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第6話 終焉の魔女は〇〇を着る



「……アスタさん……アスタさん。大丈夫ですか?」


「うっ……あれ? リア!?」


 目を覚ますと、俺の顔を心配そうに覗き込むリアがいた。


「良かった、アスタさんが目を覚ましてくれた……!」


「り、リア!? ぶ、無事なのか?」


「ええ。あの後、偶然路地裏を通りかかった冒険者の方が私たちを助けてくれました」


 リアは俺を宥めるように優しく告げた。


「そ、そうなのか……? じゃあ、お礼を言わなきゃな……」


 俺は立ち上がろうとする。

 だが、途中でリアに手で制された。


「ダメですよ。アスタさんは怪我の治療が最優先です。それに……冒険者の人は忙がしいらしく、既にこの街を去ってしまったらしいですし」


「そ、そうなのか……?」


「はい。ですから、アスタさんはゆっくり休んでください」


 リアはニコリと柔らかな笑みを浮かべる。


「じゃあ……そうするか……」


 俺は瞼を閉じ、再び眠りにつこうとする。

 ……ん、待てよ?


 なんか、おかしくないか???


 やけに頭の下が柔らかくて、温かい気がする。

 なによりも、リアの顔が何故か真上にあるのだ。


「……なあ、リア。俺は今、どこで寝てる?」


「……? 家の中ではないのですか?」


「いや、そういう訳じゃなくて――」


 俺は頭の下の柔らかな膝に視線を移す。


「……俺、リアに膝枕されてる?」


「はい。そうですよ?」


 リアは俺の顔を上から覗き込みながら、微笑む。


 俺は慌てて離れようとするも、リアに肩を押さえつけられ、それは叶わなかった。


「ダメですよ、安静にしていなきゃ」


「ふ、普通の枕で寝かせてくれないか? 20歳が10歳くらいの子に膝枕されるなんて色々とダメな気がするというか……」


「……そうですね、そうかもしれません」


「じゃあ――」


「――でも、ダメです……っ!」


 リアは俺の頭に手を伸ばす。


 そして、優しく頭を撫でた。


「……今は私がアスタさんを甘やかしたい気分なんです。私のために自分よりも強い相手に立ち向かって、命を賭けてでも私を守ろうとしてくれたんですから……私に少しくらい、お礼させてください……!」


「っ……リア……」


 リアは満面の笑みを浮かべてから。

 愛おしそうな眼差しを向けて。

 優しく俺の頬に触れて――


「約束を守ってくれてありがとうございます。お陰様で……私は救われました」


 心底、嬉しそうに言った。


 こんな満面の笑み、初めて見た。


 いや、よく見れば纏う雰囲気が少し変わっている。


 今までは人を寄せ付けないようなピリピリとした雰囲気だった。

 けれど、今は柔らかで日向のような温かいものになっている。


 何より――


 リアに触れても、ドス黒い何かを感じなくなっていた。


「そっか。なら良かったよ」


 1人の少女の心を救うことができたなら、命懸けで助けた甲斐もあったというものだ。


「じゃあ、私は夜ご飯を作ってきますね……! お腹も空いているでしょう?」


「悪いな、ここまで家まで運ばせた上に、ご飯も作ってもらちゃって……」


「いえいえ、私は――アスタさんの従者ですから……!」


 リアは嬉しそうに言うと、キッチンの奥へ消えていった。


 ……行ったか。


「……10歳の少女が俺を家まで運ぶ……ね。本当にリアは何者なんだろうなぁ……」


 どうやら、俺はとんでもない少女を拾い、従者にしてしまったようだ。



 ――◇――◇――◇――



「いやぁ、本当に凄く美味しかったよ」


 昼食後、俺は食器を洗っているリアを眺めながら、感謝を告げる。


 晩飯はリア特製のビーフシチューだった。

 めちゃくちゃ美味かったです。


「いえいえ、気に入ってもらえたのなら幸いです」


「なんというか……今日はリアに助けてもらってばかりだな。何か、してほしいこととかあるか?」


「そんな……! 気にしないでください。私がアスタさんの従者であることを忘れたんですか?」


「そう……かもだけど……」


 なんというか……10歳の少女に一方的に色々と尽くしてもらうのはプライドがな……。


 俺が複雑な感情を持て余していると――


「――あっ! それなら、アスタさんに見てもらいたいものがあるんです! 良いですか?」


「もちろんだよ。でも、見てもらいたいものって……?」


「ええっと……ちょっと待っていてくださいね?」


 リアは皿洗いを中断して、洗面所へ駆けていく。


 なんだ?

 俺が疑問に思っていると――


 数分後、洗面所の扉からリアが現れた。


「――ど、どうですか……? 今日買ったメイド服を着てみたのですが……」


「ッ!?!?!?」


 メイド服に身を包んだリアは、少し恥ずかしそうにスカートを持ち上げてカーテシーをする。


 ロングスカートではなく、ミニスカにフリルがついた可愛さに全振りしたメイド服は、あまりにもリアに似合っていた。


「可愛い……」


「本当ですか……! 嬉しいです……っ!」


 リアは、パアっと笑みを浮かべた。


 か、可愛すぎる。

 俺は慌てて目元を抑えた。


 これ、何かの罪に問われたりしないよな?

 俺は断じてロリコンではないし、特別な感情は一切、感じていないのだが……メイド服姿の直視できないくらい可愛かった。


「どうかいたしましたか? アスタさん……いえ、ご主人様……っ!」


「ご、ご主人様は勘弁してくれ……」


「じゃあ、旦那様でしょうか?」


「そ、それも勘弁してくれ……。今まで通り、アスタで頼む」


「それじゃあメイドっぽくないのですが……わかりました」


 リアは少し不満げに頬を膨らませた。


 冷静に考えれば、10歳の女の子を従者にメイド服を着せている俺って……とんでもない人間に見えてるんじゃ……。


「り、リア? 一応、もう一回言っておくけど、従者になるのもメイド服を着るのも、無理してしなくていいんだぞ?」


「……? 無理なんてしてませんよ……?」


 リアは不思議そうに首を傾げる。


 そっか……リアは純粋だから違和感を抱かないのか……。


「……わかった。け、けど、家の外ではメイド服は禁止だ! いいか?」


「ええ、勿論ですっ! このメイド服はアスタさん専用というわけですね?」


 いや、そういうわけじゃないんだけどなぁ……。


 訂正するのも面倒だし、俺は苦笑いを浮かべて、その場をやり過ごすのであった。


 

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