21 質問に質問を返すとややこしくなる-1
外と公園の境目にもあたる、植え込みの裏となるとわざわざゴミを拾いに来る生徒はあまりいない。
そんな場所で、例外である生徒、弥は見つけたものに対して思わず眉根を寄せた。
「うわあ……」
無意識に嘆くと同時に、やるならちゃんとやりなよ、と心中で毒づいた。
「これ、意味ないでしょ……」
視線の先には、半分ほど土に埋まったゴミ袋が数個あった。
何か意味があるのか、と一瞬考えもしたが、まさかな、とすぐにその考えを打ち消した。大方、捨てたゴミを隠すために土をかけたんだろう、と結論付ける。
しかし、袋が中途半端に地面から露出しており、よく見れば中のゴミも確認できた。
誰かが掘り返した跡もないので、捨てた相手がこの状態で放置していったのだと見て取れる。
「これじゃあ、ちゃんと土に還れないじゃない」
そう苦言を漏らし、周囲にクラスメートがいないのを確認すると、弥はジャージのポケットに無理やり入れておいた小さなシャベルを取り出した。
その場に屈んでシャベルで周囲の土をほぐすと、柔らかくなった土を掬い上げ、ゴミ袋の露出した部分に乗せた。無造作に土をかけることはせず、土を掬っては乗せ、全体を覆い隠すようにゴミ袋を埋めていった。
「……よし」
ゴミ袋が全て埋まりこんもりとした土の山のみが見えるようになると、弥は満足げにそう呟く。
ゴミ拾いの主旨を考えると何もよくはないが、弥はそんなことは気にせずに、土の山を数回ポンポンと叩くとシャベルをポケットに戻した。
その時、
「ん?」
弥は振り向き、植え込みへ視線を向ける。背後からガサッ、という葉が擦れる音が聞こえたからだ。
「……なに?」
声を潜めて、視線を植え込み全体へと滑らせる。風が吹いたにしては大きすぎる音に、弥はそこに何かがいることを確信していた。
「……」
目を細めてじっと集中して見ると、再び植え込みがガサッと音を立てる。音がしたところは葉が動き、何かがそこに隠れていることを示していた。
弥がそこを注視していると、がさがさと音を立て、一匹の小動物が姿を現した。
その動物は弥と視線があうと、みゃあ、と小さく一つ鳴いた。
「……猫さん?」
誰に問うわけでもなく弥が呟くと、猫はさっきよりも強く、独特の高い声でみゃあ、と鳴いた。正解、と言っているようだった。
「わあ……!」
感嘆を漏らすと、弥はふんわりとした笑みを浮かべ、体全体を猫の方へと向ける。
頬をほのかに染め四つん這いでそうっと猫に近づくが、猫は、近づいてくる弥から逃げることもなく、近くに寄れと言わんばかりに鷹揚に構えていた。
「うわあ、猫さん、美人だねー。可愛い……」
ふふ、と笑みを零す弥に、猫は意味がわかっているのか耳をピクピクと傾け、じっと視線を送る。
「ん?わかるの?……賢いねー、猫さん」
弥の問いに猫は答えないが、弥は特に気にすることもなく話しかけ続ける。
少しの間一人と一匹が会話にもなってない戯れを繰り広げるが、先にやめたのは猫のほうだった。みゃー、と長めに鳴いてふいと視線を外す。
そして、すくっと立ち上がると、しなやかな体躯を使いしゅっとした動きでそこから退き、公園と外の境である柵へ向かった。
弥のほうへと振り向き、再度みゃーと長めに鳴くと、柵の外へ出てしまった。
「え、猫さん。そっち道路だよ。危ないよ!」
そう言って、弥も柵を飛び越えて公園の外へ出ていく。
猫は弥の呼びかけには応じないで、歩みを止めず進んでいく。
いよいよ道路に差し掛かる、という所でも猫は迷わず進もうとし、弥はひょいと猫を掬い上げた。
「猫さん、道路は危ないよー?」
みゃあ!と猫は不服そうに抗議し弥の腕の中でもがくが、弥はよしよしと宥めるだけで離さない。
猫にも生活スタイルがあり、もしかしたら道路を渡ることも日常なのかもしれない。しかし、そうは思っても弥は猫を囲って離さない。
結局根競べでは弥が勝ち、腕の中で猫がおとなしくなった。
「猫さん、公園に戻ろうか」
そう言って、弥は猫を抱えたまま来た道を戻る。猫も抱えられて移動するのが珍しいのか、先の不機嫌さはなくなり、どこか楽しそうに弥に擦り寄った。




