2-1 七歳
本日は、三話投稿します。
児童養護施設ーーそれは、親からの虐待や、捨てられた子供、或いは親と死別したなどの理由で、行き場のない子供達を引き取り、自立の為の援助をしつつ育て、里親などに預けるもの。
本来なら……。
しかし、この世界の児童養護施設…………と言うより、俺が住んでる孤児院は、やはり変わっていた。
俺を含めた八人が、英才教育を受けてると言ったが、他の孤児院の子供達も、明らかに普通ではなかったんだ。
流石は犯罪国家。お国柄と言った所か。
この孤児院の教育方針は、『力こそ全て!』だ。
その為、幼い頃から、既に序列化が始まっている。
最初に行われるのは、勝者と敗者の、明確な線引き。
それが決まれば、後は言わずもがな。
食事の時は、強者が先に食べ、弱者は残り物を分けてもらう。
玩具で遊べるのも、強者のみ。
何をするにも、強者が上に立つ。
敗者は勝者に付き従うのみ。
単純明快。
弱肉強食。適者生存。
しかし、敗者はいつまでも敗者でいるとは限らない。
敗者は、勝者にいつでも再戦を申し込める。
そうする事で、闘争本能に火をつけるのだ。
『欲しい物があれば力で奪え』ーー。
勝者は勝ち組のままで居たいのなら、更に力を付けろ。
敗者が勝ち組になりたいなら、更なる努力をしろ。
それが、この孤児院ーー【ゲルダ院】の方針だ。
そして、そんな子供達でさえ一目置かれてるのが、俺達、選ばれた八人と言うわけである。
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「ぅお?!」
俺は現在、宙を舞っていた。
右手を捕まれ、投げ飛ばされていた。
「ッ?!」
背中を強かに打ち付け、息を詰まらせる。
「…………どうしました?カエル。心ここに在らずでしたよ?」
マイラ先生が、無表情で俺を見下ろしながら、そう指摘してきた。
俺はバツが悪そうな顔をして、視線を逸らす。
因みに、『カエル』とは、俺のここでの名前だ。
名付けはマイラ先生。
〈鑑定〉スキルを持ってない限り、俺の名前を見る事は出来ない。
なので、誰も俺の本名を知らない。
不思議と、ステータスにも反映される事はなかった。
ちゃんと、今も名前は『トーヤ』となっている。
「あー……すみません。小腹が空いちゃって」
俺は上半身を起こし頭を掻いて、舌を出しておどけて見せた。
すると、俺の誤魔化しに、もう一人が同意を示す。
「あ!俺も腹減ったかも!」
「…………」
マイラ先生が、彼に一瞥し、もう一度俺に視線を向けてから一拍。
「そうですね。そろそろおやつの時間にしますか。鍛錬は一度お休みにしましょう」
ポンと手を打ち鳴らすと、コロッと表情を和らげた。
ふうー、危ない危ない。
危うく怪しまれる所だった。
加減するのも楽じゃないな。
今の俺は、間違いなくマイラ先生より強いから。
怪しまれない様、調整しなくてはならない。
あまり手を抜きすぎると、返って不審がられるし……本当難しいよ。
「俺に感謝しろよ?カエル」
俺の横を通り過ぎざま、男の子が悪戯が成功した時の様に、ニヤリと笑って言った。
八重歯の似合う子だ。
俺は苦笑しながら、小さな声で「ありがとう」と告げた。
彼の名は【ミハエラ】ーー。
俺と一緒に訓練してる男の子だ。
現在、ミハエラと俺の二人が、マイラ先生の指導を受けてる。
他の六人?
他の子達は、今は別の所で訓練中。
最初は、基礎的な事を学ぶ為に全員一緒だったけど、それぞれ得意分野が別れ、途中からそれに合った訓練へ移行する事になったんだ。
ある子は、盗みの才能を。
ある子は、詐欺の才能を。
ある子は、計算の才能を。
そして、俺とミハエラは、暗殺の才能をーー。
……………………解せぬ。
何故俺が暗殺者なのか。
俺は至って普通の男の子なのに。
[………………]
俺達は食堂へと着く。
マイラ先生は、他の子供達を呼びに、一度食堂を出ていき、俺達は皆が来るまで席に着いて待つ事にした。
「こう言っちゃなんだが、おやつの時間が一番楽しみだよな」
「……確かに」
それには、俺も心から同意する。
おやつは、言わば俺達八人のみに許された特権だ。
他の孤児の子供達には、それはない。
『飴と鞭』の『飴』と言うわけだ。
皆には悪いとは思うが……。
けれど、仕方が無いんだ。
実は、前に一度、こっそりと下の子達にお菓子を分けた事がある。
そうしたら、院長にめっさ怒られた。
『他の奴らまで真似したらどうするんだ!』とーー。
ここでは、『善』が『悪』、『悪』が『善』なのだ。
良かれとした事だが、そのせいで、俺からお菓子を貰った子達まで怒られてしまい、本気で申し訳ない事をしてしまった。
この国では、今までの常識が、一切通用しない。
だからこそ、自分自身を見失わないように、一層気を引き締めようと、その時新たに思った。
「あ~あ、早く俺も一人前の暗殺者になって、人を殺したよ」
「あ、はは」
ミハエラが、事も無げに言う。
こう言う会話が、一番返事に窮する。
ミハエラは、いい子だと思う。
俺より二つ上で、兄貴肌で、ちょっとガキ大将っぽい所もあるが、面倒見もよく仲間思いで……。
けれど、環境が人を作る。
洗脳されてるのもあるが、こう言った事を平気で言ってくるので、俺としても、非常に反応に困るのだ。
それからも、ミハエラと談笑をしつつ、マイラ先生を待つ。
そして、二十分後、マイラ先生が食堂に戻って来ての第一声。
「カエル。院長先生がお呼びです」
えー?おやつはー?
名前の発音ですが、カエル↗ではなく、カエル↘と読んで下さいね?
カエル↗だと、『蛙』になりますから(笑)
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