理想
炎を纏った剣がニーニャの行く手を阻む。
「もう少し…、もう少しで上手くいったのに!」
上から来たベルリアルが床に刺さった剣を抜く。
体の左半分が、ほぼない状態で話を進める。
「なぜ洗脳が解けているんだ! アイツの天狐と、黒髪がまた俺の邪魔をする。
秘龍の国で失敗したのもお前たちのせいだったよな! お前たちをまず消さないと、気分が晴れない。」
ベルリアルの欠けていた体が骨、筋肉と順番にメリメリと生成されていく。
僕はそれをただ見ることしか出来なかった。
ベルリアルの頭が生成された時、太い角が三本生えた。
「まずは、お前からだ。 黒猫。」
ベルリアルは一瞬で僕に近づき、魔剣を振る。
テオが固まっていた僕を押し、傘で受け止めようとしたが、押し負けてしまい飛ばされてしまった。
僕がテオが飛ばされてしまった方を向く間もなく、ベルリアルはニーニャに向かって剣を振る。
僕は如意棒でその剣をなんとか受け止めた。
「半不死身の天狐も妙に耳が良い黒猫も気味が悪いんだよ!」
ベルリアルの言葉に、腹が立った。
僕は今できる精一杯の力でベルリアルを押し返した。
何度もベルリアルの魔剣を受け止める。
僕が攻撃を入れる隙がない。
ベルリアルが持っている剣は不思議な攻撃方法で、一度降るだけで二回分の攻撃が来る。
長期戦になってしまったからか、魔力も尽き始めている。
そんな時、何人かがこの舞踏室に向かってきている。
僕とテオだけでは戦力は足りないが、他のみんなを巻き込むことも避けたい。
「なかなかやるじゃねぇか。 旧王国式と光神殿式のミックス…、剣術の動きを上手く活用しているな。」
「僕の父は優秀なのでね…。」
「なるほど、それは納得だな。」
ベルリアルが急に話しかけてきた。
正直、僕に彼と話す余裕はない。
その時、見覚えのある尻尾がベルリアルに向かって振り下ろされた。
クイードのものだ。
ベルリアルは片手でクイードの尻尾を受け止める。
「黒桜帝国式の体術。 お前は上手くやってたな、クイード…いや、トレイだったかな。 最近までお前のことを味方だと思っていた。」
「上手く騙せていたのなら良かった。 俺はもうお前には用済みだよな。」
「そうだな。」
クイードはやはりジンだったようだ。
クイードはベルリアルを蹴り上げようとする。
ベルリアルは僕を跳ね除け、クイードの足を掴む。
「その格好じゃ、戦いにくくないか? もう、俺に正体を隠す必要もないだろう。」
「…。」
ジンは足を離してもらおうと、もう片方の足でベルリアルの腹を蹴った。
ベルリアルはジンの足を離すとともに、ジンのローブを引っ張る。
ジンのローブが剥がされた。
ジンはパサパサと髪の毛を整えながら、仮面を取る。
見慣れた顔には、大な傷がついている。
「おぉ、痛そうだな。 トレイ。」
「ジンっていう父さんが付けてくれた名前があるんだよ。 それに、この傷はお前が付けたものだ。」
「そうだったかな。 ジン…、消えた秘龍の国の王子の内の一人か。」
「そうだ。」
「もう一人がどこにいるか俺は知っているんだが、知りたいか?」
「俺ももう知ってる。」
”もう一人”というのはウィルのことだろう。
ウィルはジンという名前を聞いて思い出しただろうか。
二人の再会がこんな形になってしまったのは申し訳ないと思う。
ジンがベルリアルの気を引いているうちに、僕は如意棒でベルリアルのスネを打つ。
バランスを崩したベルリアルをジンは床に叩きつけた。
僕はそのうちに息を整え、テオの方に走り出す。
半不死身といえど、ダイヤと同じで痛覚はある。
早く治療をしないと、治るものも治らなくなってしまう。
「すまんな。」
「大丈夫。 このままダイヤを連れて引きましょう。」
「せやな。 …ジンに帰ってこいって伝えといたから。」
「ありがとう。 魔導書の次は、レンシンとリュウセイを探しましょうか。」
ジンが帰ってくれば、きっとウィルも喜ぶ。
一緒にレンシンとリュウセイを探して、昔みたいにみんなで散歩をしたい。
ライトが手を降るのが見え、もう少しだと思った時、僕の頭上を何かが通り過ぎた。
何かは壁にあたり、ジンだということが分かった。
僕は驚いて、足を止めてしまった。
その間にベルリアルが僕にグンと近づいた。
ベルリアルの持つ魔剣が僕の肩をかすめた。
僕はテオを抱えて、後ろに下がる。
少し剣がかすっただけなのに、一気に魔力を吸い込まれた感覚だ。
僕とベルリアルの間に稲妻が走った。
ソレイユが雷を纏った剣をベルリアルに向かって振る。
「走れ!」
ソレイユの声で反射的に体が動いた。
テオを抱え、なんとか足を動かして走る。
メグの姿が見えたあたりで、どこかでパチンと音が鳴った。
その音と同時に僕の足がもつれる。
僕の足の違和感はやはりあの妖精のようだ。
僕はテオを少しでも前に投げると、視界の隅でベルリアルが僕の方に近づいているのが見えた。
すると、すぐに僕の前にジンが現れる。
僕には知らされていないが、ジンもダイヤと優先順位の約束をしたのだろう。
僕の優先度はかなり高いらしい。
今の間に、どうにかテオの方に向かいたいが、僕の足が言うことを聞いてくれない。
僕が立ち上がるより先にダイヤがジンとベルリアルの間に入った。




