第42話 答え合わせと……告白
「アリ……シア……!?」
ヴェールの中から現れたのは――銀髪を靡かせ、透き通った碧眼を向ける少女――アリシアだった。
な、何が起こってるんだ……!?
まさか――
「アリシア、リアの変装をしていたのか……!?」
「ん~……」
アリシアは顎に手を当てて可愛らしく考えると――
「――変装をしていた、というより元々、リアちゃんは私ですっ!」
「……へ?」
彼女が言っていることの意味がわからなかった。
『リアちゃんは私』……?
リア=アリシア?
「いやいやいや、まさか……流石に俺でも、そんな冗談に騙されないよ」
「いえ、冗談じゃありませんよ? そういえば……赤い石がついたペンダント……私、すっごく嬉しかったです!」
「っ……!? どうして……それを……!?」
頭の中が疑問符で埋め尽くされていく。
なんで、アリシアがそのことを知っているんだ?
まさか――本当にリアの正体はアリシアだったのか!?
……いや、まだ断定するには早い。
リアのペンダントを見て、勝手に推測したのかもしれないし――
「――そういえば、私の作った料理、アスタさんは美味しそうに食べてくれましたよね。アスタさんが王都を出発する前日にはグラタンを作りましたっけ……」
「嘘……だろ……?」
「それと、最近、寂しいんですよね。前までは毎晩、アスタさんを抱きしめて寝ていたので、王都に来てからアスタさん、一緒に寝てくれませんので……」
「あ……え……」
嘘だろ。
嘘だろ嘘だろ嘘だろ、嘘であってくれ!
「じゃあ、俺たちが出会った場所は!?」
「路地裏ですよね。それも確か……ギルドから少し歩いたところにある魔道具屋と武器屋の間の路地裏です」
「さ、最初に俺がリアに露店で買ってあげた食べ物は……」
「鯛焼きでしたよね。美味しかったですよ、あれ」
「………………マジ、ですか……」
ここまで完璧に返答されて、疑うことはもう出来なかった。
じゃあ……俺は今までずっと片思い相手であるアリシアと同棲して、手料理も振る舞ってもらって……。
挙げ句の果てには一緒に寝ていた……!?
それも、アリシアに抱きしめられながら……。
「なんで俺……気づかなかったんだよぉ……」
俺は地面にうずくまって頭を抱えた。
それでも、何年もアリシアを追い続けていたのに気づかなかったなんて……!
いや、今はそれよりも――
「……じゃあ俺、リアだと思って……アリシアに想いを打ち明けちゃったんだな……」
「ええ、完全に告白でしたよ? 凄く凄く嬉しかったです!」
アリシアは満面の笑みを浮かべていた。
「でも……どうして、幼い少女の姿に……?」
「それは……ランベルクさんのせいですね」
「ランベルクか……」
「良心が咎めたんでしょう……ランベルクさんは私の姿を変えた後、こっそり逃がしてくれました」
「その後……俺がいた街まで逃げてきて……そこを俺が見つけたってことか」
アリシアは深く頷いた。
「私……凄く救われたんですよ? 実はあの時、既に魔女の力には目覚めていて……今すぐにでも、世界を滅ぼそうとしていましたから」
「ッ!? そ、そうか……じゃあ、俺はそこを偶然……」
一瞬、心臓がドキリと跳ねた。
アリシアが魔女化した先にあるのは……本来、終焉だ。
魔女の力は負の感情に応じて強くなっていく。
今でさえ、原作最強格のランベルクとほぼ互角の戦いをしていたのだから……絶望の底に沈んだアリシアなら世界を滅ぼすことなんて容易だろう。
「……アスタさん? どうしましたか?」
「あ、ああ、いや……な、なんでもないよ! それよりも……」
俺は言葉を濁しながら、アリシアを見つめる。
今は、アリシアが魔女とか世界を滅ぼすとかはどうでもいいのだ。
それよりも……言わなきゃいけないことが俺にはあった。
俺はアリシアの瞳をまっすぐに見つめて……軽く息を整えた。
その間、俺達の間には沈黙が走る。
永遠のように感じる沈黙の後……俺はゆっくりと口を開いた。
「――俺は……アリシアのことが好きだ」
「……それは、私の秘密を知った上で、ですか?」
「勿論」
「……でも、私、結構重いですよ? 例えば……嫉妬のあまり、ギルドの新人職員のフリをするくらいには……」
アリシアは俯くと表情を曇らせる。
その後――アリシアは小さく詠唱をすると……彼女の姿は少し大人びた銀髪赤目の女性のものへと変わっていった。
俺は――その姿をよく知っている。
「――シア……さん!? シアさんもアリシアの変装だったのか……?」
「はい……。今まで、騙していてすみません。アスタさんが毎日、遅くに帰ってくるのが耐えきれなくて……新人職員のフリをしていました……」
「そう……だったのか……」
まさか……シアさんもアリシアだったなんて……。
……じゃあ、職場でやけにくっついてきたり、出張で甘えてきたのも、中身がアリシアだったからか……!?
「……いや、待てよ? じゃあ……俺はシアと一緒にリアへ贈るものを選んでいたのか!?」
「あ、あはは……そう……なりますね」
アリシアは苦笑いを浮かべて誤魔化した。
「でも……シアさんが居たお陰で助かってた面もあるからなぁ……」
お陰でシアさんが来てからは毎日定時で帰れるようになった。
そう思うと……俺は家から職場までありとあらゆる場所でアリシアの世話になっていたのか……!?
「……もしかして、外堀って埋められてる?」
「まあ……そうかも知れませんね。もし私を振ったら、美味しいご飯も定時帰りもアスタさんは失っちゃいますね」
アリシアはイタズラが成功した子供のような笑みを浮かべながら、俺の顔を覗き込む。
「そりゃあ……困ったな」
「ふふっ、冗談はさておき……ここまでの話を聞いても、こんなに嘘まみれな私をアスタさんは好きでいてくれますか?」
そう言うアリシアの瞳の奥には微かに不安が浮かんでいた。
「――当然、好きに決まってるだろ……!」
即答だった。
そんなの……アリシアの魅力に比べれば些事だ。
「そ、そんなに……。そういえば、アスタさんは私のどこに惹かれたんですか?」
「そんなの沢山ありすぎてな……頑張り屋な所だろ? あと好きな人に健気に尽くす所とちょっとあざとい所と、料理が上手いのは勿論、家事も完璧だし……」
ああもう、挙げたらキリがないなぁ……。
でも……一番、大きい理由を答えるとしたら――
「一番は……俺が大変だった時に俺を救ってくれたから……かな」
「……救った……ですか?」
「ああ、どん底にいた俺を……救ってくれた」
アリシアというキャラは……とても不憫だ。
親にも教会にも友人にも……沢山の人に裏切られる。
それでも主人公を信じ続け、歩みを決して止めない。
他のプレイヤーからすれば、アリシアはよく居る不憫だけど頑張っている健気なキャラの一人に見えただろう。
けれど……前世でどん底にいた俺は……アリシアに救われた。
彼女がただ創作物であることはわかっている。
それを踏まえたうえで……俺はアリシアというキャラクターに惹かれたのだ。
「アリシア」
決意が揺らぐことはない。
言葉を紡ぐ。ゆっくりと一文字ずつ、どの想いも取りこぼさないように丁寧に……この想いを言葉にしていく。
「――アリシア……俺は貴方のことが好きです。前世からずっとずっと……好きです。だから……! これからも側に……居てくれませんか?」
「~~~ッ!? も、勿論です……! 私でよければ……これからも、よろしくお願いしますっ!」
アリシアは顔を真っ赤に染め……気恥ずかしそうな仕草で俺の手を取った。




