駆除業者、という日本語がキリアにはわからなかったが、自身が肯定されたということはわかった。


「あとですね、僕、彼が人間でも吸血鬼でも猫でも構いませんし」

「猫…… ?」

「ずっと、ずーっとそばにいてほしいんです」


 ずーっと、と言うとともに弥の目が細められる。


 ここではないどこかを見ている視線に、キリアは不可解な、発言の底の深さを感じ身を竦ませた。


「あ。そういえば、もう結構遅い時間ですね」

「え……あ、しまった約束 !!」

「ああ、お兄さん今日も約束あるんですか」


 じゃあ、お会計行きましょうか。と二人は会計レジへと向かった。


「じゃあ、お兄さん。おやすみなさい」

「おう、またなー !」


 スーパーを出て、二人はそれぞれの帰路につく。


 何か違和感を拭えないまま、キリアは如奈の家に近い公園へと走っていった。


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