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第15話 終焉の魔女はからかわせない



「ん……」


 目を覚ますと、真っ先に目に入ってきたのは――銀色の髪だった。


 なんだ、ただの髪か……。


「――髪!?」


 それも銀色……まさか。


 俺は体を起き上がらせると、真横には安らかな寝顔を浮かべるシアさんがいた。


「……え……」


 同じベッドで、隣に寝ている……。

 え、いやいやいやいや! 嘘……だろ?


 昨日の記憶を必死に呼び起こすも、何故か宿に入ってからの記憶が《《一切ない》》。


 まるでぽっかりと穴が開いたような……そんな記憶の消え方だ。


「ワインを飲んで少し酔っていた……? いや、だとしても……」


 変だ。

 何か大切なことを忘れている気がする。


 しかし……その何かが一切、思い出せない。


「んんっ……」


 隣からシアさんの可愛らしい寝息が聞こえてきた。


 不味い、このままシアさんが起きると修羅場確定だ。


 俺は慌ててベッドから起き上がろうとするが――


「――アスタしゃん……」


 突然、背後から腕を掴まれ、そのままベッドに引き戻された。


 シアさんがいつの間にかに目を覚ましていたのだ。


「し、シア……さん!?」


「嫌……私を置いて、どこかに行かないで……」


 シアさんは俺の腕にぎゅっと抱きついた。


 同時に腕に柔らかな感触がし、思わず心臓が跳ねる。


「ッ……あ、あのぉ……シアさん? 流石に離して……くれないか?」


「ん……ダメ。これは……昨日、拒絶された分……」


「昨日?」


 何の話だろうか?


 いや、それよりも早く離れてもらわなければ……!

 腕に色々と当たってるし、鼻腔を刺激する女の子の良い匂いが理性を溶かしてくるのだ。


 このままじゃあ、俺が耐えられない……!


「こうなったら……」


 俺はシアさんの腕を掴み、無理矢理に引き剥がそうとする。


 だが――彼女の腕は微動だにしなかった。


 なんだこの怪力……!?

 リアといい、シアさんといい、最近の女の子はどうなってるんだ……?


 困惑する俺を見て、シアさんはニコリと微笑んだ。


「昨日、あんなに愛しあったじゃないですか……! 今更、何を気にする必要があるんですか?」


「ッ――!? あ、愛し……へ?」


 い、いや……まさか。

 しかし、俺には昨日の記憶がないので、絶対にないとは言い切れなかった。

 昨日の俺が泥酔していたとしたら……普通にあり得るかも。


 あれ……これって不味い?


 俺、やっちゃった……?


「――ふふっ、嘘ですよ」


 シアさんは可愛らしくチロリと舌を出した。


「よ、良かったぁぁぁ、嘘か……心臓に悪いよ……」


「すみません、昨日の仕返しがしたくなっちゃって……」


「昨日の? 仕返し?」


「いえ、こっちの話ですよ。それよりも……」


 シアさんは俺の胸にそっと手を当てた。


「――アスタさん、なんでそんなに心臓を高鳴らせているんですか?」


「ッ……!? い、いやこれは急に腕に抱きついてくるから……」


「ふぅん? ということは私のことを《《意識してる》》ってことですか」


 シアさんはニヤニヤと笑みを浮かべていた。


「か、揶揄わないでくれ……」


「ふふっ、仕方がないですね。今日はこれくらいにしてあげますよ」


 シアさんは、ようやく俺の腕を離してくれた。


 はぁ……疲れた。

 もしかして、シアさんは俺に好意を持っているのか?


 だから、こうしてからかってくるんじゃ……。


 そう思っていると、シアさんが俺の顔を覗き込んできた。


「――念の為に言っておくと、変な勘違い、しないでくださいね? アスタさんの反応が面白いのでからかってみただけです」


「ッ……そ、そうだよな」


 良かった……。

 いや、良かったのか?


 ということは……つまり、シアさんは『小悪魔』って呼ばれるやつなんじゃ……?


「ほら、早く服を着替えて朝ご飯にしましょう」


「あ、ああ! そうだな、今日は午後から会議があるし……」


「――じゃあ、朝食後に一緒に観光しませんか? 私、もう少しこの街を見て回りたくて」


「そうだな、そうしようか」


 その後、俺たちは宿屋に併設された飯屋で食事を軽く済ませ、大通りへ向かった。





 ――◇――◇――◇――





「それで……シアさんは何か行きたい店とかあるのか?」


 活気に溢れた大通りを見渡しながら、俺はシアさんに尋ねた。


「私は昨日、行きたいお店に行きましたし……アスタさんは何かないんですか?」


「俺は特にはないけど……」


「じゃあ、とりあえず、歩きながら気になった場所に寄ってみましょうか」


「そうだなぁ」


 しばらく歩くこと数分。


 俺の視界にとある人物が映り込んだ。


「……あれって……主人公……?」


 俺の視線の先には、衛兵と話す主人公の姿があった。


 どうして衛兵と……?


 俺は不思議に思いながら、横を通りかかった。


「――ですから、彼女の居場所について何か情報はありませんか?」


 その時に彼がそう言ったのが聞こえた。


 彼女?

 居場所……?


 何の話だろうか……。


「――アスタさん! あのお店とか良さそうじゃないですか……!?」


 突然、シアさんが俺の袖を引っ張った。

 彼女が指を差した方向には……美味しそうなクレープが売られているお店があった。


「へえ、クレープ屋か……! いいね」


「色々なメニューがありますよ。果物が乗っていたり、蜂蜜が入っていたり……流石、物流が盛んな都市ですね」


「シアさんは何を注文するんだ?」


「うーん、そうですね……うーん……」


 シアさんは、ブドウが入っているクレープとリンゴと蜂蜜の入ったクレープを見比べて、しばらく悩み――


「――決めました! リンゴと蜂蜜が入ったクレープにします」


「そっか……じゃあ俺は……」


 ……いや、待てよ?

 良いことを思いついたぞ。


 今朝は散々、からかわれたのだ。

 今が絶好の仕返しの機会では……?


「じゃあ、ブドウが入っているクレープにしようかな。俺が注文してくるから、シアさんは少し待っていてね」


「あ、ありがとうございます!」


 俺はほくそ笑みながらクレープを注文すると、クレープを二つ持って近くのベンチで待っていたシアさんの元に行く。


「はい、こっちがシアさんのクレープだね」


「ありがとうございます。じゃあ、早速いただきましょうか」


 俺は頷くと、ブドウのクレープを食べる。


「うん……! ブドウの爽やかな甘さとクレープ生地の優しい甘さがマッチしていて美味しいな」


「こっちも凄く美味しいです!」


 シアさんは、小動物のようにパクパクとクレープを食べては表情を緩ませていた。


 その時、シアさんは一瞬だけ物欲しそうに俺のブドウのクレープに視線を移した。


 かかったな……!


「あれ、シアさん。こっちのクレープが気になるのか?」


「っ!? ご、ごめんなさい。はしたなかったですよね……」


「いやいや、良いんだよ。でも……もし良かったら俺のクレープも食べるか?」


「……ふぇ?」


 シアさんは凍り付いたように動きを止め、みるみるうちに頬は赤く染まっていく。


 今朝の仕返しだ。


 流石のシアさんでも間接キスは恥ずかしいだろう。


「あはは、冗談――」


「――い、良いんですか……?」


 ポッとリンゴのように顔を赤らめたまま、シアさんは上目遣いで小首をかしげた。


「……ん? え?」


 あれ?

 予想してた反応と違うぞ?


 ここはシアさんが照れて、俺が冗談だって言ってからかう展開なはずじゃ……。


 ――なんで、受け入れられてるんだ!?


「もし良かったら……アスタさんが食べさせてくれませんか? このクレープ、両手で持っていないと崩れてしまいそうで……」


「え、あ……は、はい。はい?」


 完全に俺の頭はフリーズしていた。


 そのせいで思わず言われるがままにクレープをシアさんの方へ差し出してしまう。


「ありがとうございます……っ!」


 シアさんはパクっと俺の持つクレープを口にする。


 まるで小動物に餌付けしているような気分で不思議と支配欲がくすぐられ、ドキリと心臓が跳ねた。


「んっ~! 美味しいですっ!」


 シアさんは幸せそうにとろけた笑顔を浮かべた。


「……あ、あれ? これって……」


 正気に戻ったときには、全てが遅かった。


 あ、あれ?

 俺、ギルドの同僚と間接キスしただけじゃなく、『あーん』ってやつを……。

 は、へ?


「――じゃあ、今度は私が食べさせてあげますね?」


 シアさんは仕返しと言わんばかりにクレープを差し出し、蠱惑こわく的に微笑んだ。


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