表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ミンジェ課長の秘密  作者: Furi0804


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
5/12

第5話 うわさ

オフィスでは少しずつ、妙な噂が広がり始めていた。




休憩スペースで先輩社員たちが小声で話しているのが、ジミンの耳にも入ってきた。




「ミンジェ課長、イ会長の姪と近々婚約するらしいよ」


「え、本当? あの超クールな課長が?」


「うん。社長がかなり推してるみたい。もう何度か家族ぐるみで食事会を開いてるって話だよ。相手は26歳で、海外帰りだって」




ジミンはコーヒーを淹れながら、思わず手を止めた。


心臓が、ドクンと大きく跳ねる。




(……婚約? 会長の姪……?)




一瞬、由布院の湯気の中で見たミンジェの広い背中と、 夢の中でエレベーターに押しつけられた熱い感触がフラッシュバックした。




――でも現実は冷たい。




ミンジェは相変わらず、ジミンに対しては淡々と対応する。


由布院の出来事についても、一切触れてこない。





その日の午後、チームの先輩がジミンに近づいてきて、からかうように言った。




「ジミンちゃん、課長のことどう思う? あの人、結婚したら絶対に浮気とかしないタイプだよね。真面目すぎるくらい真面目でしょ」




ジミンは無理に笑顔を作って「そうですね……」とだけ返した。


でも胸の奥がざわついて仕方ない。




(もし本当に会長の姪と婚約するなら…… あの出来事は、ただの事故として忘れられてしまうんだろうか)




あの背中で守ってくれたことも、私だけが毎晩夢で見て悶えてることも。




(……全部、なかったことになる?)




夕方、仕事を終えてエレベーターに向かうと、 ちょうどミンジェとばったり出くわした。


二人きりになる瞬間、ジミンは我慢できずに口を開いた。




「課長……最近、会長の姪との婚約の噂が立ってるって聞きましたけど……」




ミンジェはエレベーターのボタンを押しながら、表情一つ変えずに答えた。




「噂だ」




短い一言。


ジミンはさらに言葉を続けた。




「……本当じゃないんですか?」




ドアが開くのを待って、ミンジェはようやくジミンに視線を向けた。


その目はいつものように冷静で、ほとんど感情が読み取れない。




「今は、そんな話をするつもりはない。君は自分の仕事に集中していればいい」




エレベーターのドアが閉まる。


ジミンは壁に寄りかかりながら、唇を軽く噛んだ。




(自分の仕事……か)




ミンジェは、あの日のことは「業務の一環」だと言った。




(ただの上司としてってこと? 私だけが、あの背中の感触と夢で毎日ぐちゃぐちゃになってるのに……)




ミンジェの冷たい対応と噂が ジミンの胸の中で重く絡み合って、ますますわけがわからなくなっていた。




婚約、会長の姪、海外帰り。


断片的な単語が、意味を持たないまま並んでいく。




ミンジェはいつも通り態度を崩さない。視線も動かさない。何も説明しないまま、空気の中に距離だけを固定している。




それが、いちばん腹立たしい。


ジミンは自分でも気づかないまま、拳を軽く握っていた。




(私が気にすることじゃない)




そう思おうとするたびに、別の感情がその上に被さってくる。




由布院の朝。


湯気の向こうで一歩前に立った背中。




あのときの「守られた」という感覚だけが、一番鮮明に残っている。




そして夢。


あれは確かに自分の中で勝手に膨らんだものだ。


ミンジェが関与しているわけではない。


それは、分かっている。


分かっているのに、身体のほうが納得していない。




(また、今夜も夢を見そう)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ