奇襲
ジンが西の国に行ってしまった翌日から、マナの様子がおかしい。
ジンの記憶を消して欲しいという頼みをダイヤは受け取ったはずなのに、マナは毎日ジンを探しているようだった。
後からダイヤに聞くと、楽しい思い出はそのままに戦争のことや、ジンの名前や顔をマナの記憶から隠したらしい。
ジンに会った時に全てを思い出せるように、消すのではなく隠したんだそうだ。
そういう所にダイヤの優しさが出ている。
ジンは定期的に西の国の情報を東の国に入れてくれている。
マナの誕生日にはバースデーカードといっしょに。
西の国の状況はかなり悪いらしい。
王位継承争いの結果はまさかの弟ハニスが勝ち取った。
兄ラルドの敗因は、弟ハニスに殺されてしまったかららしい。
兄弟喧嘩の末に片方が亡くなるのはなんとも悲しい。
あれから何年か経ち、双子とヴァイオレットが南の国の魔法学校に入学した。
ダイヤの指導もあって、三人とも高成績で入学できたらしい。
かなり難しい学校とよく耳にするが、あの三人なら大丈夫だろう。
ソルは実技は完璧だが、筆記がイマイチ。
リンはその逆。 ヴァイオレットはどちらもバランスが良い。
お互いに助け合いながらこれからの学生生活も楽しんで欲しいと思う。
同じくらいの時期にメグというリリィさんの弟子と、東の国出身という肩書のカレンという少女が防衛隊に入隊した。
ジンから回ってきた情報だと、西の国が他の国に手を伸ばそうとしているらしい。
この二人のどちらか、またはこれから防衛隊に入ってくる人たちの中に西の国からの内通者がいるかもしれないため、これまで以上に警戒が必要だ。
日々は過ぎ、西の国は色々トラブルで溢れているらしい。
異世界人の話がよく出ているようだが、正直僕には異世界というものが分からない。
それに、西の国王ハニスがハニスでは無いかもしれないという憶測も出てきた。
あの国は一体何を抱えているのだろうか。
それに比べて東の国は平和だ。
けれど、一つだけ問題が…。
クロム様が勉強も剣術も嫌がる。
今日も城を飛び出して、どこかに逃げてしまった。
ダイヤも色々苦労しているようだ。
「探してくる。 城の敷地から出られると、魔法じゃどうにもできない。」
ダイヤはそう言って箒にまたがった。
その時、不定期に見える未来が僕の目の前に広がった。
赤い月に赤い空。 黒く大きな力がここトヤヘリノに降り立つ姿がはっきりと見えた。
「ダイヤ…。」
僕はダイヤを引き止め、今見た未来を話した。
「わかった。 気をつけるよ。」
ダイヤはそういうと空高く飛んでいってしまった。
僕は前庭の低木の手入れをする。
頼まれている訳では無いが、ダイヤの好きな植物の世話をするのは好きだし、ダイヤの世話係には当然の仕事だと思う。
そろそろ季節の変わり目だから、新しい花でも植えようかと考えていると、正面の門からクロム様が見知らぬ人を連れて城の敷地に入る。
その瞬間、全身の毛が逆立った。
初めての感覚だ。 ダイヤにすぐ戻るように連絡するか迷ったが、ここは情報を取る方がいいと考え、なんともないように挨拶した。
クロム様にダイヤに連絡するように伝え、客人を応接間に案内した。
彼は何故か僕の顔をジロジロ見る。
応接間に客人を通した後、紅茶の準備のためにキッチンへ向かった。
カップを取る手が震える。
彼からあの邪神と同じ気配を感じる。
ベルリアル本人ではないようだが、彼は一体何を企んでいるのだろうか。
僕はワゴンを押し、応接室に戻ってきた。
応接室には既にクロム様もいた。
僕は紅茶を出し、砂糖を入れる。
どうやら、彼は異世界人だと言っている。
クロム様がトヤヘリノのことについて色々教えていた。
少しすると、ダイヤも応接室に入ってきた。
逃げ出したクロム様にひどく腹を立てている様子だ。
ダイヤは異世界人の彼の向かい側に座る。
ダイヤもソファーに座った瞬間に何か違和感に気づいたようだ。
異世界人の少年はライトという名前らしい。
ライトは空色の魔導書を持っていて、魔力のない彼が魔導書を持っていることを不思議に思い、クロム様が連れてきたらしい。
たしかに、クロム様が言っていることはわかる。 実際、クロム様はシルファーと会うために魔導書を集めている。
その本人が隣に座っているとも知らずに。
ライトがベルリアルの差し金だとしたら、色々と辻褄が合う。
「お前が異世界人であることはここにいる四人だけの秘密だ。異世界人の話であまりいいものを聞いたことがない。西の国が関わっている可能性がある。」
ダイヤと目が合った。
僕は応接室に向かい、資料室の鍵を開けた。
今までジンが集めてくれた資料の中に異世界人のものが沢山あったはず。
異世界人についての分厚い資料を持ち、資料室の鍵を閉めて応接室に向かうと、ダイヤの姿はなく、クロム様とライトがいた。
「ライトがこの国の防衛隊に入隊するから二次試験用に指導してあげて欲しいんだけど、ダメかな?」
良くはないが、ダメとは言えない。
僕は仕方なく了承することにした。
「僕は構いませんが、僕は今年も三番隊の代理で審査員にまわりますよ。」
「だからだよ。ライトは僕のお墨付きということでちょっとぐらいズルしても大丈夫でしょ。」
「ダイヤに怒られても知りませんからね。」
ライトも見張っておく必要が出てきたのは面倒だなと考えたが、クロム様のわがままを聞くことにした。
僕は応接室の中のワゴンを回収し、ライトに話しかける。
「あとで隊員寮にライトさんを迎えに行きます。一緒に特訓しましょう。僕の名前はニーニャです。」
クロム様がライトを隊員寮に案内している間にワゴンを片付け、ダイヤのもとに向かう。




