第29話 同じ夜
仮婚約の契約は明日で終わる。
ジミンはアパートの部屋で、静かに息を吐いた。
あの緑地での夜から、もう1週間が経っていた。
あれだけ言葉をぶつけた。
ミンジェも、初めて自分の過去を話してくれた。
あれは、心からの本音だったと思う。
それなのに、毎日会社で顔を合わせても、職場では何事もなかったように振る舞っている。
資料の確認、短い指示、淡々とした「お疲れ様」。
じゃあ、あの夜は何だったのか。
(明日、課長は何を言うつもりなんだろう)
ジミンはアパートの窓を少しだけ開けた。
十二月の冷たい空気が、頬に触れる。
終わるのかもしれない。正しく、静かに、契約通りに。
そう思うだけで、涙が、こぼれそうになる。
温かくて、強い、ミンジェの背中。
あれは夢じゃなかったはずなのに、
今はまるで遠い幻のように感じる。
ジミンは窓枠に額を押しつけた。
冷たいガラスが、熱くなった肌を冷ます。
(なんだか、すごく遠い……)
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同じ夜、ミンジェも自宅マンションの窓辺に立っていた。
外の夜景を眺めながら、静かに、深く息を吐く。
ジミンと顔は合わせる。
仕事もする。
でも、以前のようには戻れない。
決定的な話はまだしていない。
職場だから。
契約終了日が近いから。
言うならその日に、ちゃんと言うべきだから。
スマホを手にとる。
指が震えた。
>明日は、うちの近くまで来られるか。
短いメッセージ。
送信して、ミンジェはコーヒーテーブルの上に置かれた小さい紙袋に目を落とした。
あと一日。
この仮の契約が終わるまで、あと一日。
答えが、明日出る。
彼は静かに目を閉じた。
胸の奥で、抑えきれない熱が、静かに、激しく燃え続けていた。
痛いほどに。




