37 メイキング「こうしてくれる」(上)
「三天子」…転移前の母国で伝承される3人の救国王。神から天命を賜った賢者で、降臨すれば国を救うとされている。
玉璽「絶対封印」と、王笏「絶対支配」(ツァウヴァーン王国初代国王「建国王」の特殊魔法)は、実在が証明されている。
ほおずり…母国の民にとって最大の友愛表現。時代問わず貴族平民共通。主にこどもが多用し、女性も家族や親友と交わす。
ただ、成人男性間では生死レベルのこと(死を察し妻子を託す時、それを承諾する時など)が起きない限りまずやらない。
もっとも「ふざけて仕掛ける、それをおおげさに嫌がって見せる」までがワンセットのお遊びであれば気軽に行う。
双子の衣装箱…アレインの大穴と共有。どっちからでも出せる。
リンちゃんサマは宣った。
「わたくしはスペルモルのそばにいるわ」
女帝はやるといったらやる。貫く。脱走してでも成し遂げる。
瞳から本気度を察したアウローラは、すみやかに問うた。
「女衆を同席させない理由は、運命の女から目移りさせないため、よね。理解していてよ。
だから姿をさらすつもりはないし、指示にも従うわ。
「絶対封印」は、人も封印できるの。
モルの身体…魔核…のなか? とにかく特別な場所へ行けるのよ。わたくしたちは隠し部屋と呼んでいるわ」
アンナがボソッと呟いた。
「なんでも いっぱい はいる まほう の おへや、みたいな? ヒュプシュが石板を保管してるっていう。
そこそこ広いって言ってたな…」
「隠し部屋も広いわね。果てが見えないの。けど、外の様子は分かるし、魔法だって好きに使える。
モルが制御に集中できるよう、わたくしが護衛するわ」
少年は「…なるほど」と呻いた。
表情は不動、しかし顔色は悪く、額には汗が浮いていた。
「そいつは恐らく固有神域。三天子の証、伝説の魔法だ。
つくづく生前のオレはハズしていた。
玉璽の降臨を流布し、兄姉総出で推挙すれば、早々に父王を玉座からひきずりおろせた…クソ…気づいてさえいれば。今さら遅…、
待てよ…玉璽の勅令は界をも超えると伝わる。
新世界は女神界、精霊界、異界が重なる入れ子構造。スペルモルは三界を統べる神々の王…神王、だ」
カイザルの目に野望がチラつく。
「使いこなせばいずれ母国にも手が届くだろう…面白い。オレは喜んで跪こう」
アウローラはうろたえた。
先に口を開いたのはリンだった。
「跪きたいなら好きにすればいいわ。けど、モルが背に乗ると思わないで。ねだってもムダ。あの子は「王」が嫌いなの。
役割のひとつにすぎないくせに取り返しのつかない地獄を生み出す醜悪な概念だと言っていたわ。
…親友の前世を知ってから、ますます嫌いになったみたい。
わたくしたちは看守。王にはならない」
冷ややかな忠告に、カイザルは一瞬だけ固まった。ふぅーと大きく息を吐く。
(…それでいい。自由に生きろ。死者の出る幕はない)
気を取り直したカイザルは「いいだろう」と、本題に戻った。
「リンも参加させる。ただし囮だぞ。やれるか?」
「あら。誰におっしゃって?」
兄妹は睨み合い、同時に邪悪な笑みした。
「さて、アンナ。オレは餓鬼の世話にはならん。衣装に口出しをする。いいな」
「了解。っつっても言うほど変な恰好させる気はな…、あー…」
双子の名を漢字であて字した芋ジャージが頭をかすめる。
他にも「着ないだろうけどせっかく作ったし」と、原色カラーの着ぐるみパジャマや「仮面いらない戦隊アナンくん」アニメ風イラストTシャツなどの悪ふざけシリーズを双子の衣装箱に放り込んでおいたら、予想に反して愛用しだしたので驚きつつ密かにセンス解釈一致を思い出す。
その絶句から、アウローラは悪ふざけの匂いを感じ取った。
「アンナ。実は前から少し引っかかっていることがあって。良い機会だか」
「あわわわいやいやあれはあれで可愛かったじゃないですか双子も双子コーデを楽しんでいたわけでしてっ」
「そうね。愛らしい。オシャレを楽しむ姿も好ましい。
ただね、アンナ。TPOはおとなが気にかけなくちゃよね?
普段ならともかく、厄介な来客がいる今は見過ごせない。
侮られたら危険が増すわ」
「そうだね。TPOは手っ取り早く最低限の尊重を確保する防具。転じて偏見の温床。趣味じゃなくても陽キャっぽい見た目にしとくと心身を守れるよ的ライフハック。前世じゃ髪染めただけで生きやすさ変わったからな。さりとて生きる世界違うと無価値逆効果なわけで固定観念は根が深い。…何の話だっけ?
まぁつまり第一印象だけで値踏み盲信する敵の先入観をスペルモルは逆手にとる気なんでしょ。
ルッキズム信者としては「逆に利用したれ」は賛成。全力応援するつもり。
もっちろん安全確保は重要、真面目にやるよ。本気出したアンナちゃんを信じて。マジ信じて」
「それはもちろん信じ」
「だよね! なんにせよ保護者の監修が入るわけだし!」
一抹の不安を勢いで押され、アウローラはそのまま流された。
親友に信じろと言われたらアウローラは信じる。
「アンナのくれる服はどれも好ましくてよ。何でも着るわ」
リンちゃんサマも、そうおっしゃってくださった。
かくして、理想郷に己好みのファッションを普及すべく、皆の感性の侵略を試み、ちゃっかりやりたい放題していた世界征服魔王は、今回に限り趣味を度外視することを心に決めた。
お目が高い美意識をお持ちであらせられる尊いお方らの譲れない条件をしっかり聞き取り、かつ、ソーマが好むだろう方向性を外さぬよう、やれば出来る子アンナは真面目に提案を重ねた。
そして完成したのが、日焼け対策完全防備おしゃれコーデ。
他世界の娯楽を知る者ならば、その知識ゆえに「下に水着を着ている」と判断するだろう。
「砂漠の国の伝統衣装に似ているわ。これなら」
心配性ママは安堵した。
「わずかでも透けるならば布地面積とは認めない。だが、脳の記憶を鑑みればマシといえる。やむをえん」
こだわり派の兄も許可を出した。
「よっし。リンの衣装は決定。じゃあ次はスペルモルのを決め、
あ。着るのは…カイザルさん」
大人たちの間に、無言の緊張が走る。
そこへ、さっきからひとりで一生懸命に凪を呼び呼びしていたリンが「見て!」と嬉しそうに叫んだ。
うちの子からの「見て!」に応え、素直に見てしまった親御さんたちは固まった。
ドヤ顔の女児が見せつけたのは、淡い黄色の長袖長ズボンのつなぎ服。
神域投影において凪は透ける。
透けた全身タイツのいかがわしさたるや。
アンナは天を仰いだ。
透けていない物に、見覚えがあったのだ。
悪ふざけシリーズの最高傑作。
放り込んでから数日経ち、ふと我に返って「海も遠いし、なにより日常着にアレはないかぁ」と回収したはずのウェットスーツにそっくり。
尊いお方✕2からの凝視に、圧を感じる。
アンナは目をそらした。決してそちらを見ない。
無邪気な女児は気にしない。
眼光が威嚇に変わりつつある親御さんらなど華麗にスルーし、冷や汗だらだらのアンナにニッコニコで訴えた。
「モルにこれ着せたいわ! 脚や腕のこういう感じ、あの子は好ましいはずよ!
あと、羽織るジャケットは裾が短くて、ハーフパンツも短くて、ブーツは黒くて長くて、あと…」
青ざめながら言い訳を考えていたアンナが、リンの話を聞くうちにふと表情を変えた。
「あ、あー…もしやサイバーパンクか?
ピチッとしたインナーの上に、こういう服を合わせる?」
アンナが紙にサラサラとデザイン画を起こした。
「まさしくそれよ! アンナがくれた服の中でもとびきりお気に入りみたいなの。
なのに何故かこれだけ見つからなくなってガッカリしていたのよ。また着れたらモルきっと喜ぶわ! 兄上、着てちょうだい!」
(おっ)
アンナは目を見張った。さりげなくカイザルの様子を伺う。
彼女が知る限り、リンが長兄におねだりするのは初めてだ。
ほんの少しの緊張とともに見守る。
カイザルは愛想笑いだった。ごく自然に凪を受けいれた。いつも通りのいいなりだ。
アンナはほっこりしたが、アウローラはオロオロしだした。
(ん?)
そこで、はたと思い出す。
着た凪が半透明であることを。
「試着よ! 兄上、脱いでちょうだい!」
娘妹に限らず、こども全般に甘いし弱いし全てを甘んじて受け入れること物のごとし、されど矜持は高い男の肩が跳ねる。
姿勢はそのまま、苦悩の殉教者は微振動しはじめた。
アンナは慌てて突撃かまして上着を剥いたリンをとっ捕まえた。
「? 後で身体も脱がすのよね?
兄上はこれからセクシーにホットにセンシュアルでファビュラスかつワイルドなプロヴォカティブとやらになるのでしょう? モルは兄上とお揃いが好きよ。何故ダメなの?」
ノリで口走った冗談が、無邪気女児に悪影響を及ぼしたことを痛感したアンナは青ざめた。
言葉巧みな提案を繰り出し、なんとかご理解いただく。
凪ではなく、回収済のウェットスーツを着る方向で話がまとまった。
さて、続いてアンナである。
ごっこ遊び用の衣装を大量に所持する彼女は、いったん自室に下がって、男性体で再登場した。
「夏の恋に期待☆めげないナンパ野郎アゲアゲコーデだよ。どう?」
(((海辺出没男。キャラもノリも責任感も反省も軽そう)))
「これぞありがちな偏見。
この姿でヒュプシュを小芝居すんの。強引に口説かれピンチ!のタイミングで、「ここぞは決める☆両片思いジレジレ幼馴染コーデ」に早替え、颯爽と救いだすって塩梅よ」
「ひとり…二役? え。それヒュプシュは内容分かる?」
「あんまり伝わってない。けど「色んなアナンさま見れて楽しい」って喜んでくれてる」
「そ…そうなのね。ふたりが楽しいなら、いいわよね。ええ」
同じ既婚のアウローラは達観した。思えば自分たちも客観的に見れば意味不明な「夫婦のお遊び」を楽しんでいる。
既婚のベテランもまた黙秘した。彼とて妻とやっていた「口説き合い遊び」が、他者から見れば理解不能の代物という自覚がある。
そもそも夫婦のお遊びとはそういうもの。幸せはそこにあるだけ。他人の評価なんぞ野暮。そう盲信する最凶の魔王は口癖を発した。
パチンと指を鳴らし、身体に派手な柄シャツをまとわせる。
心から嫌そーに着乱れさせたせっかち野郎は、とうとう仕切りだした。
「こんなもんか。定位置につけ。お手並み拝見だな、アナン」
結果として、不自然。個性が際立ちすぎている。
訳知り顔のアナンは「だよね」と頷いた。
この唐突な場違い感は想定内らしい。
色を微妙に変えたり、デザインを細かく修正したり、アナンは真剣に「ごく自然な映え」を目指して空間調整をはじめた。
カイザルはねだられるがままに物質干渉魔法を行使し、やがて舞台が完成した。
警備を担うカイザルは、常時、玄関ホールで待機となる。
「レディ・アウローラ。アンナの防具を用意する。資料が必要になれば声をかけるが、いいな」
司書が頷くと同時にアナンが挙手した。
「カイザルさん、まず僕に声かけて欲しいな。
アウローラちゃん、あんた寝不足でしょ。僕も武器作るし、わかる範囲でやっとくから、まず仮眠とりな」
「いいえ、問題ないわ」
アウローラは素早くスカートの脇に手を差し入れ、メモ帳をとりだした。
「資料相談も情報提供も全て司書の得意分野。真骨頂よ。任せてちょうだい」
本領発揮の機会に淑女の微笑みは輝いていたが、アナンの顔は見る間にしょっぱくなって女性体に変わった。
「おやめ。寝不足ハイの時はやらかしやすいから。
ひとまえで肌着から物を出し入れすなって夫から口すっぱく叱られてたでしょ」
指摘に、無自覚痴女は固まった。
幸い、異性の前といえど枯れてる死者。
起案書を読むフリに徹していた既婚者は、恋愛対象外のことなど一切まったく全然ちっとも見ていなかった。
ヒュプシュがお昼寝から目覚めると、愛妻が隣で魔道具の設計図を書いていた。
そのまた隣で涙目のアウローラが緊急作業中だった。
重大事故を三度と起こさぬよう、マチのない袋をせっせと縫っていた。
事情を聞いたヒュプシュから魔法を付与してもらい、袋をシャトレーヌに吊るしたことで淑女はようやく安堵した。
そして、友人らに訴えた。
「肌着のポケット封印するわ。反省したの。だからお願い。
レルムにはどうか内密に…っ!」
訴えられた友人ズは揃って頷いた。
「言わないよ」と約束するものの、内心の諦観は色濃い。
(((こちらが言わなくても、自爆するか野生の勘でバレる気がする)))
正解。
後日、久々に会えた最推しに浮かれたアウローラが、新調した袋を自己申告したことで、またしても取調べを受ける羽目になるのだが、それはまた別の話。
慌ただしく準備を終わらせ、とうとう2チームに分かれる時がきた。
避難組は、妊婦と助産師ら、ハリィを含む賢王の家族。
彼女らを引率するのはアウローラだ。
出発するため、玄関ホールに一同が勢揃いした。
「リン、寝る前には必ず腹まきを使ってね。ショコラを食べた後はお口を拭くのよ。話しかける前に相手の状況をよく見てね。それから」
リンから抗議を食らう。
怯む心配性を、アンナが笑って宥めた。
「あたしがいるって。協力してやってくから問題ないよ。ねー、リン?」
「そうよ! アンナのお世話は任せてちょうだい! 夜中に抜け出して遊ばないようちゃんと見張ってさしあげる!」
アンナも怯んだ。
「夜ふかしバレてた。しゃーない、寝るか…眠れるかな?」
語尾に不安が漏れたアンナを、アウローラは頬ずりで慰めた。
「精神の回復が届くわ。大丈夫」
「あ、修行の成果…そっか」
アンナはあからさまに胸をなでおろした。
アウローラは励ましつつ、内心でふと首をひねる。
(ええと? 伝え忘れはもうないはず。よね)
念のため、それとなく周囲を観察する。
賢王らは「女神のご意思に従います」スタンスだ。
ヒュプシュやヴィルヘルミナも変わりなく。雰囲気に余裕がある。
(あら)
リンはリュックを前向きにしょっていた。ベビースリングのように抱っこし、たぬたぬの新しいマントを指先でいじっている。不安な時の所作だった。
アウローラと目が合ったとたん、リンはリュックを差し出してきた。
「やっぱり、たぬたぬも避難させたいわ。お願い」
「そうなのね。うさっぽんなら身につけられるわ。一緒にいる?」
リンは一瞬だけ迷うそぶりを見せ、すぐに首をふった。
「たぬたぬは寂しがりやだから、うさっぽんが必要よ。一緒にいて欲しいわ。
わたくしは…おいちゃんが戻ればポケットの子を借りられるから。約束したのよ。眼光制御のお礼に素敵な名前をつけるって。だから」
アウローラは預かったリュックを背負い、リンを抱きしめた。
「大丈夫。必ず元通りの生活に戻るわ」
アンナとヒュプシュも横からリンにひっつき、4人は一塊になった。
「終わったらお疲れさま会しよね」
「いざとなったら魔道具あるよー! ポンポンひっぱるだけ! 簡単!」
リンは破顔し、それぞれのほおに自分のほおをすりよせた。
すぐさま元気よく左右からやり返され、リンの豊かなほっぺたは容赦なく潰れた。むにゅんの感触が面白かったのか、リンは笑い出した。
笑うリンに、アウローラも心を込めてほおをすりよせた。
「大好きよ、リン。信じて待っていてくれる?」
リンは力強く頷いた。アウローラに頬をこすりつけ、すぐに離れた。
「信じるわ、アウローラ。わたくしも好きよ。皆のこと…モルの次にだけど!」
12歳は照れ隠しにアマノジャクをした。すぐに真顔になり「…なんだか違うわね」と眉尻を下げた。
上目遣いに様子をうかがうリンを、アウローラは笑って受け流した。
「違っても、違わなくても、やりすぎたってかまわないわ。
受け入れがたいならメッて言うし、叱られたなら考える。思いを伝えあいましょう?」
「そうね。わたくしたち、そうしてきたわ」
「ええ。ともだちだもの。
それぞれ背景は違うし、きっと背負う荷も違う。分かり合えないことも多いけど、それでも一緒にいられる。互いを好きでいられる。ありがたいわよね。
リンも気軽に試してちょうだい。ありたい自分を、ありのままに」
「…誤解は誤差、よね?」
ヒュプシュが「そうだよー!」と肯定し、アウローラたちも頷いてみせたことで、リンの顔にようやく安堵の笑みが浮かんだ。
「転移前の常識からするとトンチキな理想論よね。皆が歪んでいるから。それどころじゃないから。
鏡を見る余裕がなくて、誰かも知れない誰かさんの色眼鏡に映る偏見を本性だと決めつけるしかない世界。
だけど」
リンはアウローラを見た。
「神域投影では違う。自分を見れる。歪んでも直せる。誰も切り捨てずにすむ。そうよね?」
「ええ、そうしましょう。
新世界でなら皆で作り出せるわ。ありのままで自由に生きられる環境を。色眼鏡を演技遊びのように楽しめる日常を。
それを目指せるくらい、わたくしたちは信頼を育んできた」
リンは頷いた。その表情には安寧が宿っている。
「皆がありのままでいられるよう、わたくしがサポートするわ。
虹髪だからではなく、「完璧支配」を持つからでもなく、わたくしがありのままで在るために、そう努めたいの」
ふとアウローラが困った顔で微笑んだ。
「念のため言うけど、ありのまま、は、面倒事を避けていいという意味ではないわよ?
「絶対召喚」の訓練、飽きているようだけど、繰り返しに意味があるの。必ず次に進めるから、どうか焦らないで」
リンの目が泳いだ。後ろめたい時の所作に(あら?)と疑問がよぎるも、リンはすぐさま「…大丈夫…!」と力強く頷いた。
可愛いに大丈夫と言われたらアウローラは大丈夫と信じる。
ニコニコのほほん微笑んで、淑女は最終確認をすませた。
「画面」での移動は一瞬だ。
「行ってきます」「行ってらっしゃい」はあっさりとすんだ。
というわけで、虹髪はまたもうっかりした。
何をって虹眼のセンサーにひっかかった違和感について、だ。
「リン。まさか兄上へのお詫びに「亡くした第一子」を召喚しようなんて考えていないわよね?
例え治療が完了しようと、こればかりは絶対に繊細な禁忌なのだと伝えたものね?」
出発までに、そう念をおす予定だったことをうっかりして、鳥頭淑女は旅立ってしまった。
アウローラ(19)上位存在。特殊魔法「完璧支配」。「画面」や「精神の回復」効果は能力の一部。
カイザル(享年86)誰の目がなくても長袖長ズボンは必須、真夏だろうと顔と手以外は出したくない、本音ではサウナ着(七分袖・膝下ハーフパンツ)にも抵抗がある素肌NG男。
暑いの我慢してるだけなので、機嫌が良かったり気が抜けるとつい安易に胸もとはだけるぞ。似合うせいで誰も指摘しないから自分でやらかしに気付くしかなく、しれっと着直すたびに内心で凹んでいるぞ。
はだけると士気が上がるのも、印象に心酔されるのも意味が分からんぞ。
生前は環境的に手段選んでいられなかっただけで、本当は拳だけで人心掌握したかったぞ。
脱ぎたくないぞ。脱がされたくないぞ。けど期待されたならやるしかねぇ応えねばオレ様が廃るクソだったらいっそ自ら剥いてやるよおらよラメ入りド紫ブーメラン水着チラ見せだどうだこれで満足か。
彼はただ、良い格好しぃなだけ。湯たんぽちゃんに弱すぎるだけ。弟妹が可愛いだけ。女神たちに絆されちゃっているだけ。
アウローラの秋冬用ドレス…母国の伝統衣装。スカート部分は花びらのように幾重にも布をずらし、奥行をもたせる形で重ねて縫われている。前見頃と後ろ見頃が一枚ずつという構造ではないため、サイドから布をかきわけると肌着のポケットに入れた物を着たまま出し入れできる。
取り出したところで肌着は見えない構造だけど、淑女的にアウト。夫的にもアウト。
リン(12)弟が全裸へっちゃら派と知っている。兄が着込む派とは気付いていない。
「…(まだ安定してないからひとりで特殊魔法を使っちゃダメって言われたけど)大丈夫(だった。成功した。予想外の結果でびっくりしたけど、アウローラたちが受け入れてくれるなら、自分でなんとかしてみせるわ)…!」




