31 短気は損気で秘密は秘してこそ
痛い描写あります。可能な限りたんたんと表現しましたが、共感力の高い方は、ご無理なさらず。
✕ スプラッタ的グロさ
◯ リアルに想像できる激痛。
美ショタ…スペルモルのこと。
仮面いらない戦隊アナンくん…前作でかましたアンナの茶番。レルムを救った。
アナンは左腕を振り払った。棍棒籠手がマラカスに戻る。おもむろにグリップを口元へ寄せ、息を吸った。
「さぁーっはじまりました注目の一戦!」
突然、叫びだしたアナンに驚き、アレインがビクッと肩を跳ねさせた。
マジマジとアナンの背を凝視するも、護衛のように前方に立つ彼は振り返らない。
アナンは歩き出した。三段階変形魔道具で怒涛の喋りを繰り出しながら。
「まずは選手紹介!
緑コーナー挑戦者、悪食のソーマ(改)!
つくもごみの捕食者! よう分からんモン拾い食いすな!
なみいる女神の恨みを買いし不遜の男、はたしてどこまで健闘できるのか!?」
拡声器を通したような美声が、辺りに響く。
ソーマは呆気にとられた。
アナンはマイク・モードのマラカスを玄人っぽく横に寝かし、ひょうひょうと吼える。
「赤コーナー絶対王者、完璧オレ様カイザルさま(新)!
紫色の破壊神! 慈愛の瞳に秘めたるは闘争心! 挑戦者に筋を通し、正々堂々と身体を獲得できるか!?」
興奮ぎみに叫んでいたアナンが、急にスンと落ち着いた。
(なにごとか!?)
それはそれで動揺したアレインの肩がまた揺れる。
スンとしたアナンは事務的に言い添えた。
「なお。
今回の対戦、挑戦者のモザイクは仕様となっております。
特有の表情や言動などが全体的に男の矜持に障るとの問題提起を受け、ポジティブフィードバックいたしました。ご了承ください」
「…なんて??」
ソーマはぽかんと口を開けた。視野妨害魔法の下なので誰も見えないが。
楽器は魔道具である。
基本は棍棒籠手への変形だが、取っ手には対・呪物モドキに特化した機能が搭載されている。
独自の聴覚系制御魔法は、「呪物モドキもどき」と化しているソーマにも効いた。
いくら耳を澄まそうが、言葉以上の情報を得られない。意図が読めず唖然とする。
ソーマは、ゆっくり歩き続けるアナンを注視していたため、リンとアレインが姿を消したことに気付かなかった。
ただアナンの語りに「??」となりながら脳の記憶を探り…ふたつの緑玉がパァッと輝いた。
「! 分かった…分かったよ! これアレだよね?! 仮面いらない戦隊アナンくん! 異形の敵キャラが追加戦士で加入するお約束だ!?
そっかそっかそうだよね、僕、みため異形っぽいもんね、もうなりすましてないけどバレてたのか! だからいったん寸劇挟むわけね! 理解!
確かに美ショタ言ってたね! 起きたら分かる、僕がきっと喜ぶって! それってこういう意味かぁ!」
軍人は拳銃をホルダーにしまった。
(子猫の退避を確認。任務完了。
モザイクのほう、あれ魔核が身体に戻ってるよな。
あっちの覇者っぽい男、どっかで見たような…?)
レルムは首を傾げ、しばし考えた。ピンときた。
(似てる。「対話」の時に見た偽物カイザルさんだ。
そういえば、頑張れば生前の姿にも実体化できるって言っていたな。これ、アウローラも噛んでるのか。
アウローラ、頑張ってるんだな。…アウローラ。アウローラ。アウローラアウローラアウ(略)っは! 頓服)
レルムは胸元から妻(幼少期)の写真を取り出した。
未来を空想し、にっこりした。
高笑いが響く。
「はははっ! やはりそうきたか! 好きに考えろ。どうせヤることは変わらねぇ!」
カイザルは快活に笑った。
「その身体は本来てめぇの物だな?
お互い意図しない偶然だったわけだが、結果だけを見れば、このオレが空き巣をやらかしたようなもんだった。
実はずっと引っかかっていてな…気付かれるつもりはなかったが、弟にはお見通しだったようだな。
いったんてめぇに身体を返して欲しいと頼まれた。
おかげで筋を通せたってわけだ」
風になびく革マントを掴み、優雅に揺らして見せつける。
「要は毛皮だ。身体を勝ち取って欲しいんだと。ははっ。慧眼の弟ってのは最高だな。オレの価値がなんなのか、オレより理解してくれている…」
鋭い双眸を細め、カイザルは艶やかな重低音を響かせた。
「一対一で闘り合い、だ。
てめぇが勝てばオレは餌食。好きに喰えばいい。ただし負けたら身体を差し出せ。戦利品だ。オレが鍛えあげてやるよ」
「…はうっ!」
アナンがのけぞった。
「いい声! 地声スッゴ! 妖しい言い方が似合いすぎ! もう天然で魔声やん! コレはあかん。マジあかん。どんな猛者だろうと喜んで跪く威力!
もしや御御足で踏まれながらお声を聴きたいって部下が隙あらば足元にひれ伏してなかった? 足蹴をご褒美に滅私奉公させてたりして? あわわわ怖いぞイケナイのに惹かれちゃうぞ享楽王の名はダテじゃない!」
(うるせぇな。何で知ってんだよ。どうせまた勘で当てやがったんだろうが、餓鬼に聞かすな。フザけて真似しだしたらどうしてくれる)
カイザルは不敵な笑みだ。かわいい末弟を跪かせるのも踏むのもまっっっぴらゴメンなカッコつけ男は、内心のハラハラをキッチリ隠した。
キャッキャ悶えるアナンとは真逆に、ソーマはドン引きしていた。
理解しがたい戦闘狂からジリジリ後ずさっていく。
「…ぅわ…なにそれ…ヤバ…。演技の殺陣でなく? マジ格闘する気? 嫌だけど? 暴力反対。意味分からん。(反社会的勢力を指す俗称)じゃん。近寄りたくない。関わりたくもない」
ソーマは「ケンカ欲なにそれ美味しいの?」勢である。
殴ることにためらいはないが、殴られたくない。踏むのはいいけど、踏まれるのは嫌。己を陽気な善人と自負しており、嗜虐心に自覚がない。
ゆえに、上記のとおり。「…は?」である。「絡まれる謂れ全然ないんだけど?」なのである。
ソーマは主張した。
「だったら石板も返してよ。神域投影は僕が作った僕の魔道具だぞ。
宝玉だって僕が加工したからあの美しさなのに。どろぼう」
声は風にのり、広範囲まで鮮明に届いた。
場が凍る。
最初に声を発したのはアナンだった。
「…そっか! 嵌っている緑玉が誰なのか、この期に及んでご存知ないスタンスでやらせていただいておりやがりましたか!」
ヘラリと軽薄な笑みで、明るい声を張り上げた。
「鏡のない時代に己を知るのは難しかろう! だが己がやったことなら分かるはず! その結果、何が起きたかは承知のとおり!
やられた側は忘れない。何をされたかを知っている。知っているってのがどういうことか…分かるだろ?
結果も後味も飲むと腹を括ったなら、そのやり方をそっくりそのまま悪用できるってことだ。
今、君が僕からなにもされていないのは、カイザルさんのおかげなんだぞぉ?」
アナンはヒョイと枝豆型サングラスを外した。軽薄な笑みと裏腹に、目はまったく笑っていなかった。
瞳孔ひらく両眼と目があったソーマは、そこでようやく心当たりに思い至った。
情報を盗むことで彼の怒りの理由に見当がついたが、全てを言いがかりだと判断した。
(そんな大昔のこと今さら言われても。
神域投影に来てからは何もしてないのに、ボコられて、拘束されて、むしろ僕のほうが被害者だ。
SSRと虹髪も勝手にヒスりだすし、そのせいでゲーム始まんなかったし。
僕はなにも悪くないのに八つ当たりされてもさぁ…)
察したアナンの頭に魔力光が灯る。凪が呼ばれる。両眼がギラギラと輝きだした。
「うーん知ってた。やった方は忘れてる。教えたとてムダムダ。なーんも伝わらない。
けどさ、襟を血で染めて戻った親友に、あたしが何も感じなかったとお思いか?」
「そやってまたヒスりだ、ぅわっ…ちょ…、は?!」
ソーマの魔力装甲が軋みだした。探り、目を疑う。魔圧の発信源はアナンの右腕、棍棒籠手だった。
(あれ遠隔攻撃できるの?!)
「痛み、思い知ってくんない?」
ソーマが防御魔法を展開すると、アナンもすぐさまマラカスのテンポを変えた。
とほうもなく運任せの位相ズラしだ。しかし何故かすぐ当ててきた。泥臭く原始的な位相反転でもって防御を削ってくる。
(狙いはなん、…は? 「魅了眼」と「強化」の連携魔法で幻痛を与える? できるわけないだろ!?
魔法のくせに不可解な例外だらけで発動条件も効果も特異的だから特殊魔法なんだぞ。
特に「強化」は選り好みが激しい、下位能力ごときに力を貸さない。相性なんて基本なのに知らないって…さてはこいつ見掛け倒し、…なんだ??)
ソーマは盗んだ「アンナ」の情報と記憶を鑑みて、そのことに気付いた。ゾッと背筋が凍る。
(…嘘だろアンナの特殊魔法、コレ明らかに「支配」だろ!?
美ショタがミスリードしてやがった!
だったら可能だマズい幻痛で殺)
とうとう防御が破られる。だが、「支配」を浴びることはなかった。
カイザルだ。凪鎧を敵に展開していた。教え子の心を守るために。
「アンナ? お前がやりたかったのは横取りだったのか?」
「…うぐぐ。違います。露払いするって言いました…」
アナンはサングラスをかけ直した。
「ごめんなさい、カイザルさん。場を回すのに徹します」
深呼吸するアナンの魔力光が消える。「支配」解除を見届けたカイザルも凪鎧を解除した。
「…、…」
ソーマはその場にへたり込んだ。
「支配」は希少能力だ。降す方法など知らない。
カイザルの経験を探れば実在していたが、やはり強敵だった。
当時のカイザルでもどうにもならず、やむなく問答無用の一閃で解決している。
結果、「聖人の名を冠するにふさわしい無辜の民」を、気まぐれで虐殺した王子として、カイザルの悪名は高まった。
その集団疎開襲撃事件…民間人による奴隷輸出の阻止をきっかけに、カイザルは凪鎧の開発に着手している。
ソーマはカイザルの古い記憶とそこに伴う感情を味わった。恍惚感。ただし堪能する余裕はない。
(虹髪。聖剣の魔王。破壊神。…強化付の「支配」者…魔獣だらけじゃないか)
アナンはソファに移動し、真ん中に座った。
「よっし、気を取り直して冷静に行きましょう! では紹介の続きをば!
実況は僕、アナンくん!
解説は我らがスパダリ、スペルモル! 一言どうぞ!」
「…ソーマ、ブッコロ」
「おぉっと殺意満々、これじゃ冷静な解説は望めない!
ならば代わって善の騎士、レルム卿! ご挨拶どうぞ!」
集中していた鳥頭が我に返った。ソファを見た瞬間、衝動のままアナンの隣に座りこみ、訴えはじめた。
「なぁアナン。おれも帰りたいんだけど。実は何ひとつ分かってないんだけど、カイザルさんが全部なんとかしてくれるってことで合ってる?
じゃあいったん帰ろう。帰らせて。舘にっていうかアウローラんとこ帰らせて。アウローラどこ? アウローラ足りない。はやく会いたいかえりたいアウローラにかえりたいアウローラアウローラアウローラアウロ」
「誤字に見せかけてんじゃないよアウトー!
まぁ知ってた。ほい、栄養剤。今すぐ読みな。大丈夫、誰も見ない。好きにデレデレしなされ。
はいっ、というわけで実況解説アナンくんでお送りしま…あるぅえ??」
対戦はとっくに始まっていた。
絶対王者が挑戦者に問答無用の肉弾戦を仕掛けていたのだ。
ソーマは防戦一方…に見せかけて、嫌がらせじみた独特の攻撃魔法をそこここで連発していた。
カイザルは殴る蹴るの片手間に、それらをなんやかんやして無効化している。
(兄上の足さばきはさすがだな。いっそ神々しいな)
スペルモルは、レルムの武舞との相違点に思いをはせながら「あっれ? 段取りと違うんだけど?」と焦るアナンにツッコんだ。
「お前が予定と違うコトしでかしたんだろが。
せっかく兄上が全力をだせる貴重な機会なのに。試せることが減ったぞ、多分」
「ん? どゆこと?」
「ソーマの身体は兄上が鍛えた。脳もな。ソーマは兄上の経験値をまるっとコピーした状態だ。
これは自分自身と戦える絶好のチャンスなんだよ。
なのに、怒りに目が眩みやがって…お前サングラス外したろ、だからだよ。
今のソーマは何をしでかすか分からんって教えただろが」
「え。だからか、あの猛攻。妙な奇策を企まないように? そうか眼が合っ…しまった。どの情報を抜かれたんだろ?
あわわ…勝負に水差しちゃった…悪いことした…」
(本当にな。まぁソーマの反応からして内容は想像がつく。恐らく支障はない)
スペルモルはゴーグル越しにアナンを見た。
(下位能力と誤認させて興味を失せさせたつもりが…裏目に出たな。奥の手とみなしたか。だよな。俺だってそうする。
発想力といい、腹の括り方といい、やはり危うい。…どうすべきか)
横目に見るアナンの口もとはショボショボだ。
「反省。お詫びにまたチェリーボンボンつくろ。アップルパイも焼こ。親友に食べさせたくなっちゃった。
凝ったお菓子もつくりたい。パフェめちゃくちゃ喜んで食べてたな。作りたいな…パフェいいよね。プリンだのクッキーだのアイスだの、一気に量つくれて楽しいヤツをさ、チマチマ盛って派手に飾るのとかさ、ちっちゃい達成感の積立プラスでっかい完成の達成感で気分は億万長者イエーィ…」
ショボショボしつつ、いつもどおり独り言を垂れ流している。
スペルモルは気が抜けた。
(どう…もないな。「支配」だと教えてやるだけでビビって自重するか。
アンナは適性者じゃないからな。虚勢はって戦場にいるが、物騒を浴びれば弱るだけだ。
女衆ごと守ってやれば問題ない。兄上ならそう判断する。俺もそう思う。
特殊魔法はひっこんでろ、だ)
ソーマは焦っていた。
カイザルの二つ名「無双の王」はプロパガンダではない。真実だ。
呪物モドキは表面上の情報しか盗めない。カイザルが隠し持つ奥の手の中身どころか、その総数すら読み取れない。
息つく暇もない攻撃がソーマの身に降り注ぐ。
攻撃に規則性はなく、予備動作も一切ない。手刀で薙ぎ払い、引き寄せる、完全なるひとり舞台だった。
武人は舞い、ソーマはなびく武舞の旗のごとく翻弄される。攻撃を捌くのが精一杯だ。一手先など考えられない、なすすべもない。
(…痛いっ、…怖い! 意味わからん! なんでこんな痛い思いしなくちゃいけないんだよぉ!)
魔核の実体化は当人そのものだ。身体能力も、体力も、最盛期の能力である。
ただし致命的な弱点として、ダメージを受けた場合に損傷するのは肉体ではなく魔核である。魔核の傷は自然治癒しない。
(だからカイザルも金継ぎでごまかしてるんだ。
つまり攻撃が通れば致命傷。魔核は耐えられない。
恐らく一撃ですむ。当てれば砕ける。一撃でおしまい。倒せる。けど。これ…、これさぁ…)
ソーマの緑玉は焦りと恐怖に満ちていた。
(…そも当たらないんだよ! どんな攻撃も効かない! 受け流される! 上級魔法すら無効化される!
単純な殴り合いだって、体重差、どんだけあると…、ダメだ、重い、なのに、…っ速い! まったく隙がない!)
猛攻の僅かな狭間で、カイザルが素早くパチンと指を鳴らした。
ソーマの魔力装甲ごと、両手の五指が反り折れた。骨が砕ける。
ワンテンポ遅れてこみあげる激痛。冷や汗が吹き出す。
そうなってようやくソーマは本気を出した。
瞬時に魔力装甲を編み直し、魔法効果の反動を利用して跳ね退る。
旗扱いからは脱するも、カイザルは難なく迫ってきた。速い。
すぐさま得手の「氷」魔法を発動する。棘つきの氷弾を夕立ちのごとく浴びせるも、カイザルはそれらを瞬時に蒸発させた。さらに魔力にも相転移を促した。
寝返った魔力は「水」となり、緑色の魔力光でありながら、カイザルの意志に従い長剣を生み出す。
ソーマは青ざめた。脳には、わずかだが魔核の記憶も転写されている。
ハルバード使いとされているカイザルの本当の得物と利き腕を知っていた。
恐怖に耐えかねたソーマは訴えた。
「痛い、やめろ! 君だってこの身体が必要なくせに! 大事にしろよ! なんで僕だけ大事にしてくれないんだ! 僕が君に何をしたって言うんだよ!」
訴えながら氷の矢を射る。カイザルの足を凍らせ、氷のギロチンを落とす。
絶え間ない攻撃は、しかし全てねじ伏せられた。氷はただちに水へ、そして右手の長剣へ集まっていく。
カイザルは言った。
「ヒントがいるな? いいぞ。
降臨早々、てめぇ誰をどうしようとしやがった?
つい最近は、誰に何を持たせやがった?」
「知るか! いちいち覚えるわ…け、…あ」
カイザルが完成した緑光の長剣を振りかざす。
とっさに避けたソーマの、逃避先で、長剣が出迎えた。
(フェイント?! 速)
気付いた時には遅い。凶刃に向かって左肩を差し出す形になったソーマを歓迎するように、神速の刃が跳ね上がる。
「オレの宝にはお触り厳禁、だ」
(これ死ぬ、…死? い、嫌だっ!)
ソーマはとっさに凪鎧を発動した。
長剣は弾かれた。外側に展開した凪鎧の魔圧により、カイザルは水平にふっ飛ばされた。
(やった、ザマミ)
一息付く間もなく、ソーマは派手に喀血した。鼻血も吹き出る。自然に凪鎧が解除された。魔力装甲も維持できない。
今の身体における凪の出力値は万を超える。カイザルが鍛えたからだ。
しかし魔核本来の凪の精度は200に満たない。
ソーマは己の血に溺れた。呼吸ままならないなか、必死にカイザルの記憶を探り、凪を呼び、裂けた下気道の傷を塞ぐ。
ようやくわずかに吸えた息は血反吐臭く、不快だった。吐き気を催す。えずき、あえぎ、両目からボタボタと涙が落ちた。全身が痛み、震えとめまいで立っていられず、ソーマは膝から崩れ落ちた。
(…痛い。手加減…したのに。
凪鎧は無理だ、人間の身体で、使いこなせる、わけ、ない…)
集団疎開襲撃事件…自国の不安定さを憂い、安全に他国の英知と技術を身につけられるよう集団疎開を行っていた「善意の団体」を、カイザル王子が襲撃、壊滅させた事件。
首謀者の特殊魔法が「支配」。見目の良いこどもを集め他国へ奴隷を輸出して私腹を肥やしていることは明らかなのに、関係者ごと洗脳されるせいで正攻法では摘発できなかった。
規格外に強力な魅力眼を持つカイザルのみがかろうじて抗えたので、とっさに孤軍奮闘。
元凶を仕留め、こどもの奴隷化を阻止できたものの、「支配」の影響は遺った。被害者たちは助かったと気付くことなくカイザル王子を恨み、王子は黙って汚名を着た。歴史上で有名な「カイザル王の悪逆無道」エピソードのひとつ。
※ちな特殊魔法絡みの事件だと表沙汰にすると被害者も人体実験(拷問と処刑)されちゃう時代。
アンナ(18)特殊魔法「強化」と「魅了眼」を持っている…ということになっている。
アンナ本人としては、魅了眼の特徴(常時発動だとかも含め)と、かつての心当たりが微妙に一致せず、うっすら「…なんか変じゃね?」と勘づいてはいた。ただし「てか魅了っつったらフツー愛あるメロりじゃないの?! あんなんヒロインらしくないよね!」と拒否反応から思考を放棄。もう2度と使う気はない…はずだった。
「君の2つ目の特殊魔法、本当は魅了眼じゃなくて支配なんだよ」って教えた場合、悪用を模索どころか「方向性が同じじゃねーか! だったらどのみち使いたくないんだよ(涙)」と奇声を発してアウローラに泣きつき封印をねだる。
なお「強化」のほうはお気に入り。「ド根性で強くなるなんてまさにヒロイン! パワーアップは変身美少女のお約束だよね!」




