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ドリンクB  作者: マコ(黒豆大福)
プロローグ
23/78

23 過程より結果が大事な仕事(※付き合ってません)-1


ゴミ拾いが終わり、生徒達は各々が集めたゴミを集合場所に持って戻ってくる。


 一人で何袋も集めた者もいれば、一袋にも満たなかった者、複数人で協力して集めた者など、それぞれの集め方には個性が見られた。ただ、そのゴミも最終的には一か所に集められるため誰がどのような集め方をしたのかを正確に把握することはできない。


ただ一つ誰の目にもわかったことは、公園に落ちていたゴミは相当な量であった、という事実だった。


「では、係の三人はゴミをあちらのリヤカーで収集場所まで運んでから、学校に戻ってください。それ以外の方はこれから学校に戻ります。お疲れ様でした」


 担任の号令で、生徒たちは学校に戻り始めた。広い公園で昼を通して活動していたためか皆どこか疲れており、ふざけたりせずおとなしく担任についていった。


 そして、公園には睦人、如奈、弥の三人と、使い古されたリヤカーにゴミの山が残された。


「……とりあえず、全部積み込むか」

「そうね」


 かなりの量があるゴミ山に一瞬ひるんだものの、やらなければいけないことに変わりはないので、三人はゴミ袋を積み込み始める。


半分ほど乗せたところでリヤカーがギシッと悲鳴をあげはじめ、弥が苦言を漏らした。


「これさー、テレビとか自転車とか乗せて大丈夫なの?ていうか、そういうのってどこにあったの?」

「あっちの木の陰だ」

「やっぱりみゃーこさんかー……」


 ゴミの中には、ゴミ袋に収まる小さなもののほかに、古いブラウン管のテレビや壊れた自転車など、ポイ捨ての域を超えているものがいくつか見られた。それらは木の陰に不法投棄されているのを睦人が見つけたもので、睦人はボールでも放るがごとく無造作にそれらをリヤカーに積み込む。


「みゃーこさん、そんなに仕事して大丈夫なの?眠たくないの?」

「まあ、帽子があったし、ずっと日陰にいたしな。……仕事量に関しては、弥が少ないのもあると思うが」


 ぽつり、と睦人は弥の仕事に対して思ったことを述べた。


弥は集合時間ギリギリに、クラスメートの中では一番最後になってから集合場所に戻ってきたのだが、その手に握られていたのはゴミ袋一つ、しかもまだ十分に余裕のあるものであった。その様子を睦人はしっかり見ていた。


「まあ、ちょっと色々あったんだよねー。美人な猫さんと会ってた、とか」

「猫、好きなのか?」

「うん、好き。存在が愛おしいっていうか尊いよね。個性が強いんだけど、みんな違ってみんな素晴らしい。猫さんマイディア―」

「……そうか、良かったな」


 口元を綻ばせ猫に対し率直な愛情を表す弥に、睦人はそうとだけ返しておいた。


 そんな二人の横で、


「まい、でぃあー……?」


 如奈が首をかしげ、一人だけ弥の言葉を理解できていなかった。


「篠崎さん、今の英語のつもりだよー。親愛のある相手とかに使う、My Dearってやつ」

「……なるほど」


 弥に説明があって、如奈はようやく、弥が猫に親愛を示しているのだと理解できた。


「そういえば……」


 うんうん、と一人頷いていた如奈が話題を切り出す。


「睦人と桐生君、呼び方変わったのね」

「あ、気が付いたー?」


 二人のやり取りから如奈はそのことに気が付いた。そのことに触れられて嬉しいのか、弥が上機嫌に応じる。


「ええ……えっと、みゃーこさん、っていうのは睦人のことよね?」

「そうだよー。ちなみに、(わたる)って僕の名前ね」

「知っているわ」


 苗字で呼んでいた二人が、渾名と名前で呼び合っている。


 理由を知らない身には、単に仲良くなったからであろう、という推測は容易にできる。


「いつのまに、そんなに仲良くなったのね」

「まあ、ちょっと色々あってねー。ねー、みゃーこさん」

「ん、ああ……色々、な」


 弥の呼びかけに睦人は歯切れ悪く応じ、罰が悪そうに視線を逸らす。


 如奈が知らないところで何かあったらしく、その詳細を詮索するのは礼儀違反だと如奈はわきまえている。


 クラスメートと仲良くなることは大切だし、まして、もともと友達の少ない幼馴染のことであれば如奈にとっても喜ばしいことである。


「……?」


 それなのに如奈は、自分でも不思議なことに、いまいち釈然としない気持ちになった。胸の奥にわだかまりがあるようで、呼吸がわずかながら引っ掛かる感覚を覚える。


『何ていうんでしょうか、こう……男女の壁?』


 先の小野寺との会話が不意に頭をよぎる。自覚こそないが、その言葉の影響は意外と大きかったらしい。


「二人ともー、これ以上乗らなさそうだよー」


 リヤカーにゴミ袋を積んでいた弥から声がかかる。

 リヤカーいっぱいにゴミ袋を積んだのだが、バランスを考慮するとどうやっても数個ほどが乗らなくなっていた。


 量が多いことに加え、睦人の運んだテレビや自転車がかなり場所をとっていた。


「これさー、無理に乗せたら途中で落ちちゃうし、リヤカー自体壊れそうだよ」

「そうね……」

「じゃあ、残りは手で運ぶか」


 無理をしてリスクを生むことはせず、三人は残りを手で運ぶことにした。幸いなことにゴミ袋を手で運ぶことも、体力のある如奈と力のありすぎる睦人にはそこまで苦にならない。


「それなら、ゴミ袋いっぱい持つ人と、ゴミ袋もってリヤカー引くの補助する人、リヤカー引く人、でいいかな?」

「ああ」

「えっと、分担はどうやって決めようかしら?……じゃんけん?」

「いいねー、そうしよー」


 そして、じゃんけんで分担を決めた結果、如奈がゴミ袋を、睦人がゴミ袋とリヤカーの補助を、弥がリヤカーを担当することになった。


 そうと決まれば移動の準備だ、と三人は振り分けられた作業に取り掛かる。


 睦人がゴミ袋を拾いリヤカーへ向かおうとした時、背後で如奈から小さな悲鳴があがった。


「痛っ!」


 その声に睦人は即座に振り返ると、ちょうど如奈の足元にゴミ袋がバサッと落ちたようだった。


「如奈⁉」

「篠崎さん、どうしたの?」


 弥も何かあったかと問い、睦人が持っていたものを置いて如奈の下に駆け寄る。


「えっと、大丈夫よ。ちょっとぼーっとしちゃって……」


 そう如奈は言い何でもないと繕うが、右手で左手を抑えており、如奈が落としたゴミ袋は裂け目から小さなガラス片が覗いていた。


「切ったのか⁉すまない、手、開くぞ?」


 睦人がすぐに如奈の左手を取り手のひらを確認すると、真ん中あたりが横一文字にが薄く切れていた。小さな溝は赤い液体に埋められ、じわじわと鮮血が溢れ始めている。


「……――っ!!」


 それが血液だとわかると、ドクン、と睦人の鼓動が大きく跳ねた。視線はそこに囚われ、無意識に目を見開く。


 口内に溜まっていた唾液を嚥下すると、はっきりとはしないが覚えのある、それも何回も経験があるような感覚が睦人を包み込んだ。


「え……?」


 そんな睦人の一瞬の変化を、弥はしっかりと見ていた。そして、思わず声を漏らす。


 その声で睦人は我に返る。頭こそまだ回ってはいないが、如奈が怪我をした、という事実を改めて認識し、さっと顔を青ざめた。


「如奈、大丈夫か⁉お前、怪我して……!」


 そして、既視感と不可解な感覚が気になりはしたが、今は何よりも如奈が優先であり睦人は声をかける。


 意識を無理やりもっていこうと無意識に声が大きくなってしまったが、如奈は変わらずいつも通りに振る舞った。


「ええ。少し切れただけだし、すぐに治るわよ」

「そうか……しかし、すぐに消毒しなくては雑菌が、ああでも、今は消毒液はないし……」


 慌てふためく睦人を前に、怪我をした本人である如奈は落ち着いて対応する。


「平気よ、睦人。こういうのは、えっと、舐めておけばいいって聞いたわ」


 そういって、如奈は睦人の目の前でペロリと左手を舐めた。


「あ……」


 情けない声を漏らし、睦人は衝撃とともに今度こそ思考が白く染まった。

 

 直後に、見るな、と脳裏から強い命令を感じ、バッと視線を逸らす。空いている手で口を覆うと、唇を噛み衝動をやりすごそうとする。その頬は赤く色づき、心臓が痛いほど高鳴っていた。


「睦人?……どうしたの、具合悪いの?」

「いや……」


 そう答えるものの、睦人は如奈と視線を合わせない。自身の反応に自分で戸惑いながら、落ち着け、と自分に言い聞かせた。


 不思議そうにのぞき込む如奈に、今度は弥が声をかけた。


「でもさー、篠崎さん。その手でゴミ袋持ったら、多分雑菌入っちゃうよ」

「え、そうかしら……」

「うん。それに、その手じゃゴミ袋持ちにくいでしょ?僕と変わろうよ、リヤカーならみゃーこさんも一緒だし」


 弥の提案に、如奈はわずかに考える。その注意は一先ず睦人から離れたようだった。


「……じゃあ、お言葉に甘えて。ありがとう、桐生君」

「どういたしましてー。あ、じゃあみゃーこさん、そっちの篠崎さんの持ってもらっていい?僕、こっちの、さっきみゃーこさんが運んでくれたやつ持つから」


 そう言って、弥はさきほど睦人がリヤカー付近まで運んだゴミ袋を拾った。

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