第33話 月の聖女は追われる
「教会の……騎士の人ですか……?」
リアは……少し警戒した口調で尋ねた。
すると、フルプレートアーマーの騎士は小さく頷いた。
「ええ、如何にも。実は私たちは行方不明の聖女アリシア様を探しておりまして……何かご存知ではありませんか?」
「いえ、知りませんね」
俺は即答した。
「そうですか……本当に、知らないんですね? もし嘘を言っていた場合は教会から厳しい罰が与えられますよ?」
「本当に知りませんよ」
「そうですか……。では、もしアリシア様を見かけたら私たちにお伝えください」
騎士はそう言うと、去っていった。
……行ったか。
「……不味いな」
いつかは教会にアリシアの存在を捕捉されると思っていたが……案外早かったな。
あっちとしては、自分たちの悪事がバレないようにアリシアのことを処分しにくるはず。
アリシアが教会の悪事を告発なんてしてきたら堪ったもんじゃないだろうし――
何よりも……
「アリシアはきっとまだ、この街にいるよな……」
この街を隅から隅まで探されたら、彼女が見つかるのは時間の問題だ。
俺の方からも彼女を助けるための手を打たなきゃ――
「――アスタさん、私、ちょっと今日、お出かけしてきて良いですか?」
突然、リアはそう言い出した。
「お出かけ……? いいけど、どこに行くんだ?」
「少し、買いたい物がありまして」
「まあ、それなら良いけど……」
何だか……タイミングが妙だな。
いや……むしろ、丁度いいか。
「リア、俺も今日はギルドを休んでやらなきゃいけないことがあるんだ」
「そうなんですか? ……わかりました」
「じゃあ、俺は出かける支度してくるから」
俺は家に戻って準備を始めた。
まずは……情報収集だ。
俺は教会へ向かった。
――◇――◇――◇――
「――随分と空気がピリピリとしてるな……」
俺は物陰から教会を観察していた。
どうやら騎士二人が正面の入り口を守っており、しきりに騎士たちが出入りをしているようだ。
「……うーん、流石に潜入は無理か……」
「――そうですね、正面から潜入するのは無理でしょうね」
「そうだな、裏口があれば良いんだけど……って、え?」
思わず、背後を振り返ると――そこにはアリシアがいた。
「あ、アリシア……さん!?」
「ふふっ、もうアリシアでいいですよ? だって同じベッドで寝た仲じゃないですか……!」
「い、いや、そうだけど……なんか勘違いされるような言い方しないで?」
そ、それよりも――
「こんなところに居たら不味いだろ……! 早くもっと安全な場所に行かなきゃ……」
「ふふっ、大丈夫ですよ。いざとなったら全員、蹴散らしますから」
「自信があるのはいいけど……倒せたとしても、ここで騒ぎになるのは不味いぞ?」
「では、どこなら良いんですか?」
「そうだな……」
今は幸い、奴らにアリシアの居場所はバレていない。
もしも、あいつらを蹴散らせるくらいの力があるなら、こんなチンケな町の教会ではなく大元に奇襲を仕掛けたい。
となると――
「――王都の大教会……か?」
「へえ……アスタさんも中々、大胆ですね……!」
「アリシアには負けるけどね。それよりも一旦、安全な場所に移動しよう。――アイテムボックス」
俺は虚空に手を伸ばし――黒いローブを取り出した。
一旦、これで姿を隠してもらおう。
「これを着てくれ。そんで、すぐに移動するぞ」
「王都に向かうんですか?」
「いやいや! 俺の家だよ! まずは安全な場所に行かなきゃ……」
「むっ……そうですか。わかりました」
アリシアがローブを着たのを確認すると、彼女の手を引いて家に向かった。
「――はあはあ……なんとか、教会の騎士たちにバレずに家についた……」
俺は家に駆け込むと……胸を撫で下ろした。
「……そういえば、アスタさんは、どうして教会を偵察していたんですか?」
「え……? いや、そりゃあ、アリシアが教会に探されているって聞いて助けになろうと情報収集を……」
「ふぅん? ……私はアスタさんに家でじっとしていて欲しかったんですが……」
「でも……流石にアリシアも全部一人でなんとかするのは無理だろ……」
教会の騎士たちはかなり強い。
俺が本気で戦って数人を相手できるかといったところだ。
アリシアでも、囲まれれば流石に負けてしまうだろう。
「……例え、魔女の力が完全にあったとしても難しいですか?」
「たとしたら教会の騎士を全滅させることくらい容易いだろうけど……ま、まさか――!」
アリシアは一瞬、俯くと……覚悟を決めたように顔を上げた。
「――実は私、アスタさんと初めて出会った時から完全に魔女の力を扱えたんです」
「ッ……!?」
アリシアは虚空に手を伸ばすと……どこからか巨大な黒い腕が現れた。
あれは……〈強欲の腕〉。
裏ボス戦で、アリシアが多用してくる技だ。
「本当に……魔女になっちゃったのか……? じゃあ、世界を滅ぼそうと……」
「――まさか! そんな事、絶対にしません。私は……アスタさんのお陰で考えを改めましたから」
「俺のお陰で……?」
俺、アリシアに何かしたっけ……?
……酷いことをした覚えしかない。
「……か、勘違いじゃないか? 俺と酷く似た誰か……とか?」
「いえ……アスタさんですよ! 私は貴方に救われたんです……!」
「でも、俺、何かをした覚えなんて無いぞ……?」
「それは……理由があるんです。全部が終わった後で教えますから」
アリシアは複雑そうな顔をして言った。
「それよりも……これから、どうするかです。私は王都の教会と……そして、私を裏切った両親の元に行こうと思います」
「そうか……殺すのか?」
「元々はそのつもりでした。ですが……今は正当な裁きを受けて欲しいと、そう思っています」
「そっか……! なら、良かった」
出来れば……アリシアには人を殺して欲しくなかった。
身勝手な願望だけど……な。
いや、待てよ……。
アリシアがそのつもりなら――
「――なあ、アリシア。俺に一つ、いい案があるんだ」
もしも、これが成功すれば全てが解決する。
――そんな案が。




