第26話 終焉の魔女は浮気を許さない
「でもさ、ラスティは何で俺の家に来たんだ?」
俺はふと、ラスティに疑問を零した。
「ん〜? 偶然近くを通りかかったから寄っただけだよ? だってここ、元々はパーティでお金を払って買った共用の家じゃん。なら少しくらいボクが居てもいいと思うんだよね」
「それは……そうだな」
ぐうの音も出なかった。
すると、リアは家中を見渡しながらボソリと呟く。
「共用の家……だから、この家ってこんなに広いんですね……」
「そうそう。でも結局、ボクも含め他のメンバーは他の街を拠点にし始めたから持て余してたんだよね」
「んで今は俺が管理って名目で使わせてもらってる感じだな」
「へぇ、そうなんですか……」
リアはしみじみと言うと……突然、ラスティの方に向き直り、鋭い視線を向けた。
「――それで、ラスティさんは本当のところはアスタさんの家に何しに来たんですか?」
「ッ!? へ、へ? さっき言った通り、ここはパーティ共用の家で――」
「――そこじゃありません。『偶然通りかかった』の部分です。ラスティさん……嘘ついてますよね」
「っ……」
リアの鋭い赤い瞳に見つめられ、ラスティは動揺したようにたじろぐ。
「あ、アスタ……この子、只者じゃないよ……こんな瞳、10歳やそこらの少女がしていい目じゃない……」
「まあ、俺もそう思わなくはないが――それよりもラスティ、嘘ってどういうことだ?」
「あ、アスタまで……!? ちょ、ちょっと待ってよ……話す、話すから……!」
ラスティは観念したように両手を上げた。
「では、本当の理由は何ですか?」
「ボクがここに来た理由は……」
ラスティはゆっくりと視線を俺に向ける。
そして、丁寧に言葉を紡いだ。
「――アスタ、ボクの家の騎士にならないか?」
「き……し?」
それは、あまりにも予想外すぎる言葉だった。
冗談かと思ったが、ラスティは至って真面目な顔をしていた。
「そう、騎士だよ。もっと詳細に言うとボク側仕えの騎士。もちろん、給料は沢山出す。そうだね……今の仕事の2倍でどう?」
「に、2倍……」
「もちろん、こき使ったりはしないよ。休みは週に2日だし、住む場所もボクが負担するよ?」
「……し、仕事が終わるのは何時だ?」
「んー、17時かな。別に普通だと思うけど……?」
めっちゃホワイトだぁぁぁ……!
ど、どうしよう……凄く興味がある。
しかし――
俺は、不安げな瞳をするリアに一瞥をくれる。
「俺はリアを置いて何処かに行くなんて出来ないよ」
「アスタさん……!」
「……うーん、やっぱり、そうなるよね……」
ラスティは苦笑いして肩を落とした。
「……一応、聞いておくんだけどリアちゃんも一緒に連れていけるとしたら、アスタは来る?」
「まあ、それなら――」
「――まさか、承諾しませんよね?」
「り、リア……?」
リアは光が灯っていない瞳で俺をじっと見つめる。
その瞳の奥からは計り知れないほどの深淵が垣間見えた気がした。
思わず、背中に冷たい汗が走る。
「前に私が『お金なら私がどうにかします』と言った時には拒絶したのに今回は承諾するんですか? おかしいですよね? 嘘ついたんですか?」
リアは俺の膝の上に乗り出し、腕をガシッと掴む。
そしてニコリと微笑みながら――
「アスタさん……承諾、しませんよね?」
もう一度、尋ねてきた。
それはもう、質問じゃない。
脅迫に近しい何かだった。
「……は、はい……承諾しません……」
「ふふっ、良かったです……!」
リアは俺の胸に飛び込み、小さい体でぎゅっと抱きしめてきた。
その体は温かくて、柔らかくて……抱きしめられて幸せなはずなのに……。
――なんか、生きた心地がしないんだけど……!?
「……ああ、もう既に尻に敷かれてる……。こりゃあ、本当にアスタの子供が見られる日も遠くないみたいだね……」
途中、ラスティの憐れむような独り言が聞こえたような気がした。




