第34話 月の聖女は悪戯する
「――なあ、アリシア。俺に一つ、いい案があるんだ」
もしも、これが成功すれば全てが解決する。
――そんな案が頭に浮かんだ。
「一体、なんでしょう……? 教会本部を爆発でもさせるんですか?」
「う、う〜ん、一旦、物騒な考えから離れようか?」
俺は笑顔で物騒な事を言うアリシアを見て、苦笑いを浮かべた。
もしかして、アリシアってかなりサイコパスなのか……?
「むっ……でしたら、なんでしょうか?」
「恐らくだけど……アリシアの義両親は貴族だから、暴力よりも、もっと良い方法があると思うんだ」
「暴力よりも良い方法……ですか? あの人達は、言葉で改心させられるほど、まともではないですよ?」
「ああ。でも、暴力で解決しようにも、俺達だけで関係者全員を探し出すのは難しいだろ?」
「確かに……」
「だから、証拠を集めてこの件を国王様に告発するのが一番だと思う」
アリシアは王国の人気者だ。
彼女の証言と十分な証言があれば、貴族とはいえ、罰は逃れられないだろう。
「なるほど……! じゃあ、今から教会や義両親の家に潜入して証拠を集めるんですね!」
「そういうことだな。というわけで……なるべく早く王都に向かいたいんだが、アリシアはいつなら空いてるか? 馬車で3日はかかるから、まとまった時間がほしいんだけど……」
「私はいつでも空いてますよ? アスタさんは?」
「俺もいつでも大丈夫だ」
「――じゃあ、今すぐ向かっちゃいましょうか……!」
「でも……馬車乗り場は多分、騎士たちに見張られてるよな……」
「ん~……」
アリシアは腕を組み、可愛らしく悩むと――
「――じゃあ、お空を飛んでいきますか?」
「はい?」
お空を飛んでいく……?
……あれ? アリシアにそんなこと、できたっけ……?
「ふふっ、それくらい出来ますよ? だって……魔女ですからっ!」
アリシアは自信ありげに胸を張ると――
「〈顕現:終焉の魔女〉」
ボソッと小さく呟いた。
次の瞬間――
――アリシアの周りに黒いモヤのようなものが纏わりついていく。
黒いモヤはドレスと翼の形になっていき――いつの間にかに、アリシアは漆黒のドレスに身を包み、黒い翼を背中から生やしていた。
「本当に……魔女になってる……」
それは――裏ボス戦で見たアリシアの姿そのままだった。
「流石にびっくりしますか?」
「実際に魔女化してるアリシアを見ると流石にな。でも――綺麗だな」
「ッ!? と、突然、褒めてきますね……」
アリシアは照れたように目を逸らした。
「そ、それよりも! こんな風に私には翼が付いているので、アスタさんを抱えながら飛べば,王都なんて直ぐに行けますよ?」
「そりゃあ、頼もしいな……!」
アリシアに抱えられるのは……ちょっと恥ずかしいが、それを気にしなければ良い案だ。
「でも……流石に上空を飛んでいたら誰かに気づかれますよね……」
「ああ、それなら――そのローブを使ってくれれば心配しなくてもいいぞ」
俺はさっき、アリシアに渡したローブを指差す。
「それは認識阻害の魔法が付与されているから、着ていれば基本、気づかれないはずだ」
「なるほど……じゃあ、これで完璧ですね。早速、王都に向かいましょうか……!」
「さ、流石にもう少し準備するべきじゃないか?」
「でも……パッと行って、パッと帰ってくるだけですし……」
いや、そんなコンビニに行くみたいな感覚なのか……!?
「王都まで、結構遠いぞ……?」
「大丈夫です。多分、私ならアスタさんを抱えていても1時間ちょっとで着くと思いますから」
「1時間……!?」
もうそれ、飛行機レベルの速さじゃないか。
大丈夫それ? 俺、消し飛ばない?
「や、やっぱり、無しだ! 普通に馬車で行かないか? バレるリスクはあるけど……そのローブを着ていたら多分、大丈夫だと思う」
「アスタさんがそう言うのでしたら……」
アリシアは、少し不思議そうに頷いた。
良かった……。
すると、アリシアはふと何かを思い出したように目を見開き――
「――それなら私、他の姿になった方が良いですよね……!」
「ん……? 他の姿……?」
「私、魔女の力で他の人に変身出来るんですよ」
ああ、そういえば、そんな力あったっけ……?
ゲーム内じゃ、殆ど使われているのを見たことがないから完全に忘れていた。
「〈嫉妬のヴェール〉」
アリシアが詠唱すると、黒いヴェールが彼女の体を包み込んでいき――彼女は全くの別人の姿へとなっていく。
「ッ……!?」
「どうですか? 私の変身した姿」
アリシアは悪戯っぽく微笑んだ。
対して俺は……驚きを隠せなかった。
艶やかな黒い髪にルビーのような赤い瞳。
そして――18歳くらいの身長。
アリシアが変身した姿は――まるで大人になったリアのような姿だった。




