第25話 ラーメンと卵
昼休み、コーヒーを買いに出かけた近くのカフェで、ソヨンと鉢合わせた。
今は顔を合わせたくないけれど、露骨に避けるわけにもいかない。
あたりさわりのない世間話をしているうち、ソヨンがふと声を落とした。
「うわさで聞いたんですけど、ジミンさんはミンジェ課長と付き合ってるんですか?」
「えっ……」
(探られてる……?)
ジミンが固まると、ソヨンは慌てて手を振った。
「ごめんなさい。失礼なことを聞きました。ミンジェ課長かっこいいですもんね。仕事できるし、物腰も落ちついているし」
そして、ふと軽い笑みをもらす。
「でも、完璧すぎて疲れちゃいません?
ジミンさんの前だと違うんでしょうか」
ジミンは言葉に詰まった。
(どういうこと……?)
ソヨンは周りを確認してから、少し恥ずかしそうに笑った。
「私は夜中に辛ラーメンを鍋のまま食べながら、一緒に映画を見るような人が好きなので・・・・・・。
留学してたときの彼がそんな感じでした。親は絶対に嫌がりますけど」
ジミンはコーヒーカップを手に、固まったままだった。
(……え?)
「ごめんなさい、余計なこと言っちゃいましたね」
そこまで言って、ソヨンは照れくさそうに言葉を切った。
ソヨンと会社に戻ると、エントランスで背後から明るい声が飛んできた。
「ソヨンさん、昼まだですか? コンビニ行きますけど」
声の主は、由布院の温泉で乱入してきたあの若手社員――パク・ジフンだった。
ソヨンは一瞬だけ目を丸くして、それから自然に笑った。
「いいですね。今日は辛ラーメンにしようかな」
「卵も買います?」
「……卵入れるの、大好きなの」
「俺はチーズ派だな〜」
ソヨンは軽く会釈し、ジフンと並んでエントランスを抜けて行った。
軽い笑い声が響く。
ジミンはその後ろ姿を、ただぼんやりと見つめていた。
(完璧すぎて疲れちゃう、か)
上品で完璧に見えていたソヨンが、一瞬で普通の若い女の子に戻った気がした。
彼女もまた、誰かが決めた場所に置かれそうになっているのかもしれない。
オフィスに戻ると、ジミンは自分のデスクで小さく息を吐いた。
(……私、勝手に焦って、勝手に傷ついて……)
ソヨンがいるから苦しいのではない。
周りが勝手に騒ぐから苦しいのでもない。
ミンジェ課長が、面倒で、正しくて、ずるくて。
それでも、どうしようもなく好きだから苦しいのだ。
そう認めた瞬間、ジミンの中で、ひとつだけ言い訳が消えた。
ジミンが向き合わなければならない相手は、最初から一人しかいなかった。




