第23話 正しい言葉
ソヨンがまとめ直してきた資料のレビューが行われた。
ミンジェは資料に目を落としたまま、淡々と口を開いた。
「よくできている」
ソヨンが柔らかく微笑む。
「ありがとうございます」
ジミンはその一言だけで、体が固まった。
(……よくできている)
ミンジェは自分に対しても、必要な評価はしてくれる。
けれどそれはいつも、
「問題ない」
「ここだけ直せ」
「無理に残業するな」
そんな、確認と指示の形ばかりだった。
なのに、ソヨンに向けられた「よくできている」は、ただの褒め言葉のように聞こえた。
その違いが、ジミンの胸を鋭く刺した。
その日の夕方、ジミンのスマホが震えた。
送信者はミンジェ。
>ソヨンさんには普通に対応してくれ。
>上から見られている案件でもある。
>君に余計な負担がかからないようにしたい。
短いメッセージ。ジミンは画面を見つめたまま、指が冷たくなった。
(普通に対応してくれ……?
君に負担がかからないように……?)
ミンジェの言うことは、たぶん正しい。
ソヨンは直属の部下ではない。
会長の姪で、上から預かっている相手だ。
失礼があってはいけないし、必要以上に冷たく見えてもいけない。
それくらい、ジミンにも分かっている。
分かっているのに、胸が痛かった。
ミンジェにとっては「ジミンを守るための配慮」だったのかもしれない。
しかしジミンには、それがただの「一方的な決定」にしか感じられなかった。
ジミンが今、普通にできる状態かどうか。
それを、ミンジェは一度も聞いてくれない。
(……私は、ただの部下で。
婚約者としてさえ、仮なんだ)
その夜、ジミンはベッドの中で何度も寝返りを打った。
ミンジェの「普通に対応してくれ」という言葉が、
頭の中で何度も繰り返されていた。




