第36話 月の聖女は一緒に寝たい
「今日は、ここら辺で野営でしょうか……?」
「そうだな……」
アリシアが起きた時には、既に日は落ち切ってしまっていた。
この暗闇の中、進むのは流石に怖い……ということで、途中の野営地で野営することになった。
「じゃあ、この岩陰付近にテントを張ろうか」
俺は棒と布で簡易的なテントを手早く設置していく。
「アスタさん、凄く慣れていますね……!」
「まあな。昔、冒険者だった時に野営は何回もしたからな」
「そうなんですね……!」
次に俺は木の枝を集めて、そこに魔法で火をつける。
ついでにアイテムボックスの中から炭や椅子を取り出し――ひとまず、野営の準備は終わった。
「……前も思ったのですが、その『アイテムボックス』? というのはズルくないですか?」
「そ、そうか?」
「はい、だって……その力で重さを気にせず何でも自由に持ち運びできるんですよね? ……何度考えても、凄くズルいです」
「まあ……確かに。でも、流石にある程度の制限はあるぞ? 大体、2m×2m×2mの空間分しか物を入れられないんだ」
「なるほど?」
アリシアは、空中を見つめて2m×2m×2mの空間を想像すると――
「……いや、それって馬車の荷台八個分くらいじゃないですか! やっぱり、ズルですよ!」
「そ、そうか……確かに、そうかも」
「本当、一体、どうやって身につけたんですか……そんなスキル……」
「まあ……それは秘密かな」
当然、このスキルも原作知識を用いて習得した。
確かに……アイテムボックスってチートだよな……。
「むっ……いつか、アスタさんも他の秘密、教えてくださいね……?」
「他の秘密?」
「たとえば……アスタさんが『この世界の未来がわかる』理由とか、です」
「ッ……! そ、それか……」
しかし、その理由を正直に言うとなると……俺はこの世界がゲームであることを話さなければいけなくなる。
その時、アリシアは……本当に事実を受け止めてくれるだろうか。
嘘を見抜く瞳があるから、嘘だと疑われることはないだろうが……
「――私は、どんな理由でも信じますし……受け止めますよ」
「っ……それはどうして?」
「そんなの決まってるじゃないですか。――アスタさんを信じているからです」
「っ……」
アリシアは、あたかもそれが当然かのように言った。
「……ありがとう、アリシア」
隣に座るアリシアを、愛おしく思いながら見つめた。
この世界がゲームであることは……生まれてから誰にも言ったことがなかった。
理由は単純。誰も信じないし、受け止めないと思っていたから。
しかし、この世界の行末という情報は……俺一人で抱えるには少し重すぎたのだ。
彼女の言葉で……その重荷をずっと背負っていた自分が報われたような気がした。
「あぁもう……」
アリシアと一緒に居れば居るほど、アリシアにさらに惚れていく。
もう既に諦めた恋だったはずなのに……今では絶対にアリシアを失いたくないとすら思っている。
「アリシア……」
「どうかしましたか?」
「絶対に、守るよ」
「ふぇっ!? と、突然、どうしたんですか?」
「あっ……ご、ごめん。つい思っていた言葉が……」
「そ、そうですか……」
チリチリと焚き火が燃える音だけが俺たちの間を支配した。
炎の光が反射しているのか……はたまた照れているのか、アリシアの顔は仄かに赤くなっている。
「……逆に一つ、訊いてもいいですか?」
「な、なんだ?」
「どうして……アスタさんは会って間もない私に、そんなに好意を寄せているんですか?」
「ッ……いやぁ、それは……」
流石にアリシアも違和感を覚えたか……。
「誰かと勘違いしているという訳では無いんですよね……?」
「まさか! 絶対にそれはないよ」
「なら、良かったです。いつか……その理由も教えてくださいね?」
「勿論だよ」
こう思うと、俺とアリシアは互いに秘密だらけだ。
俺はアリシアをゲームで知って惚れていて……アリシアはどこかで俺に救われて好意を持っている。
「ん……?」
……もしかしてだが……俺たちは、凄くすれ違っているのでは……?
そんな強い予感がした。
――◇――◇――◇――
「じゃあ、そろそろ寝ましょうか」
「そうだな」
晩飯を済ませた俺たちは、早めに就寝することにした。
「えっと……アリシアは馬車の荷台とテントの中、どっちがいい?」
「んー、じゃあ〜――」
アリシアは突然、俺の手を掴んだ。
そして、テントの方に歩いていき――
「――アスタさんと一緒にテントで寝たいですっ!」
「っ……そ、そう来たか……」
「ほら、一緒にくっついて寝たら暖かくなれますし、いいじゃないですか」
「……仕方ないな……」
俺たちはテントの中で隣合って横たわる。
テントの中は少し狭く、少し動けば肩が触れ合うような距離だった。
「……今回は襲ってくれてもいいんですよ?」
アリシアは俺の腕を抱きしめながら、蠱惑的に微笑んだ。




