第39話 月の聖女は『最強』と対峙する 2
「ど、どうしましょうか……」
アリシアは困った様子で、俺の方へ体を寄せる。
相手はほぼ不死の最強キャラ。
彼女に勝ち目は殆ど無い。
「――アリシア、俺に任せてくれないか?」
俺はアリシアに耳打ちする。
すると、アリシアも耳元で話し出した。
「でも……ランベルクさんは不死身なんですよね? どうやって倒すつもりなんですか?」
「ああ、ランベルクは不死身の体を持ってる。でも――魂は不死身じゃない」
「ッ……魂を消すんですか? どうやって……」
俺は虚空に手を伸ばし、小さく呟いた。
「――アイテムボックス」
すると、虚空に黒い穴が開いた。
俺はそこに手を突っ込むと――中から一本の刀を取り出した。
一切の装飾が施されておらず、全てが真っ黒で禍々しい刀には――アリシアも見覚えがあるはずだ。
「……呪いの武器……ッ! ダメです、アスタさん! それだけは使っちゃいけません! 体力と精神力が吸われて……もしかしたら、廃人になってしまうかもしれないんですよ!?」
「でも、ここで勝たなきゃ俺たちは良くて極刑だよ」
「そう……かもしれませんが……」
今度はアリシアが苦虫を噛み潰したような苦い顔をする。
彼女はしばらく考えた末に――
「……わかりました。ですが、まずは私がランベルクさんを拘束します。それまでアスタさんは戦わないでください」
「大丈夫か? ランベルクは身体能力や剣技も化け物級だぞ?」
「ふふっ、私だって身体能力では負けてませんから」
アリシアは自信満々に答えると――ランベルクの方を向く。
「――覚悟が決まったみたいですね、お二人とも」
「ええ――貴方を殺す覚悟が決まりました、ランベルクさん」
アリシアは一歩、前に出る。
「……うん? まさか、アリシア様自身が僕と戦うおつもりですか?」
「ええ、そうです。もしかして、ご不満ですか?」
「そりゃあ……」
ランベルクは怪訝そうな瞳をアリシアに向ける。
ランベルクはまだ、アリシアが魔女の力に目覚めたと知らないのだ。
アリシアのことを、なんの力もないか弱い少女だと思っている。
――その誤解は勝負を決するには十分すぎた。
「――ランベルクさん、私は本気です」
アリシアは懐から短剣を抜き、ランベルクへ駆け出す。
対してランベルクは困惑しつつも、アリシアを迎え撃とうと剣を構えた。
――刹那、ランベルクの背後から音もなく巨大な黒い腕が現れた。
その腕は無防備な背中を晒すランベルクを、勢いよく掴む。
「うぐっ……なん……だ……?」
困惑するランベルクは、自分の体を拘束する黒い腕を見て、驚愕で目を見開いた。
「――なんだこれは!? あまりにも禍々し過ぎる……! アリシア様、貴方は一体……」
「さあ、なんでしょうね」
アリシアはクスクスと黒い微笑を浮かべた。
その間にも俺はランベルクとの距離を詰めていく。
そして、動けないでいるランベルクへ刀を振り上げ――
――いや、本当にこれで良いのか?
ふと、疑問が頭をよぎった。
――そもそも、騎士王ランベルクはこんなにも容易く倒せる相手だったか?
ツゥっと冷や汗が背中に流れた。
俺は咄嗟に後ろに飛び退いた。
次の瞬間――巨大な爆発音が耳をつんざいた。
ランベルクが《《爆発》》したのである。
「ッ……嘘……だろ……」
もしも、飛び退いていなかったら俺の負けだった。
あと少しで……死んでいたのだ。
「――本当に君は勘がいいね」
煙が晴れた時、そこには無傷のランベルクがいた。
それも……強欲の腕に拘束もされていない。
「まさか――自爆か。イカれてやがる」
「御名答。なんだか……僕も嫌な予感がしてね」
ランベルクは俺の握る刀に視線を送る。
「それは呪いの武器だな? それも僕をも殺す力を秘めているとみた」
「ッ……!? どうして……」
「君たちの動きを見ればお見通しだよ。つまり、僕は君の攻撃にさえ気をつければ良いというわけだ」
「くっ……」
全部、バレてる……!
いや、どちらにしても拘束しても魔法で自爆されてしまうのだから、拘束しても意味がない。
なら……勝ち目なんて無いじゃないか。
俺は絶望し、必死に頭を回す。
「――じゃあ、もう終わらせよう」
ランベルクは剣を構えると――アリシアに向かって駆け出した。
そして彼は、容赦無くアリシアに剣を振り下ろす。
「っ……負けま……せん……!」
アリシアは攻撃を避けると、黒い腕を使い、なんとか反撃していく。
しかし――どれも直ぐに剣で切り裂かれていった。
明らかにアリシアの劣勢だ。
このままじゃ……アリシアも負けてしまうかもしれない。
「……やるしかない」
折角、あと少しでアリシアと結ばれそうなのに、ここで殺されてたまるか。
俺は刀を構え、助太刀しようと駆け出した。
挟み撃ちであれば、俺にも勝機があるはずだ。
俺は――ランベルクの背後から斬りかかった。
「――おっと」
しかし、まるで彼は背中に目でも付いているかのように、華麗なステップで攻撃を避ける。
そのまま流れるように振り向いたランベルクは剣を俺へ振り下ろす。
よし、これなら――
俺も刀をランベルクへ振るう。
当然、互いの武器はぶつかり合い、俺の刀は弾かれる。
――普通なら。
しかし、これは万物を切り裂く呪いの刀。
ランベルクの剣も例外ではない。
「なんだと……っ!?」
――刀は熱したナイフでバターを切るように剣を一刀両断しした。
そして、そのままの勢いで刀はランベルクへ迫る。
「ならば――」
ランベルクが微かに口を動かした。
まさか、また自爆の魔法を使うつもりか!
ここで仕切り直しになったら……初見殺しの技を使い切った俺たちに勝ち目は無い。
冷や汗が頬を伝い落ちた。
「――させません」
その時だった。
ランベルクの背後から巨大な黒い腕が現れ、それは彼の体を握り――淡く光った。
「――〈強欲の腕〉で魔力を奪いました!」
「アリシア……! よくやった……!」
魔法は魔力が無ければ発動できない。
ランベルクの自爆の魔法は不発に終わった。
俺は刀をランベルクの首に添える。
俺たちの勝ちだ。
「……ははっ、まさか……それは魔女の力ですか」
ランベルクは苦い顔をしてアリシアを見つめた。
「ええ。私には聖女の素質だけでなく、魔女の素質もあったみたいです」
「そうか……その力を使ってアリシア様はその男と共に復讐をするつもりですか?」
そう言うランベルクは寂しげな瞳をしていた。
「――復讐ですか? そんなつまらないこと、興味ありませんよ」
「ッ……嘘なんて言わなくていい。復讐じゃなきゃどうしてここに来たんだ?」
「それは……」
アリシアは俺に視線を送ってくる。
「このまま、教会を放置したら世界が滅ぶからだな」
「ッ……どうしてわかる? そうならない可能性だって……」
「逆にどうしてランベルクは教会を放置していいと思うんだ? こんなクソみたいな団体、放置していいわけないだろ」
少しイライラしていた。
ランベルクは俺よりも圧倒的に強い。
だというのに……その力に見合った行動をしないのだ。
ゲーム内でも……今回でも。
「――最強なら最強らしい行動をしろよ……」
つい、思っていた言葉が口から漏れた。
「……そうだな。確かに……思えばそうだ。僕は騎士のプライドばかり気にして、するべき行動をしていなかった……」
ランベルクは自嘲するような乾いた笑いを浮かべると――
「でも、今更後悔したところで遅いか」
そう言った。
「……へえ、後悔はしてるんだな」
ランベルクの表情を見て、良い考えが脳裏をよぎった。
これなら――随分と楽を出来るかもしれない。
「よし、ランベルク! じゃあお前、今から騎士やめろ」
「……は?」
ランベルクは目を丸くして、腑抜けた声を漏らした。




