第27話 終焉の魔女は覚悟を決める
【リアside】
「――すみません、ちょっとお花を摘みに行ってきますね」
私は二人にそう告げて、一旦、リビングから離れた。
「……落ち着かなきゃ……」
私は扉にもたれかかり、深呼吸した。
『――アスタ、ボクの家の騎士にならないか?』
私は、そのラスティさんの誘いをアスタさんは断るものだと思っていた。
だって、私がアスタさんにお金なら何とかするから仕事を辞めてもいいって言った時は――
――『俺がやらなきゃ、冒険者ギルドが成り立たなくなるんだよ』
と、拒絶してきたのだから。
でも――アスタさんは、ラスティさんの誘いを受けようとした。
「アスタさん……なぜ何ですか……?」
気がつけば、私は下唇を噛んでいた。
私の頭の中には、一つの可能性がずっと思い浮かんでいた。
――アスタさんは、ラスティさんのことが好きなんじゃないか?
という可能性が。
ラスティさんは貴族だから、『高貴な人』という条件に合致しているのだ。
元パーティメンバーということであれば……もしかしたら、冒険の途中でアスタさんがラスティさんに惚れた……なんてことも十分にあり得るわけで……。
「っ……ああもう……アスタさん……」
嫉妬の炎が、私の心の中をぐちゃぐちゃにしていった。
私だって、束縛みたいなことはしたくないのに……アスタさんが他の人に盗られると思うと、自制が効かなくなる。
「……いっそのこと……アスタさんに直接、ラスティさんが好きなのか訊いてしまえば……」
いや……ダメですね。
もし、そこで『ラスティさんが好き』とアスタさんに言われたら、今度こそ――
――私が私じゃなくなる。
そしたら、きっと私は手段を選ばなくなるでしょうね……。
「それだけはダメ……落ち着かなきゃ……」
私は気持ちを抑えるために、頬を軽くつねった。
痛い……けど、少し冷静になれた気がする。
「これから、どうしましょう……」
ラスティさんが好きか訊かないとしても……このままアスタさんが他の女の元に行くのを黙って見ているのは嫌……。
何か……アスタさんを引き留める手段は――
「……既成事実……」
よくない考えが脳裏をよぎった。
ッ〜〜〜!
さ、流石にいけませんよね……。
……うん、これは最終手段に取っておきましょう。
「でも……それなら、どうしたら……」
いや……。
そもそも、私はどうして回りくどい方法を考えているんでしょうか。
最も単純な方法があるじゃないですか。
「アスタさんを……普通に惚れさせればいいんじゃ……?」
そもそも、アスタさんに期待すること自体が間違いだったんです。
アスタさんが好きな人が私だなんて期待するべきじゃない。
ならば――
「純粋に……アスタさんを堕としてみせます……!」
アスタさんには好きな人がいる?
関係ないじゃないですか……!
アスタさんが今好きな人より、もっと私を好きになって貰えばいいだけです。
リアの姿でもシアの姿でもアリシアの姿でも何でもいい。
ありとあらゆる姿を使って、どうにかして私にアスタさんを惚れさせてみせます……!
「ふふっ、ふふふっ、アスタさん、覚悟しておいてくださいね」
私はアスタさんを堕とす計画を考えていると、自然と笑いが溢れた。
――◇――◇――◇――
【アスタside】
「な、なんか寒気がするんだけど……」
一瞬、寒気で全身がブルっと震えた。
ラスティは、そんな俺を心配そうに見つめる。
「大丈夫? アスタ、風邪でも引いた?」
「い、いや……そんなことないだろうけど……」
俺が不思議に思っていると……
「――そういえば、アスタさ。……例の『好きな人』はどうしたの? 完全に諦めたの?」
ラスティは、ふと思い出したかのように言った。
好きな人……つまり、アリシアのことだ。
「諦める? どうしてそうなるんだよ」
「いや……だって、孤児を引き取るってことはアスタ自身の子供は諦めたのかなぁって思って……」
ラスティは言葉を濁らせながら言った。
「まさか。俺は諦めてなんかないよ。むしろ――最近、偶然好きな人に会えてさ、再認識したんだ。俺はこの人と一生を添い遂げたいって……」
「そっか……なら良かった」
ラスティは安堵したように胸を撫で下ろした。
そして――
「――でも、それなら尚更、ボクの元で騎士になるべきだと思うんだよね」
ニコリと俺に微笑みながら言った。
「ら、ラスティ? どうしてそうなるんだよ……」
「だってアスタ、言ってたよね? アスタが好きな人は『高貴な人』だって。つまり――貴族なんでしょ? ならボクの元で騎士になって少しでも地位を上げた方が良いと思うんだ」
「ッ……!?」
考えてもいなかった。
確かに……そうだ。
そんなことを言われたら、頷くしかないだろう。
――数日前までは。
「――でも、ごめん。やっぱり、俺は誘いに乗れないよ」
俺は――ラスティの誘いを断った。




