第40話 月の聖女は『最強』と対峙する 3
「よし、ランベルク! じゃあお前、今から騎士やめろ」
「……は?」
ランベルクは目を丸くして、腑抜けた声を漏らした。
「な、何を言っているんだ? 騎士を……やめる?」
「どうせ、教会も国も取り返しつかないくらい腐ってんだし、騎士を続ける理由なんて無いだろ?」
「ッ……つまり、僕に裏切れと?」
ランベルクは微かに怒りを露わにした。
「裏切ったも何も……初めにランベルクの期待や神を裏切ったのは教会側だろ? いい加減、自覚してくれ。――お前はもう裏切られてるんだよ」
「ッ!?」
ランベルクは教会に対して盲信的で鈍感でもあった。
――それが原因で、原作で教会側に裏切られて死亡することになるくらいには。
「いい加減、目を覚ませよ。ランベルク」
俺はそっと刀をランベルクの首に押し付けた。
これでもまだ、盲信的に教会を信じる救いようのない馬鹿だったのならば――俺はこいつを殺すしかない。
すると、ランベルクはゆっくりと口を開いた。
「僕は……生まれた時から騎士として生きるように育てられてきたのだ。そんな僕から騎士を取ったら……一体、僕には何が残るのだ……?」
初めて聞いた話だった。
騎士として育てられた……か。
恐らく……ランベルクは『教会に尽さなければいけない』という考えが洗脳的に植え付けられているのだろう。
「ランベルクには……強大な力があるじゃないか。それがあれば――なんだって出来る。教会に拘る必要なんてないんだよ」
「それは……そうだが……今更、自由に生きるなんて」
不安そうな顔を浮かべる。
ああもう、面倒臭いな。
「ああもう! なら、お前、勇者パーティに入れ! んで、あのお人好し勇者と一緒に困ってる人を助けるためにでも生きろよ」
「勇者と……? 君の部下になれ、とか言われると思っていたのだが……」
「いや、俺もこんな騎士が部下に居ても困るよ……」
俺は小さく溜め息をつく。
「決めろ、ランベルク。死ぬか……騎士を捨てるか」
「僕は……」
「もしも、騎士を捨てるなら、そのペンダントを砕いてくれ。それがケジメだ」
俺はランベルクが首からかけているペンダントに視線を向ける。
それは騎士王の証だった。
「僕は……」
ランベルクはペンダントを見つめる。
その瞳には葛藤、恐れ、不安など様々な感情が混ざっていた。
しかし――瞬きをした後、その瞳はハッキリとしたものになった。
真っ直ぐな瞳をしたランベルクはペンダントを握り――
――それを砕いた。
「これで……僕はこれから、ただのランベルクになった」
そう言ったランベルクは、やけに清々しい表情をしていた。
「ああ、そうだな」
俺は刀を鞘に収める。
これで、最大の障害は排除された。
後は――証拠を集めて、アリシアとランベルクの名前を借りて教会の悪事を公表すればいい。
そうすれば、勇者とランベルクがきっと世界を救ってくれる。
ハッピーエンドはもう近かった。
「じゃあ……アスタさん、証拠を集めに行きましょう」
アリシアが俺の手を握って、そう言った。
「そうだな、行こうか。だが、その前に……」
俺は聖女の力が込められたクリスタルに手を伸ばし――
「〈アイテムボックス〉」
すると、クリスタルは亜空間に吸い込まれていく。
ふぅ、なんとか入ったようだ。
「じゃあ、行こうか」
その後――証拠は大量に見つかった。
教会の悪事、アリシアの義両親が計画に深く関わっていたこと、そして――
「……私を引き取る前から……あの人たちは私の力を奪うつもりだったんですね」
アリシアは計画書を見て、ボソッと呟いた。
「アリシア……」
俺は、そっと彼女の手を握る力を強める。
「大丈夫です、元々わかりきっていた事ですから。それに……今の私にはアスタさんが居ますし」
アリシアは手を握り返すと、計画書を仕舞った。
「さっ、証拠も手に入れましたし、帰りましょう?」
「そうだな」
俺たちは、そっと教会を後にした。
――◇――◇――◇――
そして、数日後――
俺たちは貴族と教会の悪事を告発した。
聖女であったアリシア本人が告発したこと。
そして、騎士王として名高いランベルクの名もあったことで、すぐに悪事は広まった。
結果―― 1週間後に王城で裁判のようなものが行われることとなった。
「無事に上手くいって良かったですね……!」
宿屋にて。
アリシアはベッドに腰をかけながら、笑みを浮かべた。
「本当だよ……ランベルクと対峙した時はどうなることかと思った」
「ふふっ、そうですね……!」
アリシアは笑って答えた。
しかし、次第に彼女の表情は少し寂しそうなものになる。
彼女は覚悟を決めたような瞳で――
「……そろそろ、私の秘密を明かさないといけませんね」
そう言った。




