32 宝冠は唯一無二にして盤上を去り(前)
3兄双子の父王(故人)…特殊魔法「譲渡」、蘇生や治癒に酷似した超回復が可能…だが、まともに使いこなせず。微々たる魔力しか譲渡できないのに大言壮語で派閥をギリギリ保持した自称「思慮深き恵王」。魔力枯渇を恐れて周囲を利用しまくり、特に長男を便利屋さん扱い。
好き勝手して最期は内因死(真実は受取拒否された呪詛による呪殺)。
贈られた呪物を燃した者も含め、誰も真実を知らない。燃されて変質した呪詛を受取拒否した者も無我夢中だったので分かってない。自業自得の本人すら時間差で食らったため気付かず。「我は惜しまれて逝った…」と勘違いしたまま現世は勝ち逃げ。
虹色に光るアウローラは、腕を振りたくって踊っていた。
かつてなく大量の「画面」を同時展開し、異界で戦う面々を後方支援していた。
「生者の魔核は常に成長しています。
「価値」を見失っても、手放したとしても、まだ取り戻せる可能性があります」
「画面」管理でいっぱいいっぱいの淑女には、要約を心掛ける余裕はない。
「師匠がおっしゃるには、魔核治療はとても理に適っているそうです。
その過程において自然に方向性が変わったり、新たに得ることも」
それでも頑張って叔父に報告していた。
「女神の不老不死は、あくまで降臨した身体への付与です。
変質した溶けた魔核はもう前提が違いますが、わたくしたちの魔核は不死ではありません。
実体化してたって呪いの魔核に女神の特典はありませんって、わたくし説明したのに、変異体になりかけていてもその不死性はあくまで浄化に対してでしかない事も、カイザルさまなら理解しているはずなのに、ただでさえ金継ぎ状態だから脆いのに、しかも大きく欠けた部分を幻影で見せかけているだけの不安定な状態なのに、まさか、あんなに激しく戦うだなんて」
心配極まり、淑女は涙声だった。グスンと鼻をすする。
「御年86を越えてなお変わらず無茶ばかりなさ…あら。でもカイザルさまは拾い食いしないわね? だったら、ソーマほど無謀ではない…のかしら」
最愛の姪の報告を聴くアレインは、応援ダンスしながらチラリ思う。
(カイザル殿は異界でモドキを踊り食いしていたが…地面から直接であった。
もしやあれは拾い食いにあたるのでは?)
思ったけど、あえて黙った。
相棒を庇ったというより(必要なら僕もあえてやっただろな)と気づいたからだ。
良い格好していたい叔父は保身に走った。
もっとも白状したとてアウローラには聞こえない。
叔父の応援ダンスも、借りた「チビおいちゃんぬいぐるみ」を踊らせて遊ぶリンの姿も、アウローラからは見えていない。
リンとアレインは館に戻ったが、そこにアウローラはいない。
アウローラは今、温泉施設にいた。
ここは未だ開発中の秘境である。
レルムが新婚旅行したさに土木工事を頑張っていることを知る面々は、場所すら尋ねることなく「ガンバレー」だけで今に至っている。
泉の休憩所と違い、ソーマや呪物モドキが知りえない安全性の高い避難先なのである。
もっとも建物も建設途中だ。現在、利用できるのは広々エントランスのみ。
ただ、中央に円形のソファベッドが設置されているので、暮らせないこともない。
ピザ生地で例えると「耳」にあたる縁が座面。身長も脚も長い成人男性陣が軽く腰掛けるのにちょうどいい高さ。
ピザ生地の中央は、広々とした小上がりの床である。女神たち全員が思い思いに寝そべろうとも余裕をもって具になれるビックサイズ仕様だ。
まるで「味見したな?」とばかりに1箇所が凹んで出入り口となっているところがレルムのこだわりだった。
仕様を鑑みるとキッズスペースと呼びたいこちらは、レルムとアウローラが合作した夫婦のお遊びの産物だ。
ピザ生地の中心で、現在、具になっているのはヒュプシュとハリィたち。それぞれ毛布をかぶってすやすや眠っている。
アウローラの両隣で、縁に身を乗り出し見守るWヴィルヘルミナは通常運転。ぷっくぷく並ぶ魅惑のほっぺたを凝視していた。
極まった愛しさをため息に変え、場をラメ入りピンクに染めている。
ラメ入りピンクを浴びるアウローラも(分かる)と共感していたが、一緒に凝視することは叶わない。
後方支援と並行しつつ、此度の作戦に巻き込む形となった叔父へもろもろを説明する必要があったからだ。
魔道具による通信は一方向だ。質疑応答ができないため、とりあえず片っ端から情報を提供していた。
喋り続けている。誠意を込めて。懸命に。ゆえに冗長に。
「と、いうわけで、今は合図待ちですわ。驚かせてごめんなさい、叔父上さま。
ソーマはやはり気づいていないみたいです。なので、これ以上の危険はないかも?
そうだわ、これも伝えなきゃ。恥ずかしながら、わたくしの消滅の魔法では退魔ができていなかったそうですの。
でも、カイザルさまの退魔は「決してマネてはダメ」と諭されました。どうやら死者だから出来る技みたいです。
それから退魔の魔道具は師匠から「画期的アイデア」と拍手喝采でした。
そのことで伝言を預かっています。レルムはともかく、叔父上さまは「まだあまり使わないように」だそうです。
あ。そうそう、叔父上さま。別件ですけど聞いてくださる? 例の職業体験についての続報ですわ。実は…」
◆
地面に崩れ落ちたソーマは、ゆっくりと起き上がり、膝立ちになった。
視野妨害魔法は続いている。表情は読めない。
ただ、緑玉の瞳は涙に濡れていた。
「…君が」
ぼそり、ソーマが呟いた。
「僕の、魔力を…利用したのは」
「てめぇの魔力装甲を破るためだな? 魔力が同じなら貫ける。
セキュリティを破るなら内部犯。誑かして潜らせるに限るからなぁ」
(いや黒幕の発想)
外野にいるアナンの唇はひきつったが、ソーマの唇は大きく開いた。
「違う」
3人は目を見張った。
地声のままだが、口調が変わった。ソーマはまるで「ちゃんとした人」のような声音で断言した。
「わざわざ破る理由がない。むしろ維持させたいはずだ。僕と戦っていたいんだから。
指だってこんな風にしたくなかったはずだ。
…きっと後遺症が残る。君のせいだ」
カイザルは鼻で嗤った。
「君は僕を殺さない。これ以上、傷つける気もない。だって、この身体は賞品だもん」
カイザルは失笑した。
「賞品? ははっ。戦利品だと言ったはずだが?」
背を向け、マントの刺繍をソーマに見せつけた。
「決闘だぞ? 傷は当然。見ろ、この美しさ。滾るよなぁ」
マントには長剣で一閃された跡があった。
致命傷だろうそれは丁寧に縫いあげられ、囲むようにツァウヴァーン伝統の護り文様が刺繍されている。
カイザルは優雅に向き直り、左手に持った水の長剣をソーマに突きつけた。
「てめぇを降し、身体を手に入れる。
そのために必要とあらばオレはどこでも壊すぞ。内臓の止血ができるなら四肢も繋げると分かるだろうが。
とっとと本気だしやがれ。この程度のちゃちな魔法で、オレが楽しめると思うなよ」
カイザルが指を鳴らした。
ソーマが隠蔽し待機させていた、いくつもの上級攻撃魔法が無効化される。
「そっか。そうだろうね。…でもさ」
誰にも見えないソーマの口元は、うっすら嗤っていた。
「傷って。それ、結果の話じゃん?
話ズラすなよ。魔力装甲を脱がせた狙いなんて聞いてない。
聞いたのは、僕の魔力をわざわざ再利用した理由」
ソーマの緑玉がカイザルを射抜いた。
「魔力の節約。だろ?
だって君、死者だもんね。死んでるんだから何も生み出せない。いくら寝ても魔力が回復しない。
膨大な貯金があったようだけど?
工夫して節約してたみたいだけど?
もうかなり前からヤバいよね!」
アナンは困惑した。つい隣をうかがう。
ゴーグルに隠され、少年の表情はうかがえない。ただその唇がわずかに開き、微かに震えていた。
悟ったアナンは青ざめた。
「待って…待ってっ、あたしも知らない! カイザルさんって…そうなの?! でも、だって魔核の金継ぎは魔力で接着し…あ。だから? だから代わりになる接着剤が欲しかったの?
レルムさんを唆してまで異界に行こうとしたのは…退魔したい理由って、そういう…。
それなのに、あたしたちのためにはあんな気軽に魔法バンバン使っ…優先順位どうなってるの、カイザルさん!?」
ソーマはぷふ、と吹き出した。
「へー。女神たちが孫みたいに思えるんだ?
自由に遊ぶ姿に我が子が重なって、懐かしくって、つい老後資金を使いこんじゃったんだ?
オンナどもは無邪気に喜ぶしね? 君も物質化魔法あげるとホッとするもんね?
ここでの自分は、廃棄処分品じゃないってさ」
紫色が蠢いた、アナンは一瞬の不穏さをそう感じた。
だが、カイザル自身に変化はみられない。泰然と佇み、ソーマと向き合っている。
動じないカイザルにソーマは鼻白んだ。あっけらかんと見せ掛けて、さらに挑発を重ねた。
「生前の廃棄処分はトラウマだったね! いっぱい尽くしてきたのにね?
足手まといになったとたん、弟妹も部下も家族すら「もうなにもしなくていい」だもんね。
いつも遊んでくれる竹馬の友を挑発したのに、そっちからも断られて…、
そうそう。ソイツの奇行もトラウマだぁ!
「生きていてくれるだけでいい」なんて言いながら魔封じしてくるわ、「戦場でも牢でもかまわない」とか言って「繋ぎの魔法」を使ってくるわ、あげく「こっちもお揃いにするか」とか言って眼の前で派手に自傷されてさ。
さすがの君も意味わかんなくて絶句してたもんね?
「同時に死ねたら私は満足だ」なんて言われてもね?
いつ死んでもおかしくない怪我、とっくにまともに動かない体で寿命だけを延ばされたって地獄だよね。ぷふ。
なんの為に生きてるのか分からん状態で、ただ生かされてさ。
そのうち古女房が顔を見せなくなって、嫌な予感して、痛い痛いと内心ヒィヒィしながら会いに行ってみたら、あんのじょう。ぷふ。ギリ看取れて良かったね? けど…
この顔で人前にでちゃったんだーぁ?」
ソーマの手の平が己の顔を撫でた。
上から絵の具を重ねるように投影魔法が重なり、当時のカイザルの顔が再現された。
アナンは息をのみ、青ざめる。
カイザルはまったく動じていない…はたからはそう見える。
ソーマの手の平がまた顔を撫で、全身の視野妨害魔法ごと投影魔法を解除した。
「君さ、性格がメメしすぎ。ウジウジ反芻してさぁ、そのせいで僕の脳に定着しちゃってるよ?
言おうか? 君のみっともない過去話を披露…的な?」
アナンが立ち上がりかけ、スペルモルに制される。
カイザルはやはり動かない。鋭い眼光は揺らがない。
深淵に浸かりながら、溺れながら、それでも染まらない。汚泥にもアクにもなろうとしない。
焦れたソーマは勝負に出た。
魔核の赤髪を指し、ぷふと嘲笑う。
「うわぁ…なにその髪色。おじーちゃん漏らしてるよぉ。魔力制御のための魔力すら惜しいの? ケチだなー」
ソーマの姿がボヤけ、ひとりの女性へと変わっていく。
(誰だ?)
(なりすまし? え、でも)
レルムとアナンは困惑した。
(素直に考えれば、なりすましだ。
だが、呪物モドキは魂を深淵に誘い込める。燃した深淵から見えた歴史の種類を思えば、複数の他世界と通じている可能性がある。
体ごとかはともかく、他世界の魂が漂着してもおかしくない。
模倣か人質か…これは、どちらだ?)
スペルモルは冷静だ。見極めようとしていた。
だが、カイザルは違った。見る間に顔色を変えた。
深紅のドレスを着た高貴なる夫人だ。
赤みを帯びた長い黒髪を、飾りレースと組紐で結い上げ背に垂らしている。
どの品も、夫が贈った。戦地に染料を持ち込み布を染め、細い糸をちまちまと編んだ。
物騒と物騒の狭間にある空虚な時間に湧き上がる感情を、会えない距離にいるせつなさを、ままならないもどかしさを、ちまちま指を動かすことで慰めた。
完成する髪飾りは、毎回、似たような品でしかないのに、生きて帰って髪に飾ってやれば、毎回、はにかみ笑顔と抱擁が返礼される。
その豊かな命の香りは幾度もカイザルを救ってくれた。
カイザルでは成し得ない神秘でもって宝を殖やしてくれた。
宝は小さく、柔く、見れば見るほどよく似ていた。
無防備に身を委ねてくる妻と娘の姿は、凍えきったカイザルの身も心も温めてくれた。
あのぽかぽかに酔っていた。
もっと、もっとと欲していた。
あればあるほど温まると信じていた。
己ならば全てを守りきれると過信していた。
頭の奥で滾る悪感情より依存していた。
実父が宝を冷やしたと知った、あの日までは。
魔核に亀裂が走る。すぐさま魔力が滲み金継ぎされるも、心は深淵の汚泥に囚われた。
魔核の肌に浮かぶ黒いヒビが色濃くなっていく。
夫人から目をそらせない。惹かれてやまない。鮮烈な心的外傷の再体験、その絶望の最中ならば、なおさらに。
両眼から、ドロリと穢れが漏れる。
柔らかい頬にも細い首すじにも無数の傷痕がある。カイザルは知っている。ドレスに隠れる肌には、それ以上の。
「妹を護りぬいた代償よ。価値を勝ち取った証なの。
周囲は隠せと言うけれど、わたくし、ちっとも恥だなんて思えない」
そう言いのけた婚約者の微笑みは力強く美しかった。
だからこそ、カイザルも、傷に美を見いだせるようになった。
あの凛々しい笑顔。
口説けば怒り、ただの雑談で愛らしくはにかみ、何があろうと決して嘆かぬ涙なき強者。
カイザルの、運命の女。
愛しい在りし日の姿が、赤い唇から懐かしい声を発した。
「まさか自分でやったのぉ、その下手くそな白髪染め? カイザルさまのくせにぃ、その程度? みっともなぁい!」
レルムは眉を顰めた。見知らぬ女性、口調には臨場感がある。それでも勘が告げた。(出来の悪いモノマネだな)、と。
アナンがそっと隣をうかがえば、少年は静かにその者とカイザルを観察していた。
「魔力制御なんて基本のキじゃない。とうとうそれすら出来なくなっちゃった?
ぶざまな顔さらしてぇ。魅了眼も魔力も垂れ流しでぇ。
わたくしがせっかく産んであげた跡継ぎもムダにしてぇ」
偽物と確信を得たスペルモルは、速やかに合図を送った。
アンナが消え、遅れてレルムも消える。
第一王子妃を熱演している気でいるソーマは、なにも気付かない。
「本当にガッカリなのよ。でかい口叩くくせに、そのザマだもの。まるで父王みたい!
しょせんはあの王の息子だし、そっくりで当然なんだけどぉ。
じゃあ今後は全部お世話してもらうのぉ? 父王みたいに微々たる魔力をチラつかせて? あ。無理ね。だってもう魔力ないんだもんね?! ぷふ、ザマァないわ! 役立たず! 見せかけだけの無能な粗品!
なぁーんにも出来ないカイザルなんて、もういらなぁい! ははっ! はっはっはーっ!」
なりすましはゲラゲラと高笑いした。おおげさな誇張でもってカイザルの高笑いを真似てみせた。
カイザルが夫の権利だろうと言って口説けば、彼女は妻の特権だと言って口説き返してきた。ドヤ顔の彼女と張り合い、見つめ合い、阿吽の呼吸で高笑いが重なる…あの愛しいひとときを、夫婦だから通じるお遊びを、あの幸せを彷彿とさせた上で、思い出もろとも踏みにじろうという汚泥に満ちた、おぞましい高笑いだった。
カイザルは遠く離れたソファに向かって、声を張り上げた。
「どうだ、スペルモル。足りたか?」
座るスペルモルも声を張り上げた。
「ありがとう、兄上。発動可能だ」
「…、は?」
絶句する偽物の元へ、カイザルは歩き出した。
同時に、緑光の長剣を手放す。それは地面に落ちるのを待たず、早々に赤い魔力でかき消される。
「へ?」
なりすましは動揺した。
これだけ挑発したのに切りかかってこない。どころか、今のカイザルにとっては命綱であるはずの魔力剣が、あっさり捨てられた。
さらに、先ほどの兄弟の会話。
なにもかも、想定と違う。
慌てて距離をとるも、カイザルは悠々と追ってくる。魔力不足など一切感じさせない軽い足どりで近寄ってくる。
気軽に歩み寄りながら、魔力もれる赤髪から魔力光を消した。一瞬で王家の髪色へ戻った。
目撃したなりすましは、目を疑った。
「んぇ??」
優雅に歩くカイザルが無言で指を鳴らした。
「…、…」
もう声もでない。
カイザルは凪を呼び、次から次に魔法を発動させている。
全て特級魔法。呪文や魔導演算補助装置なしでは成し得ない、ましてや歩く片手間に発動できるはずがない魔法を、カイザルはいとも簡単に呼び出して維持、同時展開させていく。
それらはたちまち組み上げられ、連携し、敵を確実に仕留める布陣と化した。
これこそが、逆鱗に触れた敵を完膚なきまでに叩き潰してきたカイザルの十八番の魔法、「盤上」。
カイザル王がリクエストに応えて技術を公開したものの、使いこなすどころか発動できる者が誰もおらず、魔法名の頭に再現不可能を意味する「唯」が足された伝説の魔法だ。
例え魔核本人でも、ソーマの身体では再現不可能。実体化している今だからこそ使える大技だ。
当然、実際に行使するまでに要する魔力は膨大。
なりすましは青ざめた。
魔力残量を読み違えたと思い知らされた。
「嘘だろ、君…まさか、魔力節約を装っていたのか!?
あいや隠して…けど、演じていた?! …ずっと!? 意味わからん、何でそんなこと…?
いやそれどころじゃ、そうだ、美ショタ、末弟、君は弟には攻撃できな、…、はぁ…?!」
人質を求めてソファを振り返り、うろたえる。
誰もいなかった。
ソファだけがポツンと残されている。
場違いにも座りたい衝動が込み上げたことで、なりすましは己の混乱と疲労の濃さを悟った。
心拍数が上がる。魔核がぐにゃりとうねった気がする。
動揺は、なりすましの姿に影響を及ぼした。
点滅するようにソーマと第一王子妃が交互に切り替わる。
算段としては、煽られたカイザルが緑光の長剣で斬り掛かってくる、そのはずだった。
そのつもりで準備していた迎撃魔法が、指が鳴る音と共に次々と強制解除されてゆく。
ソーマのパニックは頂点に達した。
もはや、次の手を考える余裕を失っていた。
唯・特級攻撃連携魔法「盤上」…既存の様々な特級魔法を組み合わせた追尾型攻撃魔法。膨大な魔力量や魔法技術だけでなく、本領発揮には戦略系の深い知識と実力が必要なので実質的にカイザル専用魔法。
こどもが「オレの最強布陣コレな!」とルール無視で将棋の駒を並べちゃうように、えげつない魔法を勢揃いで派手にお披露目するのでこうかばつぐん。さらにカードゲームで最強デッキ組むみたいに、切り札てんこもり伏せまくりなので対策とりようがない。
ズルっこい小学生男子みたいな技なのに戦術はマトモなので厄介。敵の動きを未来予知したかのように的確に追い詰めてくる。
さらに厄介なのは一度起動させたらカイザル本人でも中断できないこと。敵が早々に白旗あげようが、いったん始まった後だと準備した魔法を全て使い切るまで攻撃がやまない、俗称「オーバーキル」。
ひとつの王都を囲む壁ごと壊滅させた時は、奴隷にされていた自国民の救出を担当していた赤石らが総出でブチギレ。
赤石「話が違ぇぞ…何をひとりだけ楽しく遊んでやがる。俺らにも暴れさせろっつってんだろが」
狂戦士「義父上さま。宰相殿との約束では城の攻略だけでしたよね。おりた予算、これ復興費も込みですよね。
全っ然足りませんが??」(ガチギレ)
※カイザルはカイザルなので、やらかした後で怒っても叱っても効かない。高笑いではぐらかし、コロッと忘れてまたやる。
レディ・カサンドラ(故人)…高位貴族令嬢→カイザルの正妃。
只人(魔力ゼロ)の異母妹(貴族籍もたず)を他国にいる産みの母のもとへ人間として逃がすべく暗躍し、成し遂げた。
奴隷として高く売るつもりだった当主は長女の所業に激怒。危うく殺処分(暗殺)されかけるも、堂々たる啖呵と薙刀を武器に単身で応戦。
盗み見てたカイザル少年に「おもしれー女!」と言わしめた初の女性。
カイザルはカイザルなので初恋したその日に婚約へ持ち込み最速で結婚したった。逃がす気なかったので政略結婚を仕組んだ。
危なっかしい年下夫は傲慢なようで家庭内では自ら尻に敷かれにくるし、後年に増えた他の妻らも揃って夫そっちのけで自分に懐いてくるので、世話好きの彼女は水を得た魚と化した。
無自覚で夫の一夫多妻を略奪、全員まとめて円満運営してのけたガチハーレムマスターなわけだが、あくまで普通の女の子のつもりだったんだよ…彼女自身の認知では。
カイザルの竹馬の友…「クズ猿」「アホー犬」と呼び合う犬猿の仲。めちゃくちゃ気が合った。一生カイザルと殴り愛していたい欲が強すぎて、いつの間にかヤンデレっちゃってた戦闘狂。こいつもカイザルとお揃いで剣豪。
反面、主君の妻に対しては心の底から敬意と尊重を払う(当時の価値観において)常識的かつ理想的な「忠実なる護衛団の長」であり、カイザルの子や孫たちの師匠を務める有能な指導者でもあった。




