第32話 終焉の魔女は逃さない
「んっ……あれ……?」
目を覚ますと、アリシアの姿はもう無かった。
いつの間に……。
リアやラスティにバレないように配慮してくれたのだろう。
そして、代わりにベッドの上に書き置きのような紙切れが置いてあった。
『また、時が来たら会いにいきます』
――と書かれた紙切れが。
「……時が来たら……か」
俺は昨日、言われたことを思い出す。
――世界の危機を全て防いだのなら、嘘を許して欲しい。
そう言われた。
つまり……アリシアが次に会いに来るのは世界の危機を全て防いだ後……?
「わっかんねぇ……」
本音を言えば、嘘なんてどうでもいい。
アリシアが俺を好きでいてくれるのなら……それは両想いなわけで――すぐにでも告白したい。
「次に会えるのは、いつなんだろうな……」
そう思っていると、コンコンコンと部屋のドアがノックされた。
「あ、あの……私です。リアです。アスタさん……起きてますか……?」
よそよそしい声がドアの向こうから聞こえてくる。
「うん、起きてるよ」
「じゃあ……今、いいですか?」
「勿論」
そう言うと、リアはそっとドアを開け――
「昨日は……すみません。私、ちょっと感情的になっちゃって……」
「いいよいいよ、俺も突然、変なことを打ち明けちゃったし……」
「でも……アスタさん、本当に冒険者に戻るんですか?」
「あ〜……それなんだけど……」
本音を言えば、俺もアリシアの助けになりたい。
だが……
「やっぱり、考え直すことにするよ。冒険者になるしか方法が無いわけじゃないし……」
「本当ですか……!?」
リアの顔がぱあっと明るくなる。
「じゃあ、これからも一緒にいられますね……っ!」
「そうだな」
俺はリアの頭を優しく撫でる。
世界もアリシアも大事だが……俺はリアにかなり救われているのも事実。
この子を悲しませたくないというのも内心あった。
……勿論、世界に危機に関して、全てをアリシアに丸投げするつもりはない。
別の方法を探して……彼女の手助けをするつもりだった。
「アスタさん……ずっと一緒ですからね……!」
すると、リアは俺をぎゅっと抱きしめてくる。
「そうだな」
「勝手にどっかに行っちゃったら嫌ですからね……?」
「そんな事しないよ」
「そうですよね……! ……でも、もしもその時はどこまでも追いかけますから」
少しだけトーンが低くなった声でリアは言った。
「り、リア……?」
「じゃあ、朝ご飯にしましょうか……!」
リアは俺から離れると、スタスタとリビングの方へ歩いていった。
……ぜ、絶対に黙って居なくなるなんて真似はしないようにしよ……。
何だか……本当に地の果てまで追いかけられそうな……そんな気がした。
――◇――◇――◇――
「――じゃあアスタ、これでしばらくのお別れだね」
家の前で。
ラスティは幾つかの荷物を持って、俺にそう言った。
「ああ。また、この街に来たら家に寄ってくれよ」
「勿論! また来るよ。リアちゃんの美味しい料理も食べたいし……!」
ラスティは少しふざけた口調でそう言う。
対してリアは……俯いていた。
彼女は突然、顔を上げると――
「……あ、あの、ラスティさん、本当にすみません……! 貴方のこと、女の子だと勘違いしてました……」
申し訳なさそうな顔で頭を下げた。
「やっぱりそうだった……? まあ、ボクも女の子に間違えられることなんてしょっちゅうの事だし、そんなに謝らなくたっていいよ〜」
「でも……私、失礼な態度も取ってしまいましたし……」
「良いよ良いよ、代わりに次、会うときに美味しいご飯をご馳走してくれると嬉しいな」
「はい……! それは勿論です!」
リアは顔を明るくさせると、元気よく返事した。
「……でも……なるほどね。だからボクにあんなに冷たかったんだねぇ〜」
「……? どういうことだ? ラスティ」
「はぁ……アスタは鈍感だからやっぱり気づいてないか……。アスタ、リアちゃんのことを悲しませちゃダメだよ?」
「そんなの言われなくてもわかってるけど……」
しかし、どうして突然、そんなことを……?
「まあ、いつかわかるよ。――それよりも、ボクはもう行くから……!」
「そ、そうか……! じゃあな、またいつか……!」
「うん、じゃあね」
ラスティは最後に意味深長な言葉だけ残して、去っていった。
……本当にどういう意味だ?
「リア、ラスティが言っていることの意味、わかったか?」
「え、ええっと……いえ、わかりませんでしたよ?」
「だよな」
今度、会った時に訊いてみようかな。
――そう思った時だった。
「――すみません、この周辺で聖女アリシアを見かけませんでしたか?」
突然、誰かがそう尋ねてきた。
振り返ると――そこに居たのはフルプレートアーマーを身に纏った騎士だった。
すると、俺は彼が付けているペンダントが目に入った。
それは特徴的な形をしていて……。
あのマーク……まさか――
「教会の……騎士の人ですか……?」
そう言ったのは――リアだった。




