第39話 外側に立つということ
朝は、静かだった。
夜の重さが、
そのまま残っている。
だが、
違う。
崩れたあとの静けさではない。
何かが、
定まったあとの静けさ。
私は庭に立つ。
円形の席。
空席。
そのまま。
何も変わっていない。
だが、
すべてが変わっている。
「……来ています」
イリアの声。
振り返る。
彼女は迷っていない。
速すぎもしない。
遅すぎもしない。
ちょうどいい位置にいる。
「案件は」
私は問う。
「小規模です」
彼女が答える。
「ですが」
一拍。
「象徴的です」
私は頷く。
それで十分だ。
映像がつながる。
円形の席。
空席。
同じ形。
同じ構造。
「二つの地域です」
カミルの声。
「同時ではありません」
「ですが、片方を優先すると」
「もう一方に影響が出ます」
選択。
だが、
極端ではない。
試す場だ。
私は、
動かない。
中心にも、
外側にも立たない。
ただ、
見ている。
イリアが一歩出る。
中心へ。
完全に。
初めて、
迷いなく。
「南側を優先します」
言う。
はっきりと。
速い。
迷いがない。
そのまま、
続ける。
「そのあとで」
一拍。
「北側の対応を行います」
流れが止まらない。
決まる。
進む。
誰も止めない。
だが、
消えない。
私はそれを見る。
何も言わない。
必要ない。
やがて、
処理が終わる。
短い。
効率的。
だが、
残っている。
確かに。
会合が終わる。
映像が切れる。
静寂が戻る。
庭に、
風が通る。
イリアがこちらを見る。
「どうでしたか」
問い。
確認。
私は少し考える。
そして、
答える。
「あなたの形ですね」
それだけ。
彼女は頷く。
「はい」
迷いがない。
だが、
硬くもない。
自然だ。
レオンが言う。
「効率は悪くない」
短く。
だが、
認めている。
完全ではない。
だが、
否定もしない。
それでいい。
私は、
空席を見る。
そこには何もない。
だが、
もう空ではない。
誰も、
そこに固定されない。
誰も、
そこに縛られない。
「……あなたは」
イリアが言う。
少しだけ、
ためらう。
「どこに立つんですか」
私は、
少しだけ笑う。
そして、
一歩、
動く。
中心に立つ。
ほんの一瞬。
そして、
外側へ戻る。
さらに、
少しだけ離れる。
円の外へ。
完全に。
「決めていません」
私は言う。
はっきりと。
イリアが止まる。
レオンも、
わずかに視線を動かす。
「そのときに」
続ける。
「立つ場所を選びます」
沈黙。
風が通る。
葉が揺れる。
音がある。
「それが」
私は言う。
最後に。
「外側です」
静寂。
誰も何も言わない。
だが、
それでいい。
それで、
終わる。
私は庭を離れる。
足音が小さい。
だが、
止まらない。
後ろで、
円はそのまま残る。
空席も、
そのまま。
だが、
もう意味は変わっている。
固定された場所ではない。
選ばれる場所。
そして、
離れることもできる場所。
風が通る。
音が残る。
そして、
すべては、
続いていく。
終わらない。
選び続ける限り。
ここまで読んでいただき、本当にありがとうございました。
この物語に“正解”はありません。
あるのは、それぞれの立ち方だけです。
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