第38話 それぞれの正しさ
夜は、静かだった。
風がある。
葉が揺れる。
音がある。
だが、
そのすべてが、
どこか遠い。
――どちらが、残るのか。
レオンの言葉が残る。
私は庭に立つ。
外側に。
逃げていない位置。
だが、
もう戻ることもない位置。
そのとき、
足音が一つ。
ゆっくりと。
迷いながら。
「……話があります」
イリアだ。
私は頷く。
「ええ」
彼女は、
円の中に入る。
だが、
中心には立たない。
外側でもない。
その中間。
まだ、
決めきれていない位置。
「私は」
彼女が言う。
少しだけ、
呼吸を整える。
「選びました」
その言葉は、
重い。
だが、
逃げていない。
私は何も言わない。
続きを待つ。
「レオンのやり方は」
彼女は言う。
「正しいです」
迷いがない。
はっきりと。
「速くて」
「迷いがなくて」
「結果が出る」
すべて事実。
否定できない。
「そして」
一拍。
「あなたのやり方も」
言葉を探す。
「必要です」
私は少しだけ目を細める。
彼女は続ける。
「残ります」
「消えないものがある」
その理解は、
もう浅くない。
「だから」
一拍。
深く。
「私は」
ここで、
完全に止まる。
そして、
言う。
「両方をやります」
沈黙。
風が止まる。
葉も揺れない。
完全な静止。
私は、
彼女を見る。
逃げていない。
迷いもある。
だが、
決めている。
「どうやって」
私は問う。
彼女は答える。
「選びます」
一拍。
「そして」
「必ず残します」
短い。
だが、
強い。
「同時にはできません」
私は言う。
事実。
彼女は頷く。
「はい」
否定しない。
「だから」
続ける。
「順番をつけます」
沈黙。
それは、
新しい答えだ。
レオンでもない。
私でもない。
彼女の答え。
「選ぶときは」
彼女が言う。
「迷いません」
「そのあとで」
一拍。
「必ず残します」
私は、
ゆっくりと息を吐く。
それは、
不完全だ。
効率も落ちる。
完全な解ではない。
だが、
一つの形だ。
「それが」
私は言う。
「あなたの選び方ですね」
彼女は頷く。
「はい」
はっきりと。
そのとき、
もう一つの足音。
レオンだ。
彼は迷わず内側に入る。
中心に立つ。
いつも通り。
「聞いていました」
短く。
無駄がない。
イリアは彼を見る。
逃げない。
「それは」
彼が言う。
「不完全です」
即断。
変わらない。
「はい」
イリアが答える。
否定しない。
「ですが」
続ける。
「それでもやります」
強い。
揺れない。
レオンが止まる。
ほんの一瞬。
だが、
確かに。
私は、
それを見る。
変化。
小さな。
だが、
重要な。
「なぜですか」
彼が問う。
イリアは答える。
「どちらも残したいからです」
短い。
だが、
十分だ。
沈黙。
長い。
だが、
崩れない。
やがて、
レオンが言う。
「……非効率です」
だが、
その声は、
わずかに遅い。
「はい」
イリアが答える。
「それでもです」
譲らない。
完全に。
彼は、
それ以上言わない。
否定しない。
肯定もしない。
ただ、
受け取る。
私は、
その二人を見る。
そして、
分かる。
これは、
終わりではない。
続く形だ。
夜風が通る。
庭が揺れる。
だが、
崩れない。
イリアは一歩、
自分の位置に立つ。
中心でもない。
外側でもない。
だが、
どちらにも届く位置。
「これでいきます」
彼女が言う。
誰にでもなく。
だが、
はっきりと。
私は頷く。
レオンは何も言わない。
だが、
否定もしない。
それでいい。
それが、
今の答え。
正しさは一つではない。
選び方が違うだけ。
夜が深くなる。
庭は静かだ。
だが、
もう空ではない。
それぞれの場所に、
それぞれの立ち方がある。
そして、
次は、
それを試す。
最後の場で。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
ついにイリアが「自分の答え」に辿り着きました。
ここからはいよいよ最終話です。
この物語の結論は“ひとつではありません”。
最後まで見届けていただけたら嬉しいです。




