第38話 月の聖女は『最強』と対峙する
変装した俺たちは簡単に大教会に潜入することができた。
「……実際に大教会の中ってこんな感じなんだな」
俺は室内を見渡しながら言った。
巨大な礼拝堂に、数えきれないほどの人々、ステンドグラスから入り込む光は幻想的な雰囲気を生み出している。
「大きいですよね……でも、今日は礼拝堂には用事はないですので、あっちの通路に行きましょう」
「わかった」
通路を通っていくと――長い廊下に出た。
そこでは騎士やシスターなどの教会の関係者だけが出歩いている。
恐らく……ここのどこかに教会の秘密がある。
――まあ、場所なんて最初からわかっているんだけどな。
「さて……ここのどこかに、地下室に繋がる扉があるはずです」
「アリシアは、そこで聖女の力を奪われたのか」
「ええ。でも……目隠しをされて連れて行かれたので扉の場所がわからないんです……」
「それなら、俺についてきてくれ」
「……? 扉の場所がわかるんですか?」
「まあ……ね」
どう説明しようか……。
最悪の場合、教会の関係者だと疑われるかもしれないし……。
かといって、今、ゲームの話を打ち明けるわけには――
「――大丈夫ですよ。私はアスタさんのことを信じていますから。理由はいつか、教えてくれればいいです」
アリシアは、俺を安心させるように俺の手を握った。
「アリシア……! ありがとう、絶対にいつか話すから」
「いつでも大丈夫ですよ。じゃあ、行きましょうか」
俺はまず一階の右端にある部屋に行く。
中に入ると、部屋には大きな鏡や教会で使うであろう様々な備品が置いてあった。
「まるで物置部屋ですね……ここに入ったことは何度かありますが……本当にここに扉が……?」
「ああ。この大きな鏡に指でとある模様を描くと――」
俺は鏡の上に指を走らせ……逆さの十字架を描く。
すると、カチッと何処かから音がした。
次の瞬間――床の一部がゴゴゴと音を立てながら開いていった。
「っ……!? 本当にこんなところに地下室の扉が……!」
アリシアは驚愕と失望が混ざったような、顔で扉を見つめた。
「じゃあ、行こうか。ここからは慎重にな?」
「はい……っ!」
俺たちは気を引き締めると、地下室の階段を降りる。
「嫌な雰囲気だな」
階段を降りれば降りるほど、重苦しい雰囲気が広がっていき……下り切ると、そこには巨大な扉があった。
「ここから入るしかないみたいですね」
「うん。アリシア、戦いになるかもだから気を引き締めてくれ」
「ええ、勿論です」
アリシアはキリッとした表情で自信満々に答えた。
対して俺は、アイテムボックスから魔銃を取り出し、いつでも戦えるようにしておく。
「じゃあ、開けるぞ」
俺は扉を押し開ける。
真っ先に目に入ったのは床に描かれた巨大な魔法陣だった。
しかし、注目すべきは魔法陣……ではなく、その中心に置かれた少女一人分くらいの巨大なクリスタルだ。
そこからは見ているだけで身震いするような神聖な力を感じる。
恐らくだが、これは――
「アリシアから奪った聖女の力を貯めている……のか?」
「多分、そうだと思います。……力を奪われた時に似たようなものを見ました」
「じゃあ、これを……」
普通に運ぶのは難しいだろうが、アイテムボックスに入れれば、持ち運び可能だろう。
「よしっ、じゃあ、早速これを回収すれば――」
俺はクリスタルへ歩みを進め、触れようと手を伸ばした。
刹那――嫌な予感がした。
俺は咄嗟に横に飛び退くと――
――銀色の剣閃が俺がいた場所を切り裂いた。
「――へえ、随分と勘がいいんだね」
背後から、声が聞こえた。
アリシアのものではない、好青年のような声。
しかし、俺はその声を知っていた。
俺は振り返ると――俺とアリシアの間に、白銀の鎧に身を包み、白銀の剣を握った青年が居た。
間違いない、こいつ――
「騎士王ランベルク……」
「へえ、僕の名前を知ってくれているのか。それは凄く光栄だ」
「っ……そりゃあ、知っているさ」
何せ、騎士王ランベルクは――作中最強キャラとして名高いのだから。
同時に彼は、過去にスタンピードが起きたとき、俺が苦戦していたモンスターをいとも容易く蹂躙していき、俺の心を折った人物でもある。
忘れるわけがない。
「そうか……そういえば、騎士王ランベルクは教会陣営だったな……」
いつか対峙することになると思っていたが……まさか、こんな早く対峙することになるとは。
「――ランベルクさん……なんでここに……」
アリシアが呆然と彼の名を呼んだ。
「ん? もしかして、君も僕のことを知っているのかい? でも……悪いね。僕は君のことも一切、知らないんだ」
「っ……いえ、それはあり得ません。貴方は私のことを知っているはずです」
アリシアは詠唱すると……周りのヴェールが剥がれ落ちていく。
そして、ヴェールの中からは純白の修道服に身を包んだ銀髪碧眼の少女――聖女の姿となったアリシアが現れた。
「っ……あ、貴方は……アリシア……様……!? どうやって、元の姿に……!?」
「それは……色々とあるんです。それよりも彼は私の仲間ですから、手を引いていただけませんか?」
そうか、アリシアも元は教会側の人間。
騎士王ランベルクと知り合いなのか。
「それは……出来ません。僕の任務はこのクリスタルに近づくものを始末することですから」
ランベルクは苦虫を潰したような苦しげな顔で答えた。
「どうしてですか? 私を《《逃がすこと》》はしてくれたのに、今更、教会側に付くつもりですか?」
「ランベルクが……アリシアを逃がす……?」
ランベルクは俯いたままだった。
どうしてアリシアが力を奪われても生きているのかと思ったが……そういうことか。
「ランベルクさん、貴方もおかしいと思ったんじゃないですか? 聖女から力を奪い、私利私欲のために使うという神を冒涜したとしか思えない行為のことを」
「……教皇様はこれは世界の人々をさらに幸せにするためだとおっしゃっていた。決して、私利私欲のためなんかじゃ――」
「よくもそんな綺麗事、信じていられますね」
「ッ……」
ランベルクは酷く動揺し、彼の瞳にさっきまでの輝きはなくなっていた。
「私達を見逃すだけでいいんです。私だって命の恩人であるランベルクさんと戦いたくありません」
ランベルクは、俯きながら沈黙した。
しばらくの静寂の後、ランベルクはゆっくりと口を開く。
「私は騎士だ。――例え、どんな事があっても裏切ることはしない」
ランベルクは剣を構えた。
「そうですか……交渉決裂ですね」
やっぱり……戦うしかないのか。
アリシアは両手を構え――
「――アリシア。待ってくれ!」
「なんですか……?」
「ランベルクはほぼ不死身だ。例え、消し炭になっても体が再生する。だからアリシアじゃ絶対に勝てない」
「そんな馬鹿な……」
圧倒的な実力とほぼ不死身の体。
それがランベルクを最強たらしめる理由だった。
アリシアじゃ持久戦になれば……勝ち筋はないと言っても過言ではないだろう。
まさにこの状況は絶体絶命だった。




