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ドリンクB  作者: マコ(黒豆大福)
プロローグ
47/78

47 買い物中の雑談は捗る-1


 日も落ちて、町が賑わいだす時間帯にもなると、スーパーの客層も変化しだす。仕事帰りに夕飯やそれほど重くない消耗品を買う人が増えていき、皆どこか急いだ様子で用事が終わると足早に帰宅していく。


 キリアも、今日の捜索は終わりだと町中から引き揚げ、最近ほぼ毎日利用するスーパーに来ていた。


「今日も、これといって進展はなしか……」


 疲れた様子でキリアは呟く。


 夕方以降、キリアは一層の気合を入れてバイクの捜索に取り組んだ。しかし、一回も見つけることができず、お年寄りやけが人に親切にするだけで一日が終わってしまった。


「今日もあれ残ってるかなー……うん?」


 まっすぐに総菜売り場に向かおうとしたところで、キリアは見知った人物を見つける。赤茶色のはねた髪をした少年が、青果コーナーで野菜を吟味していた。


 特に避ける理由もないので、キリアは少年に近づく。


「よっ ! 奇遇だな !!」

「ん ? ああ、イケメンのお兄さん。こんばんは」


 少年、桐生弥はキリアを視止めると、笑顔を貼り付け会釈した。


「お前も夕飯の買い物 ?」

「いえ、僕は今週の分をまとめてです。明日から天気も悪いみたいですし」

「え、天気、悪くなるのか……」


 雑談を交わしつつキリアが弥の手元を覗く。その手には短い木の根のようなものが握られていた。


「何だそれ ?」

「これですか ? 新ゴボウですよ。……って、ゴボウってわかりますか ?」

「えーっと、木の根みたいな野菜がある、とは聞いてたんだけど……」


 語尾を濁すキリアに、弥は苦笑を返す。


「多分、それのことですよ。普通のゴボウは冬の初めに採れるんですが、新ゴボウは夏の前くらいに出回るんです」

「へえ、同じ野菜なのにか ?」

「ええ。これは短くて柔らかいですが、冬に採れるほうはもっと長くて硬いんです」

「ふーん。これも硬そうに見えるけどなー」


 ひとしきり感心すると、キリアは一つ手に取ってまじまじと眺める。茶色く土の形を残すそれが珍しいのか、その視線は無邪気そのものだった。


「へー、これがゴボウかー……あ、じゃなくて、新ゴボウ、か」

「同じ植物ですし、別にゴボウでも良いと思いますよ」


 弥は何個か見比べたのち、一つをかごに入れた。それに合わせてキリアも新ゴボウを戻す。


「ありがとうな、また一つこっちに詳しくなれたわ。お前みたいに色々と教えてくれるやつがいて、俺、本当に助かってるんだ」

「そうですか……それは、何よりです」


 にこにこと笑みを向けてくるキリアに、弥は歯切れ悪く返した。


「あ、そうだ。なあ、もう一つ訊いていいか ?」

「はい、何ですか ?」


 青果コーナーを抜けてもキリアは弥に着いていく。明確に追い払う理由を持たなかったために、弥は特に言及はしなかった。


「あのさ、この間会ったとき、お前『あいびき』って言ってただろ ?」

「えっと……ああ、はい。言いましたね」


 卵の値段を確認しつつ、弥はその晩の記憶を手繰り寄せる。


 そんな軽口を言った気がするな、と思いつつ、言葉の意味でも聞こうとしているのかと予想をつけた。


「あれさー」

「はい」

「何で肉なんだ ?」

「……はい ?」


 六個入り百二十八円の卵パックを片手に、弥は思わず語尾を上げる。


「あいびき……ああ」


 しかし、肉、あいびき、という二つを受けて、すぐにキリアが起こしている勘違いに気が付いた。


「あの、お兄さんの言う『あいびき』って、あれのことですか ?」


 あれ、と弥は精肉コーナーを指さす。その先では『合い挽き肉』がグラム単位の量り売りにかけられていた。


「あー、そうそう、あれ ! 俺、何であの時肉に例えられたのかと思ってさー」


 キリアの反応から、弥はキリアがしている勘違いを把握した。


「お兄さん、それ少し違います」

「え ?」

「あの、あれも合い挽きなんですが、僕の言ったのは違う『逢引』で、恋人同士が会うことを意味していたんです」

「……え ?」


 恋人、とキリアは呟きしばし固まった。


 弥が先に取ったものより十円ほど安い卵パックをかごに入れる。


 そして、あとは何を買うべきか考え始めた頃、やっとキリアは口を開いた。


「お、俺は、人のパートナーに手を出したりしない !!」

「ああ、そうですか」

「でも、勘違いさせたのなら悪かった !!」

「いや、大丈夫ですよ。僕も冗談で言ったんで」

「そうか !!」


 スーパーの中で、大声で宣言するとキリアは遅れて顔を赤らめた。


「まあ、むこうも一途な性格してますし、お兄さんたちを疑うつもりは全くありませんから」


 弥が念を押すと、キリアは興奮を落ちつけて脱力し、肩をガクッと落とした。


「何だ、そういう意味だったのかよ……」

「難しいですよね、日本語って」

 

 恥ずかしそうにキリアは顔を抑え、二、三言ぶつぶつと漏らす。


 弥が卵を選び終え精肉コーナーに移動すると、キリアもそれに続いた。


「俺さー」

「はい。……あ、合い挽きが安い」

「てっきり、何かの例えかと思ったんだよ」

「そうですか。……作り置きの分も買っておこうっと」

「あいびき、って牛と豚を混ぜたやつって聞いたからさ、俺とあいつがこう……牛と豚みたいなのかと」

「ああ、お兄さんって、勘違いをこじらせるタイプなんですね」

「こじ…… ?」

「いえ、独り言です。……ハンバーグか、肉団子か」


 弥が合い挽き肉の購入を決意する横で、キリアは言葉を続けた。


「どっちが牛でどっちが豚なのか、とか。牛と豚って、けっこう違うよなー、とか」

「はあ……つまり、彼とお兄さんは種類が違うってことですか ?」

「え、いや、そこまで言ってねえけど……」


 キリアは否定を示すが、弥はそれを聞き入れずに言葉を被せる。


「お兄さん、ちょっといいですか ?」


 合い挽き肉を三百グラムかごに入れ、弥はにっこりと微笑んだ。


「僕も、お兄さんに訊きたいことがあるんです」


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