2-12 守護獣【バロン&ランダ】
本日二話目となります。
皆が落ち着いてから、俺はサクッと【隷属紋】を解除し、自身の【隷属紋】を十人分刻んだ。
因みに、包帯が取れた彼女は素っ裸だったので、コートも着せてやる。
その後は、住まいをどうするかと言う話に移る。
「ここはやはり、ヴァレン国に移住……と言う事でしょうか?」
ヤマトが言う。
言ってみたはいいが、正直あまり乗り気ではなさそうだ。
少々顔が固い。
「いや、あそこは、俺は一度行ってるから、顔バレしてるからな。俺の素性がバレる可能性もあるし……無しだな」
ディータは、孤児院に来てる。
その時、院長やマイア先生とも顔合わせしてるし、子供達ももしかしたら顔を覚えてるかもしれない。
勿論、ヴァレン国には八つの街があるから、孤児院から離れた街に住むとか、変装などをして顔を隠すのも手かもしれない。
だが、それも絶対バレないと言う保証もないだろう。
「なら、いっその事、この森に住みゃいいんじゃねぇーか?」
「はぁ~……これだから脳筋は」
「ぁあ゛?」
「いい?ここは【魔の森】なのよ?魔物の巣窟なの!そんな場所に誰が住もうなんて思うのよ?そんなの、自殺志願者だけだわ!」
「うっ……」
それからも、様々な意見が飛び交うものの、どれも決定打に欠ける。
このままでは、朝になっても決まりそうにないので、俺からも意見を言わせてもらおうと、俺は口を開いた。
「えっと……俺も一つ候補があるんだけど……」
「ならそれで」
「早いよっっ!」
まだ何も言ってないんですけど?!
具体的な内容を話す前に、即断即決されてしまった。
他の面々の顔を見てみても、全幅の信頼を寄せた瞳を、俺に向けていた。
…………………………やりづらい。
まあいいや。
取り敢えず、見せるだけ見せて、駄目ならその時に考えよう。
それに、彼らにも、お伺いを立てる必要があるし。
そんな訳で、目的地まで、再びサクッと皆を転移で飛ばす。
だって、今いる位置から、普通に歩けば一時間以上かかるし、途中魔物に襲われても面倒いしね。
時短だよ!時短!
転移先、俺達の目の前に、洞窟が現れた。
洞窟の入り口は、まるで奈落の底へ引き摺り込まれそうに、暗闇が奥まで続いている。
俺は〈ライト〉を発動させて、皆を先導させて、迷う事無く洞窟に足を踏み入れた。
後ろを向けば、皆は文句一つ言わず、俺に続いて中に入る。
歩く事十五分。
距離はそれ程ないし、ほぼ一本道なので、迷う心配もない。
そもそも、こんな所まで来る命知らずは居ないだろう。
開けた場所に出る。
その中央には、キングサイズのベッドが置かれ、そこには……
「お、女の子……?!」
少女の存在に気付いたディータが、慌てて近付こうとするのを、俺が尻尾を掴んで引き止めた。
「ふみ゛ゃ?!」
何とも猫らしい鳴き声を出すディータ。
尻尾を抱え、涙目で恨めしそうに俺を見る。
笑いそうなのを必死で堪え、至極真面目に俺は言う。
「安易に近付けば…………死ぬよ?」
「ッ?!」
俺が冗談で言ってるわけでないと伝わり、ディータは息を呑む。
他の皆も、顔を強ばらせる。
ディータが大人しくなったのを確認した俺は、少し離れた位置から、ベッドに横たわる少女に呼び掛けた。
「おーい、【ランダ】。起きてる?」
数秒後、少女ーーランダが身動ぎをして、ゆっくりと上体を起こした。
俺を視界に入れたランダが、可愛らしく小首を傾げて、鈴の鳴るような声を発した。
「………………トーヤ?」
ランダは、見た目は十二、三歳程度。
癖のない艶のある黒髪を、地面スレスレまで伸ばし、前髪もそれ位まで伸ばして、片目を隠している。
真っ黒なローブを羽織り、腰には少々大きめな鏡がぶら下がっていた。
「ごめんね。起こしちゃって」
「……ううん。平気」
ランダは、ベッドの縁に座る。
俺は、ランダに近付きながら、辺りをキョロキョロ見回して首を傾げた。
「あれ?【バロン】は?お出かけ中?」
俺の質問に、ランダが緩く首を振った。
「……ううん。じじいは鏡の中で寝てる」
見かけによらず、相変わらず口が悪い。
俺が内心苦笑してると、何処からともなく、洞窟内に声が響いた。
「だーれが!じじいじゃ!」
『っ?!』
その声に驚き、皆が俺を守るように素早く陣形を取り、辺りを見渡しながら身構えた。
……………………別に嬉しくなんてないんだからね!(ツンデレ?)
[………………]
コホン。それは兎も角、ランダを見ると、腰にぶら下げた鏡の平面に、突如凹凸ができ、それが見る見るうちに突き出てくると、その先には、顔は鬼面で、金色の毛皮に覆われた、獅子のような一体の獣が現れた。
俺以外の全員が、ポカンと口を開けて固まる。
「……バロンなんてじじいで十分だよ」
「あのな……其方と儂は、生まれた時から一緒なのじゃから、儂がじじいなら其方はばb……」
「………………何か言った?」
「い、いや?にゃにみょ……」
周りの様子など気付かず、漫才をし始める二人。
いや、これ漫才なのか?
ランダから、かなり本気の殺気を感じるんだが?
………………バロン、死んだかな?
俺がバロンに心の中で合掌していると、ハッと我に返った皆が、俺と二人の間に割って入る。
俺は苦笑しながら、安心させるように、皆に説明する事にした。
「そんな警戒しなくても大丈夫だよ。紹介するね。こっちの少女がランダで、こっちの獅子がバロン。二人は、えっと……【守護獣】って言えば分かるよね?」
『…………は?』
俺の説明に、皆が鳩に豆鉄砲を食らったように、頓狂な声を出す。
【守護獣】ーーそれは、『監視者』とも呼ばれ、神が地上に降臨出来ない代わりに、神に代わり地上を見守り、地上の秩序を正すもの。
基本的には、人間の前に姿を現さず、滅多にその力を振るう事はないが、『世界が危険』だと神が判断した場合のみ、神の命を受けて動く。
前回の、暴君転生者が良い例だろう。
「ちょ、ちょっと待て!あれが守護獣だってのか?!」
「ん?そうだよ?」
「……守護獣。初めて見ましたが、あの獅子?は兎も角、少女は人間のようにしか見えませんが……」
「ああ、見た目はね。けど、彼女もれっきとした守護獣だよ?」
俺がそう言うも、少々腑に落ちないといった感じではあったが、それでも全員一先ず納得して頷いた。
俺がそこまで説明すると、二人が漸く言い争いを止めて、こちらに体を向けて言った。
「……ん?トーヤ、其奴らは誰じゃ?」
「…………あ、本当だ」
え?今気付いたの?
「うん。実はね……」
かくかくしかじか。
「……ふむ、なるほど。経緯は分かったが、それで何故この場所へ?」
「うん。それなんだけどね、もし良かったら、ここの地下を貸してくれないかな?」
「ほう……地下をか……?」
バロンは目を細め、何処か楽しそうに、口の端を歪める。
ランダは………………寝てるよ。
「何をする気じゃ?」
「んー……それは見てのお楽しみかな?」
俺は意地悪く笑って、そう答えた。
バロンは、くつくつと笑うと、
「良かろう。儂もランダも、其方を気に入っておるしな。其方の事じゃ。きっと期待には答えてくれよう」
そう言ってくれた。
「ありがとう。善処するよ」
バロンに礼を言ってから、それまで俺達のやり取りを黙って聞いてた皆に振り向く。
「悪いけど、少しここで待っててくれるかな?」
「……は?え?わ、分かった」
戸惑いながらも、ディータ達は了承してくれた。
俺は皆をその場に残し、スタスタと洞窟の奥の方に歩を進めた。
『地下』と言ったが、この洞窟に地下など存在しない。
今から作るのだ。
俺は、〈風魔法〉と〈土魔法〉を発動させる。
〈風魔法〉では、地下に続く入り口と階段を形成。
それを、〈土魔法〉で地盤を固める。
〈風魔法〉で掘った土を、即座に〈異空間収納〉にしまっていく。
そんな作業をしながら、俺は階段を降りていった。
「ふむ。ここら辺でいいかな?」
ある程度降りた所で、俺は足を止める。
そして、先程と同じ様に、〈風魔法〉と〈土魔法〉を行使した。
すると、そこには、約東京ドーム十個分程の面積の敷地が出来上がった。
その中央付近に進んだ俺は、二マリと笑う。
「……偶には、自重せずに思いっきしやってみようかな?」
[…………]
……何か最近、アシスからの無言の圧力を感じるんですけど?
[気のせいです]
気のせいらしいです。
まあいいけどさ。
少し納得はいかなかったが、俺はそのまま気合いを入れて、作業に取り掛かるのだった。
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