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第14話 終焉の魔女は正体を明かす



「ど、どうしよう……」


 俺は二人部屋に入ってから、深いため息をついた。


「とりあえず……シアさんを寝かせるか……」


 俺はシアさんを寝かせようとベッドを探した……のだが。


「――ふ、二人用のベッド!?」


 まさかのベッドは二人用のキングサイズ。

 え……嘘でしょ?


「あのギルマスッ! 何考えてるんだよ……!」


 帰ったら、絶対に許さないからな……!


 俺は拳を強く握りしめた。


「それはそうと……」


 今は現状をどうするかを考えなければ。


 俺は腕の中で安らかに眠るシアさんに視線を移す。

 ……よし、ベッドはシアさんに譲ろう。


 俺はソファの上で寝れば……致命傷で済むはず。


「こんな時に限って、どうしてシアさんにお酒を飲ませてしまったんだ……」


 起きた時、何も知らないシアさんは困惑するだろうな。

 うっ……明日が憂鬱で仕方がない。


「もう明日のことは明日考えよ……」


 俺は疲労が溜まっているのもあり、自分の体を少し拭いてから明かりを消して、ソファに横たわった。


 このまま、何事もゆっくりと意識は沈んでいき――


「――アスタしゃん……! どうしてソファで寝るんですかぁ?」


「ぐえっ!?」


 押しつぶされたカエルのような声が口から飛び出た。


 いや……実際に俺は上からシアさんにのし掛かられ、押しつぶされていた。


「ど、どうして起きて……」


「えへへ、アスタさんにベッドに寝かしてもらった時に起きちゃいました……!」


「じゃ、じゃあ、どうして俺にのし掛かってるんだ……?」


「それはぁ……アスタさんが一人でソファで寝ていて可哀想だったからです。ベッドは私一人じゃ十分すぎるほど広いですし、ベッドを使えばいいんじゃないですか?」


 シアさんは至近距離でじっと赤い瞳を向けてくる。

 まるで全てを見抜くような透き通った瞳を見て、俺は思わずたじろぐ。


「いや、それは……流石に……不味いような気がして……」


「なんでですか? 私は全然、気にしないですよ?」


「さ、流石に不味くないか!? 男女が二人、同じベッドで一緒に寝るっていうのは……間違いが起こったら大変だし……」


「アスタさんは間違いを起こすような人じゃないですよ。それに……私は間違いが起こっても気にしませんよ?」


「ッ――!?」


 こ、これは揶揄われているのか?

 まさか、誘われている!?


 据え膳食わぬは男の恥……という言葉もあるくらいだ。

 ここは――


 ……いや、やっぱり、ダメだろ。


 俺には聖女アリシアがいるんだ。

 俺は、彼女が主人公と結婚でもしない限り、諦めない。


 俺は――彼女をずっと追い続けたのだ。

 こんな所で誘惑に負けてたまるか。


「ほーら、一緒に寝ましょうよ」


「……ごめん。シアさん、俺は一緒に寝られないよ」


 俺はシアさんの赤い瞳をじっと見つめ返した。


 今度はシアさんが少したじろいだ。


「俺には……前にも言った通り、好きな人がいるんです。だから……他の女性と一緒に寝るなんてこと出来ません。ごめんなさい」


「……そう、ですか」


 そう言ってからシアさんは目を伏せて、黙った。


 ああ……傷つけてしまっただろうな。

 せっかく、俺に好意を持ってくれて……勇気を持って誘ってくれたのに、それを無碍にするなんて。


 俺はシアさんの顔を少し覗き込んだ。


「――ぁ……ひぐっ……」


 ――シアさんの瞳には涙が浮かんでいた。


 涙は小さな嗚咽と共に頬をつたい落ち、俺の頬を濡らした。


「……ごめんなさい」


 その言葉はどちらが言っただろうか。


 それすら、わからないくらいに……罪悪感でいっぱいだった。


 シアさんはおもむろに立ち上がると――


「――あ、あれ? 私、酔いすぎて変なこと言っちゃいましたね……。別に深い意味はないですから、本当に、ちょっと人の温もりが欲しくなっただけですから……気にしないでくださいね」


 そう言って、ベッドに戻っていくシアさん。


 彼女の言葉が嘘であることくらい、流石の俺でもわかった。

 でも……何も言えない。


 言ってはいけない。

 泣いている彼女を慰める資格は俺にはない。


「……ごめんなさい」


 再び、謝ってから俺は目を閉じた。


 今日のことは忘れよう。

 きっと、それが彼女にとっても良いことだろうから。


 俺は何も考えないようにしながら、眠りについた。


「――やっぱり、諦められません」


「へ?」


 刹那、浮遊感が俺を襲ってきた。

 何が起こったんだと困惑して目を開けると――至近距離にシアさんの顔があった。


 俺は――シアさんに抱きかかえられていたのだ。


「ねえ、アスタさん」


 濡れた赤い瞳が俺を愛おしそうに見つめた。

 息を呑む音がした。

 次の瞬間。


「好きですよ」


「ッ……!? シア……さん」


 予測はついていた。

 けれど……まさか、本当に俺のことが好きで、告白してくるなんて。


「どうして……」


 疑問は意図せず口から飛び出た。


「ふふっ、そんなの凄く凄く貴方のことが好きだからです。……ううん、今、私は自覚しました。貴方が好きだって」


「今……?」


「はい。私は……単純にアスタさんと一緒に寝たくてベッドに誘ったんですよ? なのにアスタさんったら私が誘惑してきたと思って……こっぴどく振られて」


「え……?」


 まさか、流石にそんなわけないだろう……と思ってシアさんの顔を見てみたが、彼女が嘘をついているようには見えなかった。


 じゃあ……俺の勘違い!?


「ッ……そ、そうだったのか! それは……ごめん」


「まあ、誤解されるようなシチュエーションだったので悪いのは私です。それに――結果として、自分の想いを知れたので良かったです」


「……へ?」


 シアさんは困惑する俺にゆっくりと言葉を紡ぐ。


「今まではアスタさんと一緒にいたいだけでした。そして、貴方のことを幸せにしたい……ただ、それだけ。自分がアスタさんと付き合うなんて考えてもいませんでした。けれど――」


 シアさんはニコリと俺に微笑んだ。


 不適な笑みというのは、この表情のことを言うのだろう。


 続けてシアさんはゆっくりと口を開いた。


「――今、振られて泣いて、想いを自覚しました。貴方のことが好き。貴方の全部が欲しい」


「シア……さん。でも俺は――」


「――わかってます。でも、絶対に私は諦めませんから」


「……そっか」


 そう言ってからシアさんはゆっくりと俺の頬に手を伸ばして――


「――だから、今日のことは全部、忘れてもらいますね?」


 俺の頬を優しく撫でた。


 ――刹那。


「〈顕現:終焉の魔女〉」


 漆黒がシアさんの全身を包み込んだ。


 そして、中から現れたのは銀髪に青い瞳をした、月よりも美しい美少女。

 俺は彼女のことを知っている。


 いや――知っているなんて次元じゃない。


「――聖女……アリシア……ッ!?」


 ずっと想い続けた人が……そこにいた。


 彼女はずっと俺の隣にいたのだ。

 俺はまさか、好きな人からの告白を断ったのか!?


「アスタさん、ごめんなさい」


 次の瞬間、空間が歪み、虚空から巨大な黒い腕が現れた。

 

「強欲の……腕」


 対象の全てを奪える魔女の権能の一つ。

 彼女は闇堕ちしているのか……!?


「っ……」


 困惑している間にも黒い腕は俺を包み込んでいく。


 不味い、ここままじゃ――


「待って! 俺は君が――」


 言おうとした言葉は、黒い腕に遮られた。


 黒い腕に包み込まれて、意識にモヤがかかっていき……俺は気がつけば意識を失っていた。


「――絶対に……絶対に諦めませんから!」


 最後に、そんな言葉が聞こえた気がした。




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