第13話 終焉の魔女は出張先でも二人で寝たい
「どうして、主人公がここに……」
俺は店の前で立ち尽くした。
どうして、こんなお店に?
ここで鉢合わせたのは偶然……だよな?
「どうかしましたか?」
シアさんは不思議そうに小首を傾げた。
「い、いや、なんでもないよ。早くお店に入ろうか」
敢えて避けるのも変だし、シアさんを連れて店内に入る。
「いらっしゃいませー。2名様ですね。お席にご案内します」
そうして、俺たちは主人公たちから少し離れた場所に案内された。
この距離じゃ、会話の内容は聞き取れないな。
「それにしても……」
俺は主人公たちの仲間に目を向ける。
主人公は、女剣士と女魔法使いの二人を引き連れていた。
二人ともゲームの主要キャラだ。
そこで疑問が浮かぶ。
……アリシアは?
仲間でご飯を食べているのなら、アリシアの姿がここにあってもいいはずだろ……?
折角、推しキャラの生の姿を拝めると思ったんだけどな。
「……何か、深い事情があるのか?」
「――そうですね。私を無視して他の女を見るなんて、さぞかし深い事情があるんでしょうね?」
「ッ……!?」
恐ろしく低い声がした。
慌てて振り向くと――そこにはニコニコと笑ったシアさんの姿があった。
しかし、シアさんの目は決して笑っていない。
彼女の不気味な表情を見て、背筋に冷たい汗が流れる。
「あ〜……えっと、これは……」
「私が目の前にいるのに、そんなにあの人たちが気になりますか? 一体……どうしたんですか?」
「あ……いや、別になんでもないよ。どこかで見たことがあるような気がしたんだだけだよ」
「それなら良いんですが……」
シアさんは一瞬、目を伏せると唇を歪めた。
「……何かあったのか?」
「実は……私、あの人たちとはあまり関わりたくないんです。私は……」
シアさんは一拍置くと――
「――もう既に新しい居場所とやりたいことを見つけたんです。なので過去には囚われたくなくて……」
「……?」
言葉の意味が、いまいち理解できなかった。
シアさんは主人公たちと関わりがある?
……となると、実はゲーム内のネームドキャラだったのか!?
「……なんて、冗談ですよ。本当のところは目の前に私がいるのに他の人を見て欲しくなかっただけですっ! ほら、早くパスタを選びましょう?」
「あ、ああ……」
シアさんはメニュー表を取り出して、じっと眺め出した。
冗談?
本当に冗談なのか……?
何か意味があったんじゃ――
「――私は……エビが入ったパスタにしましょうか。副ギルマスは?」
「あ、ええっと……俺は……サーモンのパスタにするよ」
咄嗟に目についたパスタを選んだ。
その後、俺は店員さんを呼んで注文をした。
「この二つのパスタをお願いします」
店員さんは紙にメモを取りながら頷き――
「他に注文はありませんか?」
――そう質問してきた。
俺は『ありません』と言おうとした。
その瞬間――
「――では、ワインを一つ、お願いします!」
「シアさん!?」
まさかのシアさんがお酒を注文してきた。
「この前、お酒で失敗したばかりじゃ……」
「ふふっ、大丈夫ですよ。一杯くらいであれば大して支障になりません」
「本当に大丈夫……?」
「大丈夫ですって。何なら副ギルマスもどうですか? きっとパスタと合うと思いますよ?」
「じゃ、じゃあ……一杯だけ」
シアさんだけ頼むのも変だし、俺も頼むことにした。
しかし、シアさんは本当に大丈夫だろうか?
ワインと果実酒じゃあ、アルコール度数に差がありすぎるんだけど……。
「――では、注文は以上ですね。少々お待ちください」
店員さんはキッチンの奥の方へ去っていくと、すぐにワインを持ってきた。
「――じゃあ、乾杯しましょうか」
「そうだな。じゃあ――乾杯」
「はいっ! 私たちの明るい未来に乾杯!」
グラスを合わせると、カツンと心地のいい音が響いた。
俺はワインを少しだけ口に運ぶ。
「……うん! 美味しいですね、このワイン!」
「本当だな!」
ワインは、かなり美味しかった。
こりゃあ、料理にも期待できる。
唯一、心配なことがあるとしたら……シアさんが酔うこと。
大丈夫……だよな?
――◇――◇――◇――
「えへへ、アスタさん……! 抱っこしてください……!」
「……まぁ……何となくわかっていたけれど……そうなるよね……」
結果、シアさんは酔った。
それも前に泥酔した時よりも酷く酔っていた。
結局、シアさんはワインが美味しいと言って追加で何杯かワインを注文したのだ。
「シアさん、歩ける?」
「むりれす……」
「ですよねー」
呂律も回っていないのだ。歩けるはずがないか。
仕方がない。
俺はシアさんの前でしゃがむ。
「宿までおぶっていくから、乗ってくれ」
「いいんれすか……! アスタさん、優しい〜」
「はいはい」
にしても、酔うと俺のことを『アスタさん』って呼び始めるのは何故なのだろうか?
今度、聞いてみようかな。
そうして、俺はシアさんを背負って、宿まで歩いていった。
俺はロビーの椅子にシアさんを寝かせると、カウンターに向かう。
「すみません。予約していた者です」
「ええ、アスタ様ですね。こちら部屋の鍵になります」
スタッフは、小さな鍵を1つだけ渡してきた。
……1つ?
「あれ? 部屋は二つなんじゃ……」
「いえ? 予約されているのは二人部屋一つと聞いていましたが……」
「……え」
……まさか。
嘘だろ!?!?
さては、あのギルマス、経費節約のために二人部屋にしやがったな!?
「ど、どうしよ……」
夜中に一つの部屋に年頃の男女が二人。
それも片方は泥酔状態。
こんなの、不味いに決まってる……!
俺は頭を抱えるのであった。




