第31話 月の聖女は嘘を嫌う
「――どうして、私が『大切な人』なんですか?」
アリシアは俺を押し倒した体勢のまま、そう言った。
「い、今、それを訊いてくるんだな……」
「ええ……この体勢でしたら、嘘も……嘘ではないけど真実ではないことも見抜けるかなと思いまして」
「っ……!?」
もしかして、あの時、俺が誤魔化したのに気づかれていた……?
となると……今回も同じ手段は通用しないだろう。
……どうしよう。
「答えられませんか……?」
アリシアは青い瞳をじっと俺に向ける。
……本当の真実を告げるしかないのか。
いや、覚悟していなかったといえば嘘だ。
覚悟はしていた。告白するつもりだった。
けれど……一度、日常に戻って冷静になると……あまりにも無謀すぎる気がしたのだ。
だって、アリシアから見たら俺は一回しか会ったことのない存在。
それも……俺は『貴方は魔女の力を持っている〜』とか言う無礼な奴。
……どう考えても、告白が受け入れられるわけがない。
つまり、今、告白するということは――ほぼ失恋を意味する。
しかし、答えないのも変なわけで――
「――やっぱり、言わなくて良いですよ」
アリシアは突然、俺の手を離し、俺の隣に座った。
「へ? な、なんで……?」
「ふふっ、さあ、なんでしょうか?」
アリシアは意味深長な笑みを浮かべた。
もしかして、バレた?
俺がアリシアに……好意を持っていることが……?
しかし、俺の好意を察したのなら……なんで、拒絶しないんだ?
ど、どういうことだ……?
心臓がバクバクとうるさい。
対して頭は混乱して、上手く思考が纏まらない。
「……誠実じゃないって思ったんです」
沈黙していたアリシアが、突然、口を開いた。
その顔は……少し感傷的で後ろめたそうだった。
「誠実じゃない?」
「はい。よくよく考えれば……私、嘘を許さないと言っておきながら、私自身は沢山、嘘を言っているんです」
「……嘘? 嘘なんて吐いてたか?」
嘘?
一体、なんのことだろうか?
「ええ、沢山。私は姿を偽り、名前を偽り……沢山、嘘を使って目的を果たそうとしてきました。でも、相手には嘘を許さない……それって、凄く不誠実だと思うんです」
そうなのか?
まあ……アリシアさんがそう思うなら、そうなのか。
しかし、嘘って何のことだ……?
そう思っていると――
「ですので、アスタさん……お願いがあります」
突然、アリシアはそう言った。
彼女は神妙な面持ちで話を続ける。
「もし私が貴方が心配する世界の危機を全て退けたのなら――私の嘘を全部、許してくれませんか……?」
「待って、アリシアさん一人に任せるわけには――」
「――大丈夫です。私一人で……全部、何とかなりますから」
アリシアは強い意思が籠った瞳を向けてくる。
譲る気は微塵もない……そう言わんばかりの勢いだ。
「……わかった。けど、嘘なんて俺にバレてないんだから隠したままにしておけばいいんじゃ……」
「これは私自身のケジメのようなものですから。バレてなくても……このままじゃ、私が納得できません」
「そうか……」
「でも……ついでにもう一つ、お願いしてもいいですか?」
「なんだ?」
アリシアは少し頬を赤らめると――
「今日は……あの……その、一緒に寝てもいいですか?」
「へっ? い、一緒に……?」
「はい……っ! 実は私、今日の寝床が無くて……」
そういえば、アリシアは今、世間に存在がバレると不味いんだっけ……?
となると……宿に泊めさせる訳にはいかないし……。
「わかったよ。空いてる部屋があるから、そこに――」
「――そんな気遣わないでください。私はここでいいですよ」
そう言うとアリシアは俺の部屋のベッドに横になった。
……へ?
「ほら、アスタさんも寝ましょう?」
「あ、ああ……」
これはつまり、俺が別室に行けってことか……?
俺はベッドから立ち上がろうとした。
――次の瞬間、俺の右腕は引っ張られ、ベッドに体を引き戻される。
気づいた時には、俺はベッドで横になっており――真横には同じくベッドで横になったアリシアが居た。
「――ダメですよ。アスタさんも一緒に寝るんです……!」
「で、でも……付き合ってもいない男女が同じベッドで寝るなんて……」
「むっ……強情ですね。アスタさんは嫌なんですか?」
「そりゃあ、嫌なわけ無いけど……」
「じゃあ、一緒に寝ましょう? それか私に抱きしめられながら寝るのをご所望ですか?」
「っ……さ、流石にそれは勘弁してくれ……」
「なら、大人しく一緒に寝てください……っ!」
アリシアは俺の手を握ったまま、横になって……目を瞑った。
次第に……彼女は寝息を立て始め、安らかな寝顔になった。
「どういうことなんだ……」
思わず、小声だが言葉が漏れた。
アリシアは……もしかして、俺の事が好きなのか!?
一緒に寝るなんて好きじゃないとしないだろうし……何より、俺の想いに気づいても拒絶しようとしないのだ。
こんな……ほぼ好き確定じゃないか。
そう思うと同時に、幾つもの疑問が浮かんでくる。
――アリシアは、どうして関係の浅い俺に惚れたのだろうか。
多分、それにはアリシアがさっき言っていた『嘘』が関係しているのだろう。
「にしても……アリシアが俺を好き……か」
勘違いじゃないよな。
夢じゃないよな。
俺はアリシアの寝顔を見つめながら、何度も確認するのであった。
しかし――同時に少し心配もあった。
――本当にアリシアは自分1人の力で世界の危機を防げるのだろうか。
あれは……例え魔女の力が完全にあったとしても対処するのは難しいぞ。




