第35話 月の聖女は甘えたい
「り……あ?」
俺は変身したアリシアの姿を見て、思わず、そんな言葉が漏れた。
あまりにも――似すぎている。
俺が想像していたリアの大人になった姿と完全に一致しているのだ。
「どうかしましたか?」
「い、いや……偶然か。なんでもないよ!」
「そうですか? もしかして――私の姿が誰かに似ていたりしました?」
そう言ってアリシアは首を傾げた。
「まあな。でも、多分、偶然だと思うから気にしなくてもいいぞ」
「わかりました!」
アリシアは、やけにニコニコとした笑みを浮かべていた。
「じゃあ、今日の夕方に馬車乗り場に集合でいいか? 俺は準備と馬車の手配をしてくるよ」
「了解です、でしたら、しばらく解散ですね」
そうして、俺たちは暫しの間、解散することになった。
――◇――◇――◇――
「ふぅ……なんとか、休みを一週間取れたぞ……」
夕方。
俺は疲れた果てた状態で馬車乗り場に立っていた。
ギルドの休みを取ったり、リアに置き手紙を書いたり、支度をしたり……とにかく、大変だったのだ。
しかし、なんとか時間に間に合ってよかった。
「――アスタさん! お待たせいたしました」
そうして俺が待っていると、アリシアがやって来た。
「すみません……準備に手間取ってしまって……」
「いいよいいよ。俺もついさっき来たところだし。それよりも……」
俺は周りを見渡す。
案の定、馬車乗り場では何人もの教会の騎士たちが巡回していた。
相手もアリシアを探すのに、相当必死のようだ。
「さっ、早く馬車に乗ろうか」
「そうですね……!」
俺たちは馬車に乗り込むと、直ぐに馬車は出発した。
とりあえずは……これで一安心だ。
「……ふぅ、それにしても、いつ私の存在がバレたんでしょうか……? 今までもこんな感じで姿を偽って過ごしてたんですけど……」
「湾岸都市とかじゃないか? あの時は、アリシアの姿だったよな……?」
「うーん……一応、目撃者の記憶は改ざんしたはずだったんですけどね……」
うん?
なんか、今、記憶を改ざんしたって聞こえたけど……?
……聞かなかったことにしよう。
「まあ、あの時は外だったし、誰かが覗き見てたんじゃないか?」
「……かもしれませんね。でも……それにしては、教会側の動きが遅くないですか? あの時、気づいていたのなら、もっと早く行動してもいいような……」
アリシアは顎に手を当てて、しばらく考えると――
「まあ、わからないものはしょうがないですね!」
「そうだな、少し気にしておくくらいにしておこう」
「ええ、折角のお出かけなんですから……!」
アリシアは嬉しそうに微笑んだ。
その顔を見ながら、少し考えにふける。
アリシアは――こんなに普通の女の子みたいだけど、一応、世界を滅ぼさんとし、ゲームでは裏ボスにもなった魔女……なんだよな。
一体、魔女の力に目覚めてから、彼女に何があったのだろうか。
彼女の心を救ったのは一体……何なんだろうか。
少しだけ、それが気になった。
同時に――彼女が苦しんでいる時に傍に居られなかったことが悔しかった。
「アスタさん? どうかしましたか?」
「ああいや、何でもないよ」
「そうですか……もしかして、これから教会に潜入するのが不安なんですか?」
「あ〜、まあ、そんな感じだな」
「任せてください、ちゃんと危なくなったら私が全力でお守りしますから」
「そりゃあ、頼もしいよ」
アリシアはやっぱり、良い子だな。
そうやって、羨望や尊敬のようなものが含んだ眼差しで彼女を見つめていると――
突然、アリシアと目が合った。
同時に彼女は小さく笑い――突然、俺の肩の上に頭を乗せてきた。
「そんな悲しそうな顔をしないでくださいよ。アスタさんは……凄い人ですよ」
「そう……か?」
「ええ、私が会ってきた人の中で1番、素敵です」
「っ……!?」
まるで告白みたいな言葉だった。
アリシアはそっと俺の頬に手を伸ばす。
「アスタさんは自己評価が低すぎるんですよ。もっと自信を持ってください……!」
「そうか……。ありがとうな、アリシア」
俺は無意識的にアリシアの頭を撫でようと手を伸ばしたが――途中で手を止めた。
しまった……!
リアを撫でる時みたいなノリで頭を撫でようとしてしまった……。
そう思っていると――突然、アリシアは俺の手を取り、自身の頭まで持っていく。
そして、俺に委ねるように彼女は瞳を閉じた。
「いいのか……?」
俺は恐る恐るアリシアの頭を撫でる。
アリシアの髪はさらさらで、試しに軽く手で髪を軽く梳いてみると、ほぼ何の抵抗もなく手は通り抜けていった。
同時にシャンプーの匂いが鼻腔をくすぐった。
そうして、俺はアリシアの頭を撫でていると――
「アリシア……?」
次第に安らかな寝息が聞こえてきた。
きっと……教会に追われて疲れてたんだろう。
アリシアが起きるまで、俺はそっと彼女を見守るのであった。




