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ドリンクB  作者: マコ(黒豆大福)
プロローグ
44/78

44 寝落ちに抗うのは難しい-1

 炭水化物は血糖値を上げる。食物繊維なども炭水化物なのだが、ここでは糖質を指す。

 

 人間の体は、血糖値の急上昇を防ぐために膵臓のB細胞からインスリンを分泌させ速やかな吸収を促す。

 すると、一時的に血糖値が下がるのだが、これが食後の眠気の原因だと言われていた。

 

「ん……」


 下がってきた瞼をこすり、頭を振る。

 それでも眠気は払われず、主の体を蝕み続ける。


「如奈、眠いのか?」

「ん、ううん。だいじょう、ぶ……」


 文面に反して如奈の眼はとろけ、言葉も普段以上に間延びしていた。言葉を聞いた睦人も、今の『だいじょうぶ』はひらがなだった、と思った。


 昼ご飯のうどんは、少なくとも如奈の体内で順調に分解、吸収されていた。如奈の母親と睦人は一人分を、如奈は二人分を食べたのだが、その差が関係あるかはわからなかった。


 勉強を再開して三十分ほど、如奈は眠気に屈しつつあった。


「少し眠ったらどうだ?後で起こすから」

「ん……でもね、えっと……あと少し、なの……」


 首を横に振り如奈は頑張ろうとするが、眠気が猛威を振るう。


 如奈の言葉に、睦人は如奈のノートをちらと見る。自分よりは進んだところを解いており、確認するとあと二問で課題は終わる、といったところだった。


「……」


 なお、睦人がそこにたどり着くには主観で一時間は必要だった。


「だから、おわらせる、のー……」

「……そうか、頑張れ。無理ない範囲でな」


 半分以上目を閉じ、それでも意気地になっている如奈に、睦人はそうとだけ声をかけた。

 船を漕ぐ幼馴染におとなしく眠ってほしかったが、あと二問、というところで止めるのも憚られた。


「……ふっ」


 それ以上に、眠気に抗い駄々っ子のようになっている如奈が可愛らしく、もう少し見ていたい、と思ってしまったことがあった。


「……わらわ、ないでー」

「ああ、すまない。つい……」


 それからさらに三十分ほど、如奈は眠気と闘いながら、睦人はそんな如奈を眺めながら、双方とも集中できないままに作業は進められた。


 そして、ついにその時が訪れる。


「おわ、った……」


 言葉とともに、如奈は机へとぺしょりと倒れこむ。広げられたノートは、崩れた文字が多くの消された跡の上を蛇行しているのだが、それでもきちんと解いたことに変わりはない。


「お疲れさま。よく頑張ったな」

「うん……むつと、ありがとー」

「どういたしまして」

「……ふふ」


 睦人の労いの言葉が優しく響き、如奈は笑みを零す。

 懸念事項のなくなった如奈は、同時に眠気に対して反抗する明確な理由もなくなっていた。


「むつと」

「ん?」

「まだ、かえらない、でね……」

「え?」

「かえる、まえに……ん、おこして、ね……」


 それだけ言い残し、如奈は眠りの世界に堕ちていった。


「……」


 その言葉を聞いて、睦人はしばらく絶句した。手元のシャーペンに亀裂が走る。


「いや、この状況で言うか。言うのか、如奈……‼」


 先からあまり進んでいない課題を前にして、幼馴染の恐ろしさに戦慄し声をあげた。


安らかな寝息をたてる如奈に、その声は届かなかった。


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