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ドリンクB  作者: マコ(黒豆大福)
プロローグ
45/78

45 寝落ちに抗うのは難しい-2


 カーテンの隙間から西日が降り注ぐ。


「……ん」


 開いた瞼の先には、赤く染まる自室と誰かの背中がある。

 ただ、捉えた世界は九十度傾いていた。


「……?」

「あ。起きたか、如奈」


 振り返った男、睦人も九十度傾いていた。


「ベッド……?」

「ああ。……その、テーブルに伏してたら寝にくいと思って運んだんだが……余計なことだったら、すまない」

「……そう」


 如奈は、世界ではなく自分が九十度傾いているのだと気が付いた。そして、それはベッドに寝ているからだと推測した。


「ん……」


 のんびりとした動きで如奈は起き上がり、睦人を見上げて笑みを咲かせた。


「ありがとう、睦人」

「あ、ああ」


 睦人の頬がほんのり色づくが、西日のおかげで気づかれはしなかった。


「今、何時 ?」

「五時半を過ぎたところだ」

「五時半……」


 如奈の問に睦人は即座に答えを返す。そして、それを聞いた如奈は僅かに肩を落とす。


「私、結構な時間を寝ちゃったのね……」

「普段の俺に比べれば少ないだろう、気にするほどじゃない」

「でも……」


 昼寝が習慣の睦人に言われても、如奈はなお気にしているようだった。眠ったのは如奈の意思だが、本格的に寝入ってしまったのは不本意であったらしい。


「何だか、もったいないなあ、って」

「あー……確かに、昼寝すると時間が速く感じられるよな。寝るしかしていない割に」


 時間に対しての充足感の足りなさについて睦人が一般論を説くが、如奈はしっくりこないのか首をよこに緩く降る。


「えっと、多分、そういうのもあるんだけどね」

「うん?」


 未だ眠気を引きずっているのか、拗ねた幼子のような調子で如奈は続ける。


「昨日ね、明日は睦人と一日一緒、ってそわそわして眠れなくて……。今日、睦人が部屋にいるなー、って思ったら最初も何だかドキドキしちゃったの。ようやくね、勉強したらちょっと落ち着いたのに、今度は眠っちゃうなんて……」

「……」

「情けないなあ、私」


 自身に対して管を巻き始めた幼馴染を前に、睦人はただ立ち尽くす。如奈の言葉を一言一句逃さず聞き取る表情は、感情の表現を放棄し、ベッドに座り込む相手に視線を送るだけだった。


「…………」


 睦人は思った。


 この子、食べられたいのかな、と。


「如奈」

「……なあに?」


 睦人はその場に屈み、しょげた幼馴染に視線の高さを合わせた。


「入学して一か月たつんだから、ちょうど疲れが出たんだろう」

「睦人……」

「如奈は部活もあるし、あと最近は木登りも練習しているんだろう?いくら体力があるといっても、休日に休んでおかないと体がもたないぞ」

「……うん」


 睦人は宥めるように如奈に正論を説いて聞かせる。


 一方で内心では自身を宥める、正確には押さえつけることに必死であり、見えないように手の平に爪を立てていた。


「そうよね、休むことも練習だ、って言われたわ……」


 如奈もうなずきを返し、睦人の言葉に賛同を示す。しかし、理論ではない部分に引っ掛かりが残るのか、表情は完全には晴れない。


「如奈、あとな……」

「あと?」


 睦人は、流血沙汰になっている手など知らないように、さらに優しい声色で続けた。


「如奈が、俺が来るのを楽しみにしてたって聞いて、嬉しかった。本当に。……ありがとうな」

「睦人……」


 睦人の言葉に如奈の表情が明るくなる。


「睦人、嬉しかったの?」

「あ、ああ……嬉しかった」

「ふふ……そうなの。ふふ…… !」


 聞き返されて恥ずかしさがこみ上げるが、それでも耐えて睦人は言い切った。


 そのあとの如奈の満面の笑みが見られるのなら、ずいぶんと安い対価だった。


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