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ドリンクB  作者: マコ(黒豆大福)
プロローグ
24/78

24 過程より結果が大事な仕事(※付き合ってません)-2

 しかし、不意に声をかけられたうえ、自身を落ち着かせることに努めていた睦人はきちんと事態を把握していない。


「……え、あ、ああ」


 どこか呆としている中、わずかに桐生の言葉が耳に入った睦人は、半ば反射的に


「え、睦人⁉」


 ひょい、と眼前の如奈を持ち上げた。


「……?」


 如奈の声を、睦人は遠くに聞いた気がした。


 しかし、少しづつ戻ってきた自我が状況を訴えてくる。


 ゴミ運びの最中、立ち尽くす自分、腕の中の幼馴染――。


「ん……?」


 睦人の顔を真っ赤にするには十分な条件だった。


「っー!……す、すまない如奈!!今降ろす!!」

「え、ええ……えっと、謝ることではないけど……」


 自身のしたことをやっと認識し、睦人は慌てて如奈を降ろそうとする。


 顔と言わず耳まで発火しそうになっている睦人だが、その耳に悪魔の囁きが届いた。


「えー。みゃーこさん、降ろしちゃうのー?」


 ピタッと睦人の動きが止まる。

 悪魔、もとい弥の一言は睦人に先までとは違う衝撃をもたらしたのだった。


「桐生君?どうしたの、いきなり」

「いや、よく考えたら怪我してる手を動かすのはよくないよなー、って思って。みゃーこさんもてっきりそういう考えなのかと思ってさー」

「これくらいの怪我なら大丈夫よ。それに、任された仕事はきちんとやらないと」


 如奈はそう返すものの、肝心の睦人はまだ如奈を抱えて固まったままである。


 弥は、してやったり、と上機嫌で会話を続ける。


「仕事なら、僕ら二人でも平気な量だよー。それに篠崎さん、この後まだ部活あるんでしょう?体力取っといた方がいいんじゃないかな?」

「でも、やっぱりさぼるのは良くないし、えっと、あと……体力なら全然大丈夫よ」


 一気に話されるのが苦手な如奈は、一つ一つに反論する。


 しかし、次の言葉で弥は一気に畳み込んだ。


「篠崎さんって、真面目だよねー……あ、それとも、みゃーこさんに抱えられるの、そんなに嫌なの?」

「え、それは……そんなことないけど……」


 如奈の言葉に、睦人はピクッと反応する。その様子に、弥は心中でガッツポーズを決めた。


「如奈」

「ん?睦人、どうかしたの?」


 睦人は、何かを決意したように改まって如奈のことを呼ぶ。


「お前が嫌じゃないのなら……その、変なことを言ってすまないが……このままが()いんだが」

「え……?」


 恥ずかしそうに、しかしながらはっきりと、睦人は言い切った。そんな幼馴染の言葉に、今度は如奈が戸惑った。


「でも、睦人も重いでしょう?睦人はゴミもいっぱい運んで、その、疲れてるだろうし……」

「重くない、それに、俺はこの後部活とかもないんだから体力は大丈夫だ」


 睦人を心配する如奈に、テレビを紙ごみと同じ感覚で運べる睦人はそう返した。


「でも……」

「如奈」


 なおも納得していない如奈の言葉を、睦人は珍しく遮った。


「……嫌か?」


 先よりも弱い、不安の混ざった声で睦人は問うた。如奈を抱えている関係上、視線はやや上向きで、寂しそうに細められている。小野寺と違って、演技などは一切ない。


 睦人のそんな問いかけに、如奈はぐっと言葉を飲む。そして、なんだかんだ言いながら、幼馴染の望みは叶えてあげたいのが正直な思いであった。


「嫌、じゃないわ……」

「そうか……!」


 如奈の答えに、睦人は相好を崩す。わずかに差していた翳りは霧散し、澄んだ瞳には喜びを浮かべている。


 幼馴染の綺麗な笑みに、如奈も思わず頬を緩める。睦人が嬉しそう、と思うと胸中にやさしく暖かなものが降り積もった。


「如奈、ありがとう」

「ううん、こちらこそ」


 幼馴染二人が笑いあっている。


 なんとも感動的な場面で、そそのかした第三者こと弥が口をはさんだ。


「いやー、仲良きことは美しいかな、だねー……でさー、仕事の分担どうするの?」


 こちらも上機嫌だが、いつまでもふざけてはいられないので現実に二人を引き戻す。


 睦人は逡巡することもなく、すぐに返答をした。


「弥、さっきの通りにゴミ袋を頼めるか?」

「いいけど、残りはどうするの?」

「俺が運ぶ」


 睦人は、きっぱりとそう述べた。


「そう?じゃあ、お願いしまーす」


 弥も、睦人の返答を予想していたのか、あっさりと承諾すると自身の仕事に取り掛かった。


 睦人は、右腕で如奈をしっかりとかかえると、左手でゴミ袋とリヤカーの枠部分を器用に持ち、引き始めた。


「如奈、すまないが、少し揺れる」

「ええ、わかったわ」


断りを入れると、睦人は右腕に僅かに力を入れ、如奈を落とさないよう細心の注意をしながら駆け出した。先ほど胸中に浮かんだ不可解な気持ちを振り払うように。



「すみません、遅くなりました」

「まったく、お前らが……最、後だ……ぞ」

「先生、どうかしましたかー?」

「いや、え、お前らこそどうした、怪我でもしたのか?」

「……いえ、そんなことはありません」


 収集場所で、待っていた教員に睦人たちはとても驚かれてしまった。


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