1-8 ジュエリー・ホワイトタイガーの親子
俺がそっと目を開けると、そこには変わらず、母虎を守ろうとする、五匹の仔虎の姿があった。
俺は苦笑すると、早速、作りたてホヤホヤの魔法を発動しようと、両手を母虎に向ける。
その俺の行動に、五匹の仔虎がピクリと反応する。
俺は大きく息を吸い込み、口を開いた。
「〈息吹の灯火〉!」
別に言葉にしなくても良いんだが、まあ…………雰囲気?(笑)
すると、母虎の体を、淡い光が包み込む。
それに驚いた仔虎が、母虎の方を振り向き、「キャンキャン」と泣き叫ぶ。
淡い光が、母虎の体に吸い込まれる様に、徐々に収束されていく。
光が収まる。
母虎を見ると、僅かに体が上下しているのが見て取れる。
どうやら、上手くいった様だ。
俺は、ホッと胸を撫で下ろす。
仔虎達も、その事に気付いた様で、母親の周りをピョンピョン飛び跳ねたり、体を擦りつけたりして、喜びを表現している。
そんな仔虎達に水を差す様で悪いが、俺はどうしても言わずには居られない事があった。
「あー……嬉しいのは分かるが、そろそろ移動した方が良いと思うよ?」
血の匂いに惹き付けられて、魔物がやって来るかもしれない。
寧ろ、今まで見つからずにいたのが奇跡に近い。
なので、出来れば一刻も早く、この場を立ち去るべきなのだ。
俺はしゃがみ、出来るだけ怖がらせない様に、仔虎達に優しく言い聞かせる様に言った。
「……いい?今からここを離れるからね?お母さんを持ち上げるけど……危害を加えるつもりはないから安心して」
仔虎達は、分かってるのか分かってないのか。それでも、先程までの様に唸り声を上げる訳でもなく、ただジッと俺の顔を見ていた。
俺はそれを、一先ず理解したものと思い、〈風魔法〉を使って、母虎の体をゆっくりと持ち上げる。
俺がそんな行動をしても、仔虎達は、別段飛び掛ってくるでもなく、ジッとその様子を伺っていた。
俺は、ホッと安堵の息を吐く。
「着いてきて」
仔虎達にそう言って、俺は歩き出す。
数歩歩いて、チラリと後ろを振り向く。
五匹の仔虎は、一定の距離は空いてるが、ちゃんと着いてきてくれてる様だ。
俺は一つ頷くと、更に先を進む。
何度も後ろを確認しながら……。
程なくして、一本の巨大な木に辿り着く。
木の根元部分には、大きな洞があった。
ここは、以前『ジャンピング・ラビット』が塒にしていた。俺が討伐したが。
その中に母虎を入れ、俺も入る。
それなりに大きい母虎が入っても、まだ余裕がある程広い。
母親をーー恐らく、ジャンピング・ラビットが使用していたと思われる敷き詰められた草の上にーー下ろす。
五匹の仔虎も、少し警戒はしていたみたいだが、すぐに母親の元に寄り添う様に近付く。
「……と、ちょっと待っててね?すぐ戻ってくるから」
俺はそう言い残し、一度洞から出ると、すぐに戻ってきた。
傍には、〈風魔法〉で浮かせた草の束。
それを地面に敷き詰めると、もう一度母虎を浮かせ、その上に寝かせる。
前の草は外に放り捨てる。
ジャンピング・ラビットの匂いがついたままかもしれないしね。
動物は匂いに敏感だ。
安心して眠れないかもしれないと言う配慮だ。
俺は、母虎と仔虎達から離れ、木の壁に凭れ掛かる様に腰を下ろした。
母虎は、スヤスヤと気持ち良さそうに寝ている。
現在の時刻は、月や星の位置からすると、深夜一時を回った位か。
一応、分身体を置いてきたので、バレる心配はないだろう(〈分身〉は、レベルが分割される。分身には、スキルなどを本体が選んで付与する事が出来る)。
俺も、〈不眠〉スキル(任意)があるので、別に寝なくても、特に問題は無いが、せめて朝方迄には戻る必要があるだろう。
それから、一時間程して、母虎が目を覚ました。
最初、何がどうなっているのか、ここが何処だか分からず、母虎は目をパチクリさせて、周囲をキョロキョロ見渡す。
仔虎達は、そんな母虎に擦り寄り、甘えた声を出す。
母虎も仔虎に気付くと、目を細めて仔虎の無事を確認し、嬉しそうにしてる様に見える。
十分親子のスキンシップを堪能した後、母虎が不意に俺に顔を向けた。
正直、この後の事は、あまり深く考えていなかった俺。
一応、目が覚めた途端に襲われたら溜まったものじゃないから、距離だけは置いていたが……。
しかし、その心配も、杞憂だと直感した。
母虎の瞳には、知性が感じられたからだ。
「えっと……一応、ここに居れば安全だから」
試しに、そう声を掛けてみると、母虎が首を縦に動かし、首肯する。
うん。やっぱり、知能は高そうだな。
[精霊獣に格上げされた副産物なのか、精霊獣は総じて知能が高くなる傾向があります。ですから、ある程度なら、人の言葉を理解しても不思議ではありません]
だそうだ。
なるほどね。
なら、話が早くて助かる。
「一応傷も治ったし、もう大丈夫だと思うけど、念の為に、まだ暫くは安静にしといた方がいいよ?」
もう一度首肯する母虎。
仔虎達が母虎の真似をして首を振るのが、何とも微笑ましい。
「……じゃ、俺もう行くね?流石にそろそろ戻らないとマズいから。と、その前に……」
俺は、徐に立ち上がると、大樹に手を添える。
折角助けた命だ。
どうしてあんな大怪我を負ったか理由は知らないが、また死なれたら寝覚めが悪い。
出来るだけ長く生き延びて欲しい。
なので、この大樹に〈付与魔法〉で、体力・魔力・傷の回復魔法を与え、ついでに、六匹にしかこの大樹を認識出来ない様に、〈認識阻害〉も掛けておく。
出血大サービスだ!
「これからは、暫くはここを拠点にすればいいよ。この中に居れば、体力と魔力と、それからある程度の傷なら、少しずつ回復していくからね」
この大樹の効能を、母虎に説明する。
心做しか、母虎の目がキラキラしてる様な気がするけど…………気のせいかな?
「後は……」
俺は、〈異空間収納〉から、果物や生肉を取り出す。
「腹が減っては何とやら。狩りが出来ないと困るだろうし、取り敢えずこれだけあれば、一週間位は持つかな?」
森で取った果物や、食べられそうな魔物の肉などを地面に積んでいく。
「また様子見に来るからね。バイバイ」
最後に、六匹に手を振って別れの言葉を告げてから、俺は洞を出ようとしてーー仔虎の一匹が、俺の所に近寄ってきた。
どうしたのかと、下に視線を向けると、
「ッ?!」
その仔虎が、体を俺の足に擦りつけてきたのだ!
か、カワイイ……。
俺は恐る恐る手を伸ばす。
仔虎は逃げる素振りすら見せず、寧ろ、俺の手を舐めてきた。
それを皮切りに、他の四匹の仔虎も、俺の傍に寄ってくる。
ああ……癒される。
先程までは、ここまで近付く事は無かったと言うのに、かなりの進歩である。
こうして、俺はしばしの間、五匹の仔虎と戯れた。
母虎も止めなかったしね。
……………………結局、帰宅したのは日が昇る直前だったが、それは仕方が無いだろう。
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