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ミンジェ課長の秘密  作者: Furi0804


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30/32

第30話 3ヶ月目

契約は今日で終わる。


12月の冷たい風が、夕方のソウルの街を静かに吹き抜けていた。




地下鉄を降り、駅の改札を出た瞬間から、ジミンの心臓は激しく鳴っていた。




ミンジェから来たメッセージは、ただこれだけだった。




>明日は、うちの近くまで来られるか。




(家……?課長の家にまた……?)




昨日の夜はなかなか寝付けなかった。


何度も服装を選び直し、いつもより大きめのバッグにコンタクトケースと最低限のメイク道具を入れては出してを何度も繰り返した。


万一に備えて……という思いと、「まさかそんなことないよね」という理性が、胸の中で何度もせめぎ合っていた。




ジミンはマンションに向かう道を歩きながら、バッグの中のコンタクトケースとメイク道具を何度も触っていた。




マンション前に着くと、ミンジェがすでに立っていた。


シンプルなコート姿。


街灯の光の下で、いつものクールな顔が少しだけ柔らかく見えた。




ジミンの身体は勝手に期待してしまった。




(部屋、上がるのかな……?)




でもミンジェは静かに言った。




「食事に行こう」




ジミンは一瞬、返事を忘れた。




(……上がらないんだ)




胸のどこかが、ほんの少しだけ落ちた。


自分でそれに気づいて、耳が熱くなる。




けれど同時に、別の場所が静かに温かくなった。




仕事ではない。


契約終了の確認でもない。




これは、たぶん。


ちゃんとした、デートだった。




近くの静かなレストランで食事をした後、二人は漢江沿いの遊歩道を歩いた。




冬のイルミネーションが、川面に揺れて輝いている。


ジミンはちらりと、ミンジェの横顔を見上げた。


ミンジェはゆっくりと口を開いた。




「仮の婚約者契約は、今日で終わりだ」




ジミンの胸が、跳ね上がった。


血が流れるどくどくという音が耳に響く。


ミンジェは立ち止まり、彼女の目を見つめた。




「だから、ここから先は、仮ではない」




彼はコートのポケットから小さい箱を取り出した。


中から出てきたのは、細めのシンプルなリング。


仕事中にも自然につけられる、控えめで上品なデザインだった。




ジミンは息を飲んだ。




「ジミン」




ミンジェの声は低かった。




「俺の婚約者になってほしい。今度は、仮ではなく」




ジミンは何度も瞬きをした。


涙で、目の前の光が滲む。


言葉にならず、何度も小さくうなずいた。




ミンジェは、安心したように小さく笑った。


それから彼女の左手をそっと取り、ゆっくりと指輪をはめた。


冷たい金属の感触と、ミンジェの指の温かさが同時に伝わってくる。




「……どうして、こういうのが好きだって分かったんですか」




ジミンの声が震えた。


ミンジェは少しだけ目を細めて、答えなかった。


それから、2人は手をつないだまま、しばらく川沿いを歩いた。


ふいに、ミンジェが言う。




「寒いな。戻るか」


「どこへ?」


「マンションに」




ジミンは小さく息を飲んだ。




「君が望むなら、ですか?」




ミンジェは足を止めた。


つないだ手に、少しだけ力がこもる。




「違う」




ミンジェは初めて、はっきりと彼女の目を見て言った。




「一緒に帰りたい」




その言葉は、低く、掠れていて、


これまで抑え込んできたすべての想いが込められていた。


ジミンは笑顔で答えた。




「……はい」




二人は並んで、冬の道を戻っていく。


ジミンの左手の指輪が街灯の光を小さく返した。




3ヶ月という契約は、今日で終わった。


そして、本当の始まりが、静かに動き出していた。




--- Fin ---



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