第41話 告白
「……そろそろ、私の秘密を明かさないといけませんね」
アリシアは覚悟を決めたような瞳で言った。
「アリシア……別に言いたくなかったら言う必要なんてないんだぞ?」
「いえ、これは元から決めていたことですし……これを隠したまま、これからもアスタさんと過ごすのはズルいと思いましたから」
「そう……か?」
アリシアは深く頷く。
「今からアスタさんに会ってほしい人がいるんです」
「……会ってほしい人?」
「ええ、アスタさんも知っている人でしょうし、今から呼んできますね」
そう言って、アリシアは部屋から出ていった。
「……一体、誰なんだ?」
俺は不思議に思いながら待ち続けると、扉が開いた。
その向こうにいたのは見覚えのある黒髪の可愛らしい少女――
「――リア……!?」
思わず、俺の口から彼女の名前が零れた。
「はいっ……! アスタさん、1週間ぶりですね! 私が居ない間、アリシアさんとのデートは楽しかったですか?」
「ッ……で、デートという訳じゃ……」
「むっ……でしたら、駆け落ちですか?」
「ま、待ってくれ。何か誤解がないか?」
俺は焦ってリアを宥めようとする。
しかし、リアはずっとニヤニヤと笑みを浮かべたままだった。
「実際……どうなんですか? アスタさんはアリシアさんのこと、どう思っているんですか?」
リアは真っ直ぐな瞳を俺に向ける。
「いや……まあ、そりゃあ……」
しかし、俺はそこで言葉を止めた。
そういえば、アリシアはどこに行ったんだ?
「大丈夫ですよ。アリシアさんなら、少し用があると言って外出しました」
「そう……か」
なら、少し恥ずかしいが……リアには言ってしまってもいいか。
「俺は……確かに、アリシアのことが好きだよ」
「ッ……!? や、やっぱり……でも、どうしてですか? アスタさんは、アリシアさんと殆ど面識がなかったはずですよね?」
「まあ……少し前に人生で初めて会ったくらいだしな」
俺は「でも」と言葉を続ける。
「こんなこと、アリシアが聞いたら気持ち悪く思うかもしれないけど……俺はずっと前からアリシアを知っていたし……好きだった」
「ずっと……前?」
「ああ。とんでもなく昔から……ね。俺はアリシアに惹かれて……好きになったんだよ」
本人に言っているわけではないとはいえ……恥ずかしいな。
自分の顔が熱くなっていく。
「ま、まあ、そんなわけでアリシアを追いかけるために……いつか彼女の側に居られるように冒険者になったんだよ」
「っ……そうだったんですね。そんな昔から……」
リアは驚愕で目を見開いた。
少しこの話はキモかっただろうか。
ちょっとストーカーみたいだもんな。
そう思っていると――リアはゆっくりと口を開いた。
「……じゃあ、私からも一つ、いいですか」
リアは真剣な表情をしていた。
瞳の奥には強い覚悟が秘められているがわかった。
まさか――
「――私は……貴方が好きです」
「っ……リア……」
「親にも何もかもに裏切られた私は貴方が助けてくれたお陰で……救われました。まだアスタさん以外の人を信じることは難しいですが……でも、人に希望を見出すことができました」
リアは真剣な眼差しのまま、ゆっくりと言葉を紡いでいく。
「アスタさんは……私に初めて無償の愛をくれました。温かいご飯を与えてくれて、私の頭を優しく撫でてくれて……そして、私との約束を守ってくれて――」
リアは俺の手をギュッと握って、儚げに微笑むと――
「私は――そんな貴方が大好きです」
「リ……ア……」
胸が少し苦しくなった。
彼女はきっと……振られるとわかっていても、俺がアリシアと結ばれる前に告白したのだろう。
その想いは……どれだけ苦しいものなのだろうか。
「ごめん……リア。さっき言った通り、俺は……アリシアのことが好きなんだ」
「はい、わかってますよ。ですから――私がアリシアなんです」
「うん。……ん?」
リアの言葉の意味が、わからなかった。
俺はリアの顔を見ると……彼女はニヤニヤと笑みを浮かべていた。
まるで悪戯が成功した子供のようだ。
今、彼女はなんて言った?
私が……アリシア?
「意味がわからない……といった様子ですね。アスタさん」
「あ、ああ……全く意味がわからない。流石にその嘘は無理があると思うぞ……?」
俺はそう言うも、リアは首を横に降る。
「いえ、嘘なんかじゃありませんよ。アスタさん、私は言ったじゃないですか。全てが終わったら――私の嘘を教える……と」
「ッ!? どうして、リアがそのことを……」
リアとアリシアの間には、面識が無いはず。
アリシアの嘘のことなんて、知るよしがないのに……。
俺は酷く困惑していた。
すると、それを見てリアは蠱惑的に微笑んだ。
「アスタさん、私がしたのは『《《告白》》』ではございません」
「え……?」
「私がしたのは――告白への『《《お返事》》』です」
リアがそう言った瞬間、今まで見えていなかった透明なヴェールが彼女の全身から剥がれ落ちていった。
中から現れたのは……銀髪を靡かせ、透き通った碧眼を向ける少女――アリシアだった。




