絶望の淵
いよいよ本当の最終戦が迫ってきた。
明日には西の国に出発する。
僕はいつも通りに植木に水をやり、ダイヤの紅茶の準備をする。
茶葉の在庫確認をしている時、未来が見えてしまった。
ベルリアルが魔剣で僕を切る場面だ。
その後から、何年も先の未来が次々見える。
しかし、その先の未来の情報に僕はいない。
多分、この西の国での戦いで僕は死んでしまうのだろう。
永遠なんてものはないと分かっていたが、いざ死が目の前に来ると、足がすくんでしまう。
茶葉の在庫を確認し終えた後、僕は自分の部屋に急ぐ。
僕の思っていることや、今見えた未来のことを忘れないように、便箋に書いていく。
宛先はダイヤ。
この手紙をダイヤが読むのは、きっと僕が死んでから。
溢れそうになる涙をこらえながら、文字を綴る。
手紙を書き終えたときには、もう月がのぼっていた。
僕はダイヤの部屋に入る。
ダイヤは僕が夜に部屋に入ると、高身の姿で迎えてくれる。
「部屋にこもっていたらしいが、調子でも悪いか?」
「ううん、大丈夫。 少し緊張してるだけ。」
僕は見えてしまった未来のことを、ここで話そうか迷ってしまった。
けれどここで話せば、ダイヤは必ず僕を置いていくだろう。
でも、別でクロム様が西の国で命を落とす未来も見えてしまった。
これを阻止しなければいけない。
不安な気持ちをかき消すように、ダイヤに抱きつく。
ダイヤはいつも通りに優しく僕の頭を撫でる。
”これも今日で最後”そう考えながら、ベッドに潜り込む。
ダイヤは僕の違和感に気づいたのか、とても心配そうだ。
「大丈夫だから。」
ダイヤは僕を強く抱きしめる。
それで少し安心できたからか、僕はそのまま眠ってしまった。
次の日、目を覚ますとダイヤもすでに起きていた。
今日で最後。 そう思ったからか、聞きたいことをおもわず聞いてしまった。
「ねぇ、」
「おはよう。」
「どうして食事を取らなくなったの?」
「急だなぁ。 食事を取らなくなったのは、俺の胃の中にこの城のマスターキーが入っているからだ。
この鍵でこの国の最終兵器を起動できる。 大事なものだから、持っておいてほしいというアルの願いだ。」
「だから胃の中に物を入れられないんだね。」
「まぁ、水分はとっているけどな。 正直俺は何も摂取しなくても問題ないから。」
ダイヤは少し悲しそうな顔をした。
「準備しようか。」
着替えて準備した後、車に乗り込む。
ダイヤとクロム様、テオ、僕が同じ車に乗り込む。
道中でダイヤが作戦の確認をしていた。
西の国に着き、車を降りる。
今日の仕事はクロム様の護衛だが、いざという時には置いて逃げてとクロム様本人から言われた。
けれど、そんなつもりはない。
不幸が起こる前に対処する。
これは、僕にしかできないことだ。
城に入ってから二時間…いや、三時間ほど経っただろうか。
足の違和感が妖精が原因とわかったが、これは後回しだ。
ダイヤの伝言を聞いてから三分は経ったかな。
ダイヤの音を頼りに西の城の廊下を駆け抜ける。
少し後ろにテオの足音がする。
僕の後を追ってきているのだろう。
急にダイヤの音が近づいた。
僕は一番近くにあった扉をゆっくり開ける。
「やぁ、君は…。 あぁ、そうだ。 耳の良い猫だ。」
「ダイヤを知りませんか。」
「ダイヤ? そんなやつ知らないな。」
そこにいたのはザックだが、音が全然違う。
多分、彼はベルリアルだろう。
僕の耳に狂いがなければ、この部屋にダイヤはいるはずだ。
彼がこの部屋を出るまで、他の部屋で待とうかと考え、部屋を出ようとする。
「そうですか。 それでは、僕はここで。」
「まぁ待てよ。」
ベルリアルが僕を引き留めた。
何か嫌な予感がするが、ベルリアルの方を振り返る。
「たくさんある部屋の中から、どうしてここの扉を開けたんだ?」
「魔力探知を何者かに邪魔されているようなので、音を辿ってきたんです。ダイヤの心音や息の音を辿ってきました。 この部屋が近いと思ったのですが、どうやら外してしまったようですね。」
「へぇ、そんな事できるんだ。」
ベルリアルの音は吐き気がするほど重たい。
「もういいですか? 急いでいるので、僕は行きますね。」
「待ってくれよ。 見せたいものがあるんだ。 きっと驚くよ。」
ベルリアルは壁際に行き、布を被せている何かの前に立ち止まった。
「俺が思っていたより、君が早くここに着いたからちゃんと隠せなかったんだよなぁ。
こいつもかなり粘ってたし、時間押してるんだよ。」
ベルリアルは、何かに被せてある布を勢いよく取り払った。
僕は全身が凍るような感じがした。
後ろの扉が開き、テオの音が聞こえる。
布を被せてあった何かの正体は、月の仮面を付けられたダイヤだった。
「え…。」
「ニーニャ…、これはアカン。 二人や無理…いや、アイツ連れてこやな無理や。」
「…いえ、このまま引けば被害はこの国だけでは済まないでしょう。 それに、僕の恩師をこのように使われるのは、心底気分が悪い。」
怒りが腹の底からふつふつと湧き上がってくる。
ここで引き返せば、全員やられてしまう。




