25 食事と考え事
醤油ベースのじゃがいもの煮物、ゆでたキャベツとアスパラガスに湯通しした豚肉を乗せた簡単冷しゃぶ、豆腐とわかめの味噌汁、炊き立ての白米。
睦人が、まだ手が遅いなりに苦心しながら用意した夕食であった。
「いただきます」
手を合わせ丁寧に挨拶すると、睦人は順番に箸をつけていく。
「……まだ、味が染みていなかったか」
大きめに切られたじゃがいもは、表面は色づいているが中心までは煮汁が染みていなく、歯ごたえが十二分に残されていた。
「アスパラガスは、ゆですぎた……」
硬さを気にしたアスパラガスはゆで時間が長すぎたらしく、色が抜けてややぱさついた食感であった。
「ふう……」
一通り手をつけると睦人は一息つき、改めてまだ料理に慣れないことを実感する。
特段に舌が肥えているわけではないが、それでも自分の料理はまだまだ練習が必要だと夕食を食べて思い知らされた。
「ふぁ、あー……」
まだ食事の途中であるのに、あくびが漏れ睦人は口を押える。
大きく開いた口は酸素を多く取り込み、生理的に浮かんだ涙を指で拭った。疲れているな、と自分のことながら考えつつ再び箸を動かし始める。
(今日は、天気もよかったからな)
日中の作業では帽子を被りなるべく日陰にいたとはいえ、当然だが全ての陽光を遮れたわけではない。仕事に集中していたから気が付かなかっただけで、睦人はそれなりに眠気を感じていたし疲労もその分蓄積している。
加えて外の生徒が仕事を終えた後も、睦人はゴミを運ぶという仕事があったのである。
「……」
今日のことを思い返す睦人に、ふわりと幼馴染の微笑みが過ぎる。その微笑みに、疲れからささくれていた睦人の心も凪いでしまっていた。表情が緩み、思考が現実から僅かに離れる。
「いや、これはさすがに……」
誰もいないところでにやけている自分に睦人は突っ込むが、それでも自然と口角はあがってしまう。
今日のこと、特にゴミ運びの際の自分の行動を思い返すと、睦人はほんのりと頬を染めながらついにやけるのを抑えられない。自分の行動を受け入れてくれた時の、如奈の反応が嬉しくて仕方がなかった。
世の中は広いが、大切な人を思って不機嫌になる者は少数派であろう。睦人も例にもれず、そんな有り触れた思いを抱えていた。
「……」
そんな自分の行動の直前、不可解な感情と真っ白に塗りつぶされた思考のことがふと睦人の脳裏を掠める。知っているような、どこかで慣れているような感覚は、睦人に曖昧な疑問とも呼べない引っ掛かりを残していた。
背中に、ちりちりと遠火で炙られるような熱さを感じる。
しかし、それは睦人の注意を引くには遠く及ばなかった。
「デジャヴ、というやつか……」
睦人は、自分の処理に困った感覚をそう結論付ける。既視感、というのは誰しもが抱くもので睦人のこの感覚もその一種だろうと考えることで引っ掛かりから一先ず解放された。
わからないことを自分の知っていることの中に無理に収めるのていることを、指摘する人物はいないし睦人も気がついてはいない。その感情に触れてはいけない、と無意識の思考の制御が働いていた。
それよりも、食事を終えた後もすることがないわけではないので睦人は夕食に戻る。食器を洗って、課題を終わらせて、明日の準備に風呂の支度、と今日の残りの予定を睦人は脳内で組み立てる。
満たされない空腹を覚え、煮物を一口嚥下した。
「……何か、物足りないな」
今日の夕食に対し、睦人が最後に思ったことであった。




