秘話~神々の事情~
大地震で亡くなった人間達の『転生テスト』が終了し、皆が【魂魄化】した真っ白な世界で、十二の人影が、円卓を囲っていた。
その内の一人ーー黒紫の髪をオールバックにしたーーリュシエクスが、切れ長の双眸を周囲へ向け、口を開いた。
「この度は、我が世界の為にお集まり頂き、誠に有難う御座います」
その姿は、先程までとはうって変わり、ボソボソとした喋り方はなりを潜めて、ハキハキとした喋りに。
背筋はピンと伸ばされ、前に垂らされたボサボサの髪を後ろに流して、精悍な顔を覗かせていた。
「早速ですが、お手元にある『テスト用紙』を手にして頂き、皆様に選考して頂きたく存じます」
この場に集まるは、他世界の主神達。
無論、『世界』と言うのは星の数程居るので、この場に集まってるのは、ほんの一握りの主神のみである。
選考会に呼ばれるのは、『クジ引き』で決まる……らしい。
『クジ引き』で洩れた他の主神達が、落胆したとかしなかったとか。
総じて、神とは暇なのである。
「ふぉっほっほ。任せなさい。おもしろ……ではなく、真っ当な者を選ぶとしよう」
白髪に腰まで伸ばした白髭を撫でながら、神様然とした老神が言う。
「ええ。お願いしますね」
リュシエクスは苦笑しつつも、老神に頭を下げる。
この中では、リュシエクスはまだまだ若い神だった。
早速とばかりに、老神を初め、十二の神々が『テスト用紙』に目を通す。
「百問もあるのかい?」
「幾つか意地悪な問題もあるな」
「タイ……ヘン……」
「性格が表れとるの!イヒヒ!」
神達は、各々好き放題言う。
因みに、転生者の選別には、別に『テスト』でなくてはいけないと言う決まり事はない。
今回はそうなっただけで、その都度、方法は変わってくる。
それを決めるのは、当然神だ。
二度言おう。神は暇なのである。
「これでも、絞った方なんですけどね」
リュシエクスは、苦笑混じりに答えた。
「まあ、記憶を保持して転生させてやるのだから、これ位は乗り越えてもらわんとな。……お!これなんてどうだ?Q3の『試験官の第一印象は?』と言う問いに対し、『1.イケメンでカッコイイ』と答え、その理由が『タイプです』だそうだ。良かったの!モテて。ふぉっほっほ」
「…………止めて下さいよ。明らかなおべっかじゃないですか」
老神にからかわれ、眉を顰めるリュシエクス。
「わっかんないわよ~?そう言うのが好きな子だって居るわけだし」
他の神も、顔がニヤけている。
「はぁ~……確かにそう言った方も居ますが……皆さんもご存知の通り、この用紙には、自分の心を偽って書く事は出来ません。現に、色が赤いじゃないですか」
神様の不思議パワーである。
リュシエクスは、最初に『素直にお答え下さい』と言った。
それは、こう言った理由からである。
当然、『受験者』達には気付かれない仕様だ。
「むぅ~……つまんない男ね。枯れてるんじゃないの?」
「はいはい。枯れても何でもいいですよ。それよりも、さっさと決めて『主様』にご報告しなくては」
『主様』と言う言葉に、弛緩した場に、僅かに緊張が走る。
「うむ。確かにの。誰を転生させ、誰にどんな能力を与えるかを見極めねばなるまい」
「だにゃ!特に、『誰にどんな能力を与える』かが重要だにゃ!」
「おう!俺様達は、基本地上にはあまり深く干渉しないからな。予め能力を決めとくのは、重要な事だ。適当に決めた日にゃ、どうなるか分かったもんじゃねーからな!」
「そうね。私の所は、成人年齢に達した者に、【祝福】と称して、その者に合った能力を渡すんだけど……ぶっちゃけ、めんどいのよねー」
「儂の所は、そう言った心配はないな。レベルやらステータスなんてものはないから、純粋に個人の能力だけが物を言う世界じゃ。寧ろ、何でもかんでも神を頼るなと言いたい」
「ああ。俺様んとこも似た様なもんだぜ?」
そんな談笑をしながらも、皆手は止めない。
良さそうな人物が居れば、それをリュシエクスに渡し、合否を委ねる。
何だかんだ言っても、仕事は出来るのだ。
余談だが、この用紙の中には、人ではない者も混じっている。
つまりは、動物や昆虫、植物などだ。
そう言った者達は、当然字も書けないからテストは免除。
転生させるかは、完全に神々の気分任せだ。
転生には、次の二つがある。
・記憶を保持して異世界に転生。
・記憶を消して、異世界(または現世界)に転生
それ以外は……まあ、言わなくても分かるだろう。
それに加え、記憶保持者の転生者には、どんな能力を与えるかも決めないといかず、意外にもやる事は多くて、神様も大変なのだ。
閑話休題。
「所で、リュシエクスや。其方は特に気に入った者はおらんのか?」
老神が、リュシエクスに話を振る。
リュシエクスは、少しだけ考えた素振りを見せ、
「……この者達が、若干気になりますね」
そう言って、二枚の用紙を、他の神々に見せた。
「ほう……その理由を聞いても?」
「ええ。この二人だけが、私の『偽りの姿』に惑わされなかったので」
「へえー……」
その言葉だけで、他の神々は、リュシエクスが何を言いたいのかを理解する。
「『偽りの姿』とは、あのダッサイ恰好か?」
「ダッサイとは失礼ですね。……まあ、否定はしませんが、そうです。それに、【神気】もかなり抑えてた筈なんですけどね。特にこの……」
リュシエクスが、二枚の内一枚を指差す。
「この者は、明らかに私の【神気】を感じ取った節があります」
それで、益々神達がその用紙に記された人物に興味が湧いた。
「……成程の。希に感の鋭い者がおるが、この者は、それを上回っとるかもしれんな」
「はい。しかもそれだけではなく、ご覧の通り、この二人の用紙には、『赤い回答』が一つもありません」
「ううむ……」
老神を初め、神々達がその事実に押し黙る。
人は、どれだけ素直に生きようとも、何処かで嘘が混じる生き物だ。
特に、目の前に美味しい餌があれば、どうにかしてそれを手に入れようと模索する。
それが例え、どれだけ正直者としてたとしても、誘惑には抗えないのが現実だ。
人は楽をしたがる。
甘い汁を欲する。
それは、言わば『人間』の性である。
なので、ある意味これは『異常』であった。
「ですから私は、此方の彼に、私の力の一部を与えようと思っています」
『ッ?!』
しかし、リュシエクスの次の言葉に、他の神々は息を呑む。
「お主…………それは本気か?以前にもそうやって、危うく『世界が滅び掛けた』ではないか」
他の神々も、「うんうん」と頷く。
「マタ……シッパイ、スル……カモ……?」
「かもしれませんね。ですが、お忘れですか?私が前回も今回も、『転生者を受け入れる』のは、ある目的の為ですよ?」
「う、うむ。それは分かっとるがの……」
「前回のは、確かに失敗しました。ですが、まだ諦めた訳ではありません」
「きゃは☆でもでも~、それでもまた失敗したら目も当てられないんじゃない~?」
「返す言葉もありませんね」
リュシエクスは苦笑する。
「それでも、です。それに、彼の回答は、個人的に好感が持てます。自分の黒い部分も、余す事なく私に見せてくれた。もしかしたら、それこそ直感的に、嘘を書く事が悪手だと思ったのかも知れませんね」
「…………成程。其方がそこまで言うなら、最早何も言いわんよ。其方の世界じゃ、好きにせい」
「有難う御座います」
それを最後に、この話は終わりとして、神々は、転生者とそうでない者との仕分けに戻るのであった。
そこには、白く眩く光る玉が無数に浮かんでいた。
リュシエクスは、一つの球体の前に立つ。
他の神達は、既に自身の世界へと戻っていた。
リュシエクスは、その球体に触れ、呟く様に囁く。
「……私を失望させないで下さいね」
それに呼応する様に、球体が一際眩く光を発したのだった。
拙作をここまで読んで下さり、有難う御座いました。
少しでも、多くの人に楽しんで貰える様、今後も精進していきます。
二章は、暫くお時間をいただきます。悪しからず。




