狐のノート
西の国から東の国に帰ってきた。
二人死んだ。
その内の一人はニーニャや。
やってしまった。
ニーニャが死んだ時点で、俺の役目は終わったに等しい。
ダイヤが変に暴れる前に、頭を吹き飛ばしてしまお。
そんな事を考えながら、ニーニャとダイヤを医務室に運ぶ。
リリィさんにニーニャの隣で寝かせてほしいと頼まれたからや。
二人の体をきれいに拭き取り、ダイヤの治療をする。
魔剣で切られたんはもう治らんやろうな。
塞がればラッキーやけど。
包帯を巻きながらそんな事を考える。
「テオ…。」
ソルが医務室に入ってきた。
西の国にいる時は我慢してたんやろう。
目に涙が溜まっていて、顔には涙の跡がついてる。
俺は義兄やけど、ソルは実妹を亡くした。
「まだかかりそうか?」
「あぁ、もうちょいで終わるで。 ヴァイオレットの様子見てきてもらってもええ?」
「わかった。」
ソルは医務室を後にした。
ヴァイオレットも相当ショックを受けてる。
もしかしたら、立ち直れないかもしれん。
やめさせるなら今やな。
ヴァイオレットは元々防衛隊に入れるつもりはなかった。
みんなそうやった。
でも、やるって聞かへんかった。
こうなることもあるってあん時はわかってなかったんやろうな。 ソルもこの仕事は向いてない。
国との契約か知らんけど、早いうちに辞めさせた方がいいと思う。
サイモンさんとシェムさんが来たら、今後のことについて会議するらしい。
ダイヤが起きやな、なんも動かんような気もするけど…。
ダイヤの治療を終え、ニーニャの荷物をまとめようと、医務室を出た。
ニーニャの部屋に入る。
綺麗に掃除されていて、荷物もあまりない。
もしかしたら、自分が死ぬ未来が見えてたんかもしれへんな。
俺やダイヤに言ったら、留守番させられると思って言わんかったんやろう。
たしかに、ニーニャがおらんかったら、もっとたくさんの犠牲が出ていたかもしれへん。
ニーニャの判断は正しかったと言っていいんやろうか。
棚や引き出しの中には何も入っていなかった。
部屋に入ってすぐの所に箱が置いてあった。
ニーニャの荷物はその箱の中のものだけだ。
箱を開けて一番上に封筒があった。
ダイヤに宛てたものだ。
封筒を退かすと、手帳サイズのノートが入っていた。
表紙には俺の名前が付箋で貼ってあった。
俺はノートを開く。
ノートにはダイヤのことが沢山書いてあった。 朝と昼に出す紅茶の種類やカップの種類。 庭の手入れの仕方や緊急時の連絡先など、俺が困らないようにまとめてくれたのだろう。
最後のページにはメッセージが添えられていた。
『これを読んでいる時はもう僕はここにはいないでしょう。
葬式は軽くで済ませて、その後はいつも通りに過ごしてください。
先生に挨拶ができなかったことを謝っておいて欲しいです。彼から沢山のことを教えて頂けましたが、僕からは何も返せていないので。
このノートをテオに託します。
分からないことがあれば覗いて見てください。
書き漏れがあるかもしれませんが、そこは大目に見て欲しいです。
テオと初めて会った日が昨日の事のように感じます。僕のことあまり好きではないのも知っています。
けれどひとつお願いを聞いて欲しいんです。
ダイヤとヴァイオレットのことを頼みます。
ダイヤはもしかすると、何も聞いてくれないかもしれません。根気強く話しかけてください。必ず話を聞いてくれる日が来ます。
同じ箱に封筒を入れました。
ダイヤあての手紙です。
渡すかどうかはテオ次第です。テオが選ぶ道を僕は信じています。』
いつの間にか目から涙が零れていた。
泣いてもニーニャは帰ってこない。
そんなことはわかっているはずやのに、涙が止まらん。
俺はダイヤあての手紙と俺宛のノートを内ポケットにしまい、箱の中を見る。
誰かからのプレゼントや軍事医療の免許、数枚の写真など色々なものが出てきた。
俺は箱を医務室に移動させようと扉を開けると、ちょうどザックがニーニャの部屋の前を通った。
「シルファーってどこにいるの。」
「医務室や。 今から行くからついてき。」
ザックは黙ったまま俺についてくる。
ニーニャを殺したんはベルリアルやけど、ザックは自分が殺したと思ってるんやろうか。
医務室に入り、箱をニーニャのベッドに下に入れた。
「ありがとう。」
「まだ、目ぇ覚めてへんから。 できるだけ静かにしといたってな。」
「わかった。」
「ダイヤはお前のこと怒ってないで。」
「わかってる…けど、俺は自分が許せない。」
ザックは紙とペンを出し、何かを書き始めた。
古代文字で書かれていて、俺には読まれへんかった。
俺は邪魔したらあかんと思って、自室に戻り、ニーニャからのノートを読み込んだ。




